第22話 ベルトの穴を数えておくのです。
次の日、私が作ったバングルを町の宝飾品店へ売りに行ったが、高すぎると取り合ってもらえなかった。翔輝に、「その値段では無理なのでは?」と問うも笑うだけで何も答えてはくれない。
「荷物も揃ったし、そろそろ野宿生活に戻ろうと思うけど……どうする?」
宿屋への道を歩いていて、急に言われ少し驚いてしまった。その様子を見て、野宿は嫌だと判断されたようだ。
「……野宿は」
「誰も嫌だなんて言っていませんよ? 少し驚いただけで、そろそろだろうとは思っていました。私の体を気遣ってくれるのは嬉しいのですが、私は大丈夫ですから!」
「そう、なら……少し、服を買い直そう」
「服をですか?」
「そう。それか、ベルトだな……? だいぶ服が大きくなったんじゃないかい?」
翔輝に言われて、私は着ている服を見てみる。常用魔法として身体強化を使っている。あまり魔力の消費をしないとはいえ、常にかけているので、かなりの消費カロリーではあった。あと、山道を歩くことは、それなりに体への負担もある。町で長めの休息を取ってくれるほど、私は疲れていたのだろう。
「本当ですね……お風呂も最近は魔法で済ませることが多かったので、気が付きませんでしたわ。お腹や腕、足が一回り小さくなった気がします」
「筋肉もついているだろうから、食べたものの消費もしていると思うよ。不規則な生活もしてないしね?」
「そうですね……日が昇ったら起きて、日が沈んだら眠る。そんな日々を過ごしたことはなかったので、体の調子もいいように感じていましたわ」
うんと頷く翔輝に、服を買い直すか再度聞かれたので、首を横に振っておく。当面はベルトでいいだろう。男性用のベルトを買うことにして、穴を数えておく。
「何をしているんだい?」
「ベルトの穴を数えておくのです。今は外から二つ目ですけど……」
「このペースなら、国につくころには穴を自分で開けるようになるんじゃないか?」
「そうだと嬉しいですけど……これからも、しっかり歩きます!」
「無理はしないように」
「わかりましたわ」と返事をして、自分の体の変化を喜んだ。お腹をさすって、思わずニヤッとしてしまった。
「嬉しそうだね?」
「はい、嬉しいです。元の自分へ戻れたら……」
「戻れたら、国へ戻りたい?」
「いえ、戻りませんわ! 私はあの国に捨てられ、私もあの国を捨てたのですから」
「そっか。それなら……龍になるまで、一緒に……」
「邪龍になんてさせませんから! 私、言いましたよね?」
「あぁ、そうだった」
「絶対見つけだします! 邪龍の対となる巫女を」
翔輝に「頼んだよ」と笑いかけられ頷く。信頼されている……と私は思った。
次の日、旅の続きへと戻る。
険しい山道を登り……魔物と戦い……今日は思ったほど進んでいないうちに夜が来る。
「あんまり進まなかったね?」
「そうですね……魔物が多かったからですから」
「このあたりを根城にしてた大型の魔物がいなくなったのかもね」
私は、翔輝の話に頷き、このあたりを根城にしていた魔物の話を聞いた。何でも食べてしまうクマのようなものだったらしい。その魔物が死んだようで、代わりの魔物がこの山の覇権を争っているんじゃないかという話だ。教科書では見た内容でも、実際、自分がその中に放り込まれているという事態にあまり実感がわかなかった。
ただ、今日も火の番と仮眠を交互にすることになるので、私が先に火の番をした。こんな時期だからと、結界を厚めにすることで、暗闇の不穏さを少しだけ軽減することができただろうかと緊張をしながら、周りを見渡す。
……あまり、慎重になりすぎると、怖くなってくるわ。薬を作っておきましょう。
カバンの中から薬草を取り出し、薬を作り始めた。
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