Day11~16 『百目』
Day11 ストーカー(お題・飴色)
志穂との思い出は瞳の中でセピア色よりも柔らかく甘い飴色の中にある。
瞳は子どもの頃から、しっかりとした性格で『お姉さん』として頼られ、甘えられることが多かった。家族の中でも、学校でもクラブでも。
ずっと自分はそういうものだと思い込んでいた彼女の前に現れたのが志穂だったのだ。
『私も一緒にやるよ』
『瞳ちゃん、こういうのちょっと苦手でしょ。これは私がやるから、こっちをお願い』
一方的に尽くす関係ではない、初めてのWin-Winの関係。
この子となら無理に頑張ることなく、ずっと自然な友人でいられる。
そう思っていたのだが……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「私の方でスケジュールアプリを選んで登録したから、二人とも同じアプリをDLして貰える? 調査については危険が伴うかもしれないから、個人での行動は控えて慎重に。まずアプリに書き込んで情報を共有してから動きましょう」
昼休み、美佳は昨夜交わしたTalkアプリのグループメッセージを通して、瞳から一緒にお昼を、と誘われた。学生食堂の入り口で同じように誘われた樹季も交えて、他人に会話が聞こえる心配の無い、外のテーブルで日替わりランチを食べる。お昼を食べるのはあくまでも口実で、本命は日曜日の決意の確認とこれからの打ち合わせだ。早速、切り出した瞳に
『瞳ちゃん、仕切屋のところがあるから……』
昼間は美佳に憑いている志穂が苦笑した。
言われたアプリをバリカに入れ、IDを作るとスケジュールカレンダーの他に情報を共有するメモ帳のタブを開く。そこにはストーカーらしい行為が発覚した日から、転落事故までの志穂に起きた事案がおおまかに書かれていた。
当時、瞳と志穂は二年生で、樹季は一年生だった。そして志穂は新しく専門科目の授業で一緒になった男子生徒と付き合い始めていた。それと前後してストーカー行為を受けるようになったのだ。
「前から志穂に目をつけていたストーカーが、彼氏が出来た途端、嫌がらせをしてきたんだと思う」
頬黒文鳥らしき小鳥が彼女の行く先々に現れるようになったという。
「そして、小鳥を見た後、必ず志穂のバリカにその日行った行動を暴露するショートメールが届くようになって……」
余りにも詳細に書かれた内容に気味悪がって、相手のアカウントを拒否しても違うアカウントで届いてくる。ショートメールアプリを消せば、SNSのアカウントに来る。
「もう、これは警察に届けようと思って……」
証拠としてメッセージを保存し、それがたまったところで被害届を出す。事故の日はその届けを出す前日だった。
「未だに何故、志穂さんが転落したかが解ってないんだ」
当時、瞳はバイト、樹季はサークル活動で、外の住人も出かけていていなかった。
「じゃあ、誰が救急車を?」
メモ帳には事故の直後、救急車が呼ばれたとある。
「四号室の管理AIが呼んだ」
住人が急な病や事故に遭ったとき、部屋の管理AIが自律判断し、緊急連絡を発信することがある。
「つまり、マンションはそのとき志穂以外、無人だったの」
女子学生専用のマンションは防犯の為、出入りが厳格だ。志穂を送った彼氏は門扉の前で帰り、その後、事故まで人が入った記録は無い。監視カメラにも人は勿論、小鳥や他の飛行物体が敷地内に侵入した映像は無かった。
「そこが警察の捜査でも謎だったんだ」
当時は雨。その中を志穂は何故濡れるのを承知でベランダに出たのか。
志穂がうつむいて首を振る。やはりその辺りの記憶は無いらしい。
「一番、いいのは志保のバリカの記録を見ることだけど……」
事故から二年。流石に瞳も彼女の家族とは疎遠になっている。
「とにかく、まずは小鳥を探しましょう」
ストーカーと小鳥の動きはほぼ一致している。となると、小鳥は本物の鳥ではなく、カメラやマイクが仕込まれたロボットで、ストーカーの手先であった可能性が高い。その小鳥は土曜日の睦己の騒動以来、ぷつりと姿を消していた。
「うちの母がロボット技師なので、トールの撮った小鳥の映像を見て貰います」
「私は志穂の彼や志穂と一緒の授業を受けていた子に当たって、当時のことを聞いてみるわ」
『志穂の彼』という言葉に志穂がはっと顔を上げる。
「志穂さんの彼氏さんは今はどうしてるんですか?」
「詳しいことはよく解らないけど……私と同じで事故のショックを受けた後、立ち直って学業と就活に頑張っていると聞いたわ。新しい彼女はいないみたい」
瞳と会うと彼女を思い出して辛いから……と、こちらも事故直後から疎遠になっているという。
『
志穂が懐かしそうに呟く。
「樹季ちゃんは他に、この二年間の間に似たようなストーカー被害に遭った子がいないか調べてくれない? あんなしつこい奴だから、志穂以外の子も狙られていたかもしれない」
「解った」
『瞳ちゃん、張り切り過ぎないでね。瞳ちゃんは頑張り過ぎる子だから……』
耳元で聞こえる気遣う志穂の言葉を瞳に告げる。
「やっぱり、そこにいるのは志穂なのね」
瞳が懐かしそうに嬉しそうにふわりと笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます