第17話 ガレットの逃亡【九条side 】
羽柴と別れた後、俺は公園の中をとぼとぼと歩く。
くそ、ようやく話すことができたってのに、何だか気を使わせたみたいになって。ちゃんと謝ることもきできなかった。
苛立っていると、ガレットも俺の様子が変だって思ったのか、やたらこっちを見てくる。
愛犬にまで心配かけて、何やってるんだろう。
「地球、滅びないかなあ…………」
物騒な言葉を漏らしながら、近くにあったベンチに腰を掛ける。
いつもならこんな風に休憩なんてしないけど、もうのんびり散歩する気分じゃないんだ。
だけど項垂れていると、ガレットがすり寄ってくる。
「くぅん、くぅん」
「……ガレット、今はそっとしておいてくれ」
足に頭をくっつけてくるガレットを押しやって、再び羽柴の事を考える。
そういえば羽柴、ガレットの写真が欲しいとか言ってたけど、あれも俺に気を使って言ってただけたったのかなあ……。
「ワンワンワン!」
「ガレット、うるさい」
ガレットの頭を押さえて、大人しくさせる。
えーと、どこまで考えたっけ。そうだ、どうして羽柴がガレットの写真を欲しいって言ったかだったな………。
「ワン! ワンワンワン、ワーン」
羽柴の犬嫌いを思うと、話題作りの為に言ってくれただけで、本当は欲しくなんてない……
「バウバウバウ! ワオーン!」
「ああ、もう、うるさいって言ってるだろ!」
人がこんなに悩んでるのに、何やってんだよ!
俺は立ち上がって、なおもすり寄ってくるガレットを振り払う。
「だいたい、お前のせいでこんなことになったんだからな。さっきだってお前がじゃれついたから、ますます羽柴を怖がらせちゃったじゃないか! 悪さばかりするなよな!」
「ク、クゥン」
声を張り上げると、さっきまで寄ってきていたガレットはビクッとしたように身を縮めた。
だけどすぐに、怒鳴ってしまったことを後悔する。
何をやってるんだ俺は。ガレットは別に悪くないじゃないか。こいつはただ、羽柴とじゃれ合いたかっただけ。それで大丈夫かどうか見定めなきゃいけないのは、飼い主である俺の責任なのに。
「ごめん。お前に当たっても、仕方がないよな。悪いのは、全部俺だよ」
なんて謝ったけど。ガレットは悲しそうな目をしながら、俺を見上げている。
そんな顔するなって。もう怒ってないからさ。
「……いつまでもこうしてても仕方がないか。行くぞガレット……ガレット?」
ベンチから立ち上がってリードを引いたけど、ガレットはピクリとも動こうとしない。
もしかして、怒ったから拗ねてるのか?
リードをいくら引っ張っても、ガレットは動こうとしない。
「おいガレット、どうしたんだ? さっきのはちょっと言い過ぎたよ。謝るから、とりあえず家に帰って……」
だけどもう一度リードを引っ張ったその瞬間、ガレットは思わぬ行動に出た。
リードはガレットの首輪に繋がっているけど、俺が引っ張ると同時に、ガレットは身を低くして、スポンと首輪が抜けちまったんだ。
しまった、やられた!
これはガレットがうちにきたばかりの頃、よくやっていたイタズラ。犬忍法、縄脱けの術だ。
これをやられると首輪が外れて、自由になったガレットがあっち行ったりこっち行ったりして大変だから気を付けていたのに。
と言うか、最近はガレットだってこんな事しようとしなかったのに、どうしていきなり。
そしたらガレット、驚く俺に背を向けて、走り出した。
「あ、こらガレット! 待て、どこ行くんだ!?」
「ワウッ! ワウーッ!」
「ガレット、待ってったら。ガレットー!」
追いかけたけど、ガレットはあっという間に公園から出て行っちまった。
おいおい、ヤバいって。外は車だってビュンビュン走ってて危ないのに、どうして急にこんな……いや、原因は明らかだよな。俺が八つ当たりして怒鳴ったから、ガレットはきっとショックだったんだ。
「ガレット。おーい、ガレット待てー!」
俺も慌てて公園を出たけど、そこには既にガレットの姿はなかった。
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