Day25~31 『ギフト』
Day25 三好雅彦(お題・報酬)
オカルト研究会会長、井上円花は、そのとき思わず目を疑った。
『体験入部させて下さい!』
彼が部屋に入ってきた途端、事故物件の調査から帰ってきた部員に憑いていた霊がぴゅーんと部屋から弾き飛ばされたのだから。
その理由は彼が入部して、しばらくして解った。彼の家系、
かくして、円花はオカ研の活動資金の足しに、彼の能力を利用した心霊相談を始めた。
霊体験を聞けば聞くほど『大好き』オーラが増し、相談者の霊を祓う。これは本物だと学内に口コミが広がり、相談者が増え、オカ研は『霊が祓えるオカルト研究会』として名物サークルになったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そうか、それは大変だったな」
異界に繋がったメゾンドコレーから脱出した後、電車の乗り、大学の厚生棟のオカルト研究会のサークル室までやってきた美佳の肩を円花が払う。途端にくっついてきた陰気が消える。思わずマジマジと見つめる美佳に円花は唇に人差し指を当てた後、部員達を呼び、サークルの運営するコミュニティの常連だという
「Kappaさん、どう思う?」
『異界にまで繋がったとなると六号室にあるというモノは相当強い呪物だな。こりゃ、部屋の住人もかなり影響を受けてるぞ』
どこか人を小馬鹿にしたような若い男の声がチャットアプリを通してパソコンのスピーカーから流れる。部員の一人が大学生協に問い合わせる。睦己は水曜日に病欠の届けを出して欠勤した後、木曜日、そして今日と無断欠勤をしているらしい。
『多分、呪物に餌にされているな』
彼女の抱える負の感情を呪物が煽り、増幅させた憎しみと生気を啜っているのだろう。
「『向井睦己の安否を確認する』を口実に六号室に入れるようにしよう」
円花が父親に連絡を取る。教授の父から生協に声を掛け、マンションの管理会社に『職員の安否を確かめたい』と部屋への立ち入り許可を貰う。
『大元の呪物を祓えば住人の女子学生達は戻ってくるだろう。死人の世界に若い生気にあふれた生者は異物だ。繋がりが切れると同時に追い出してくる』
美佳達の居た祠は『避難所』というよりは死人の世界が作り出した『隔離所』に近いらしい。そして今は霊である志穂も美佳の考えのとおりなら、元に戻る。
『戻ってこなかったら、オレが行って連れ戻してくる。オレは迷子捜しが得意だからな』
ケケケ……とKappaが笑った。
「向井隼人については、攪乱データを除いたデータを精査してまとめ、警察に被害届けを出せるようにしておきます」
調査データのまとめが得意な部員が請け負ってくれる。
樹季の言うとおり、オカ研の人々が足りない『力』を補ってくれる。ほっと息をつき「ありがとうございます」と頭を下げる。しかし、円花は渋い顔で腕を組んだ。
「礼を言うのはまだ早い。私でも異界に繋がるほどの陰気には手も足を出ない」
「え……」
思わず顔がこわばる。
「が、方法は無いことなない」
円花は部室のドアを顎でしゃくった。
「
「会長! 遅くなりました!」
ドアが開くと、ぱあっとサークル室に陽気が差し込んでくる。輝くような気が、まだわずかに美佳の周囲に残っていた陰気を消し飛ばす。あまりの眩しさに思わず目を細める。
「うちの部員、二年生の三好
目が慣れてくると、美佳より頭一つ分、背の高い、黒縁の眼鏡を男子生徒が
「あなたが霊視能力を持つという人ですか!」
好奇心に瞳をきらっきらっさせて近づいてくる。
「こいつならいけるだろう」
円花がにやりと笑った。
「美佳さんの『力』で、
* * * * *
カタトン……カタトン……。
「……なるほど、死人の祭りですか。でも、意外に普通というか、ひとりでに灯るほおずき以外、怪異っぽくないですよね」
美佳の異界での体験を聞きながら、雅彦がそれをバリカに音声入力していく。
「『死人』であって『妖』ではないですから。彼等の生前の懐かしいと思う心象風景が形になっているのだと思います」
「なるほど!」
雅彦の顔が輝く。美佳は車窓に目を向けた。美佳の話に増す彼の『大好き』オーラに前方車両の誰かに憑いていたのだろう。霊が弾き飛ばされ、線路脇に転がっていくのが『視え』る。
……このままだと、この電車の全車両の霊を祓ってしまうかも……。
雅彦を借り、オカ研に心霊相談の相談料を払おうとバリカを取り出した美佳を円花は笑って止めた。
『いらない。樹季を救う為でもあるからな。それと、こいつへの報酬は美佳さんが経験した霊視体験で十分だ。こいつは報酬を払えば払うほど強くなるぞ』
報酬=『大好き』オーラの増強になるらしい。
コスパ良過ぎな祓い師さんよね。
熱心にメモを見返す姿に思わず苦笑が浮かぶ。
当たり前と言えば当たり前だが、彼自身は全く霊体験はないらしい。経験しようにも、その前に無意識に祓ってしまうのだから。ただ、雅彦の陽気は陰気が強い、人に害を与えやすい霊や怪異にとっては驚異だが、害意のない霊にとってはさほど影響が無いらしい。今も斜め前の席に座る学校帰り小学生に憑いている、おばあさんらしき霊がにこにこしながらこちらを見ていた。だが、こういう霊はなかなか普通の人の目に映ってくれない。
……しかし、こんなの初めてだな……。
不特定多数の人間が相乗りする電車では美佳はいつも霊を無視する為、視線を天井か窓の外に向けていた。が、今はのんびりと周囲の乗客を眺めていられる。
また霊が車窓の向こうを転がっていく。
ほっとすると同時になんだか眠くなってくる。
「もし、眠かったらどうぞ。オレが駅に着く前に起こしますから」
雅彦の気遣う声と陽気が心地良い。
「すみません……」
美佳は電車の揺れに身を任せ、ゆっくりと瞼を閉じた。
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