第13話 羽柴ってもしかして……【九条side 】

 こ、これはいったい、どういう状況なんだ?


 目の前で起こっている事態が飲み込めずに、俺は混乱していた。


 会計をしていたら突然羽柴の悲鳴が聞こえてきて、行ってみたら羽柴がトイプードルと遊んでいる。

 遊んでいる……で、いいんだよな。羽柴、青い顔をしながら叫んでいるけど、これが羽柴なりの感激の仕方なんだしな。


 そしたらじゃれ合ってる二人に、今度はガレットまで乗っかって。そしたら羽柴はさらに悲鳴を上げて……待て待て、本当にテンション上がりすぎて叫んでるだけなのか?


 そんなことを考えていると、男性店員さんが声をかけてくる。


「あの子、君の友達だろ。早く助けないと、怖がってるじゃないか」

「あ、いえ。あれは別に怖がってる訳じゃなく、遊んでるだけで……」

「は? 何を言ってるんだ。あの子泣いてるじゃないか」

「えっ?」


 確かに泣いていた。


 まるで小さな子供のようにギャーギャー叫びながら、目に涙を浮かべていた。

 それはどう見ても楽しく遊んでいるというよりは、怖がってるように見える。

 けど待て。羽柴は『超』が付くくらいの犬好きだよな。なのに何で怖がっているんだ?


 困惑して動けずにいる俺をよそに、店員さんがトイプードルとガレットを引き剥がす。

 トイプードルは飼い主の女性に返されて、女性は「どうもすみません」と頭を下げている。

 そしてガレットは俺の元へと連れてこられて、リードを握らされた。

 そして。


「お客様。彼女さん、犬が苦手なら、アナタがしっかりしておかないと」

「は、はい。すみません……」


 返事をしながら、混乱していた頭の中を整理する。

 今店員さん、何て言った? 彼女って、別に俺達はまだ付き合ってるわけじゃ……って、違う違う。

 問題なのはそこじゃなくて。


「は、羽柴、大丈夫か?」


 俺は床に倒れていた羽柴に駆け寄ると、手を引いて起き上がらせる。

 羽柴は涙で顔を濡らしながら「うん」と弱々しい声で答えたけど、嗚咽を漏らしていて、見ていて胸が痛む。

 そしてその姿に、さっきの店員さんの言葉がよみがえった。

 まさかとは思うけど、羽柴って……。


「な、なあ羽柴」

「ひっく……な、なに?」

「ひょっとして羽柴って、犬が苦手なのか?」

「──っ! ちっ、違……」


 羽柴は何か言おうとしたその時。


「ワオーン!」

「きゃーっ!?」


 大人しくさせていたガレットが、突然羽柴にくっついてモフモフし始める。

 あ、これは俺が落ち込んだり悩んでたりした時、ガレットがよくやってくれる癒し行動だ。

 モフモフされると気持ちよくて、ザワザワしてた心が落ち着いてくるんだよなー。


 って、待て! それは俺が犬好きだからだ!

 信じられないけど、もしも本当に羽柴が犬が苦手だとしたら。

 ガレットは羽柴を落ち着かせようとしているのかもしれないけど、犬が苦手なやつにこんなことをしたら……。


「も……もうだめ……」 


 ガレットにモフモフされていた羽柴だったけど、まるで糸が切れた人形のように力を失って、再び床に倒れた。


「羽柴ぁ──っ!?」

「ワオォォォォンッ!?」


 気絶した羽柴を前に、俺とガレットは絶叫を響かせるのだった。




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