第23話 暖かな温もり

 窓の外に目をやると、相変わらず雨は強く降っていて。私はそれを眺めながら、温かなココアを口に運ぶ。


 ここは九条君のお家のリビング。

 ガレットくんを助けた後、私はすぐさま九条君のお家に招待されの。


 だって全身びしょ濡れだったんだもの。このままだと風邪引いちゃうものね。

 というわけで、近くにある九条君のお家に連れてこられたんだけど、初めてのお宅訪問。

 何のお土産も用意してないけど大丈夫かななんて心配になったけど、有無を言わさずに強制連行。


 で、連れてこられてからすぐに熱々のお風呂に入れられて、今はこうしてココアを飲んでるってわけ。

 あ、そうそう。お風呂に入った後の服はどうしたかと言うと。


「亜子ちゃんしっかり暖まった? 服のサイズは合ってる?」

「はい、大丈夫です」


 ココアの入ったカップを持ちながら、ペコリと頭を下げる。

 話している相手は、九条君のお姉さん。

 背が高くて美人な高校生のお姉さんで、ずぶ濡れでやって来た私達を見てすぐにお風呂を沸かしてくれて、服まで貸してくれたの。


 ちなみに九条君は私と入れ替わりに、ガレットくんと一緒にお風呂に入ってる。

 私としては、先に九条君達に暖まってもらいたかったんだけど。


「羽柴が先だ」

「亜子ちゃんが先!」

「ワンワンワン!」 


 ってな感じで九条君とお姉さんとガレットくんにトリプルで言われて、先にお風呂いただきました。


「亜子ちゃん、災難だったわね。けどありがとう、ガレットを助けてくれて」

「いえ、私は別に。それにああなったのはたぶん、私のせいだと思いますし」

「へ? 亜子ちゃんのせいって、いったい何をしたの?」

「えっと、それは……」


 キョトンとされて、言葉につまる。

 今まではガレットくんを助けるのに夢中になっててスルーしてたけど、元々私が嘘なんてついたから、九条君とガレットくんはケンカしたんだと思う。

 はっきりとは言ってくれなかったけど、あの時の九条君の態度を見てたら、無関係じゃないことくらいわかるもの。


「実は私、本当は犬が苦手なんです。けど、つい見栄をはって犬好きだって嘘ついちゃって」


 って、これだけ聞いても、何が何だか分からないよね。

 案の定お姉さんはよく分かっていないみたいだったけど、すぐにまたクスリと笑う。


「何だか分からないけどさ、気にしなくて良いから。今回のはちょっと運と、色んなタイミングが悪かっただけだもの。みんな怪我もなく助かったわけだしね」

「でも……」

「それに好きな男の子に、少しでもよく見てもらいたいって思うのは当然だもの。見栄を張っちゃう気持ちも分かるわ」


 そう言われても、やっぱり気にしちゃう……。

 って、お姉さん。今さらっと、とんでもないこと言いませんでした!?


「あ、あの、お姉さん。私は別にその、す、好きと言うわけでは……」

「あら違うの? 友明を見てる時の亜子ちゃん、好き好きオーラ全開に見えたんだけどなー」


 ギャー、私そんなだったんですかー!?


 これはもう完全にバレてる。

 弓香ちゃんにしか教えていない、トップシークレットだったのに。よりによって九条君のお姉さんにバレちゃうなんてー!


「ふふふ、真っ赤になっちゃって、可愛い。安心して、友昭にはナイショにしておくから」

「あ、ありがとうございます。でも、良いんですか? 私なんかが九条く……友昭くんのことを好きだなんて」 

「何言ってるの。亜子ちゃんなら大歓迎よ。だって怖いのを我慢して、ガレットのことを助けてくれたんでしょ。私義妹にするなら亜子ちゃんみたいな子が良いなー」

「い、義妹!?」


 義妹ってそんな気が早い。お姉さん、絶対にからかって楽しでますよね!

 あ、でも悪い気はしないかも。


「ニブチンでダメダメな弟だけど、これからも仲良くしてあげてね。それからガレットのことも。今はまだ苦手かもしれないけど、亜子ちゃんならきっと仲良くなれると思うから」

「は、はい。頑張ってみます」


 ガレットくんと仲良くかあ。色々あったけど、やっぱりそうなりたいなあ。

 最初は九条君に好かれたいっていう不純な動機だったけど、一緒にピンチを乗り越えた仲なんだし、ガレットくん良い子なんだもの。

 苦手意識をなくして仲良くなりたいって、今は心から思う。


 それからお姉さんはココアのお代わりを用意すると言いキッチンに行って、私は一人リビングに残る。

 だけど……ふぁ~あ。あくびが出てきた。


 たくさん動いたから疲れて、冷えてた体が暖まって、眠くなってきたよ。

 けど、人様のお家で眠るわけには。眠る、わけには…………。


 起きてなきゃいけないのに、意思に反して意識は次第に薄れていく。

 このまま眠ったら、良い夢見られそう……って、あれ?

 何だか暖かいものが、膝の上に乗っかったような。まあいいか。


 ふさふさとした謎の温もりを感じながら、私は眠りに落ちていく……。


「亜子ちゃん亜子ちゃん……って、あらあら。仲が良いこと。写真撮っちゃおう」


 薄れる意識の中、楽しそうなお姉さんの声と、パシャッていうカメラの音が聞こえた気がした。

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