癒やし

「っ!」


 オルシウスは目を開き、眠りから目覚める。


 全身にじっとりと嫌な汗をかいていた。


‘あの夢をまた、見たか……’


 思わず自分の身体の臭いを嗅ぎ、血の臭いがしないことに安堵の息をつく。


「オルシウス様、大丈夫ですか」


「!」


 はっとしてそちらを見れば、ベッドのそばに置いた椅子に腰かけたルカがいて、オルシウスの右手を両手で包み込んでいた。


「……どうして」


「昼頃、目覚めたので廊下に出ましたら、ギルヴァにオルシウス様を起こして欲しいと頼まれたんです。それで寝室に入ったら、ひどくうなされていらっしゃったので……」


「ギルヴァが……?」


 ギルヴァに、昼には起こしてくれと頼んでいたことを思い出す。


‘余計な気を回したのか’


「動かないでください」


 ルカはサイドテーブルに置いた桶に布をつけ、ベッドに身を横たえたオルシウスの身体に浮いた汗を拭う。


「汗を拭いてくれてたのか?」


「はい……。何度か呼びかけましたが、起きられなかったので、出来る事をと思って」


「前にも……こういうことが、あったな」


「あの時は稽古終わりでしたね。のどは渇いていますか?」


「少し……」


「あ、私がやります」


「すまない」


 ルカは水差しから水を注ぎ、渡してくれる。


 ぐっと一気に飲み干した。


 渇いた身体に水のひんやりした感触がゆっくりと染みこみ、身体の隅々にまで広がっていくのが分かる。


「……どんな夢を見ていたのか、聞かないのか?」


「オルシウス様がそれを望むのなら、聞きます」


「……いや」


「でしたら聞きません。お食事はどうされますか?」


「食事か。お前はもう食べたのか?」


「いいえ。これからです。お許しを頂ければ、オルシウス様と頂きたいと思いまして」


「なら、ここで食おう」


「分かりました。今、アニーに伝えてきますね」


 ルカが席を立ち、部屋を出ていく。


 さっきまでルカに握られていた右手を見つめる。


 彼女の手の感触が今も残っていた。


 柔らかく、そして優しく、温かかった。


 そして彼女の残していった、甘い香り。


 ルカの姿を思い浮かべると、ささくれ立った心が癒やされる、そんな気がした。

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