もうもうが口癖令嬢は、婚約者の手先の魔術師にもうもうに変えられてしまいましたが、婚約破棄をしてくれたこと感謝いたします。

悠月 星花

第1話 私の婚約者

「もう、クライ様。私が代わりに倒して差し上げますわ! もう、本当に手のかかる方」

「……いや、それくらいのこと俺がしてみせる! ベスは下がっていろ!」

「そうはおっしゃいますが、よく周りを見てくださいませ! もう、周りの者たちの笑いものですわよ?」


 下級魔法しか使えない伯爵令息のクライシスの周りには、たくさんの人だかりができていた。私に言われ、周りを見て唇を噛んでいる。私は補助をするために、クライシスに近寄ったのだが、お気に召さなかったらしい。

 ともかく、パーティーで受けている最終試験を突破しないと、学園を卒業が出来ない。クライシスにいつまでもグズグズとされていれば、私だけでなく、パーティーを組んだ他の二人にも迷惑が掛かる。クライシスの婚約者である私が何とかしないといけないと思い隣に並んだ。


「もう、素直に私の言うことを聞いてくださればいいのに」

「……聞きたくない。ベスのいうことなんて!」

「今は、それどころではありませんよ?」

「ベスは怖くないのか?」

「えぇ、全く。これは試験ですから。他の二人もクライ様が魔獣に止めを刺してくれるのを待っているのです」

「……そうは言っても、その……」


 私たちのパーティーの中でクライシスに花を持たせようという話になっている。だからこそ、早く魔物を倒してほしいと他の二人も口には出さないが思っているに違いない。


「もう! クライ様、しっかりしてくださいませ。私が攻撃魔法をしかけますか? それともクライ様に補助魔法をかけますか?」


 煮え切らないクライシス。こういうところを直さないと、いつまでたってもみなの笑いものなるのだ。親に爵位があるから誰も咎めはしないが、命にかかわるような場面で、うじうじとされていては、命がいくつあっても足りない。


「もう、いい加減になさいませ! 今は授業だからこそ魔物も幻影ですけど、本当ならクライ様の遅い判断で、みな死んでしまいます! 判断できないなら、リーダー失格です!」

「ベス!」

「もう、そこをどいてくださいませ!」

「ベアトリス様! 婚約者であるクライシス様にそれはあまりにもひどいのではありませんか?」

「……マリアーヌ」


 私の前に平民の女生徒が、崩れ落ちたクライシスを背に庇うように立ちはだかった。マリアーヌに縋るように背に隠れてしまったクライシスに言葉をなくす。


「大丈夫ですよ。私が力を貸しますから、一緒に魔獣を倒しましょう」


 寄り添うように座り込んだクライシスを立たせ、マリアーヌは魔法を使わせる。初級魔法であっても、マリアーヌがブーストをしたおかげか、火力は3倍になった。

 幻影の魔獣は跡形もなく消え失せ、クライシスとマリアーヌは手を取り合って喜んでいるが、取り残された私たち三人はその二人の喜びを理解できずにただぼんやりと目の前で起こったことを受け入れるしかなかった。

 成績的に無事とは言えない卒業試験は終わったのだ。私たちはクライシスとマリアーヌのおかげで卒業できる最低ライン評価しかもらえず、悔しい思いをすることになった。このパーティーに誘った他の二人に私はただ謝るしかできなかった。

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