第18話 世界の敵になるなら一緒に

「翔輝?」

「んー、まだ、時間はあるから」

「巫女探し、私も手伝いましょうか?」

「ベスが手伝うのは難しいよ。俺の巫女は特殊でどれだけ探しても見つからないんだから」

「そんなの、やってみないとわからないですわ!」


 翔輝の腕を掴み訴えかけたが、首を横に振る。翔輝の巫女の特徴は、他の者と違うらしく、探し方すらわからないらしい。手当たりしだい、確かめるしかないそうだが、巫女自体がどんな存在なのか、それも確立しているわけではないらしい。


「それじゃあ、どうやって探すのです?」

「そもそも、巫女自体がいないかもしれない。昔の文献から読み解いただけで……」

「翔輝の中にいるのは、その……」

「察しがついていると思うけど、邪龍だよ。だから、巫女が見つからない。もう、何千年も昔、暴れた邪龍を自身に封印したのが、当代きっての神術使いだった姫巫女だったらしい」

「姫巫女……。じゃあ、その血脈を辿れば……?」

「難しいだろう? それが俺なのだから」


 自重気味に笑う翔輝。身分は高いのだろうと思っていたが、私は息を飲んだ。


「王子なのですか?」

「身分的には、第一王位継承権を持ってる。でも、それが何だと? あと数ヶ月……巫女を見つけることができなければ、邪龍となる身だ。そのあとは、みなに忌み嫌われいつ訪れるかわからない死を待つだけ」


 悲観しないでと慰めを言おうとしたが、重い現状で言葉にならなかった。きっと、翔輝は今までもたくさん苦しんできたのだろう。私の慰めなんて、何の意味も持たない。だからといって、何もしないのは違う。結果、何もしてあげられないかもしれない。イタズラに翔輝を、苦しめることになるかもしれない。それこそ……、私は、翔輝に会った日に何てことを言ったのだろうと胸が苦しくなる。言葉にできない私の手に翔輝の手が重なる。その手をぎゅっと握る。

 世界が敵になっても……私だけは味方でいたい。その願いは変わらない。


「翔輝」

「なんだい? ベス」

「置いていかないでくださいね?」

「置いて、か……。それはベスのほうなんじゃない?」


 悲しそうな黒い目をじっと見つめる。苦しくなるほど、訴えている。


「私が翔輝を置いていくなんてありえませんわ。私に翔輝の生まれ育った街を見せてくれる約束もしたではありませんか?」

「したけど、今と状況が違うだろう?」


 ニコリと笑い首を横に振った。訝しむ翔輝ではあるが、握った手を離そうとはしない。


「何も変わっていませんよ? 無一文で何もできない世間知らずの私を拾ってくれたのも、約束も。何一つ変わっていません。私は私の意思で、翔輝についていくと決めたのですから」


 握っていた片方の手を翔輝の頬にそっと触れる。そのまま、少し引き寄せると素直に従ってくれたので、そっと口付けた。


「ベス?」

「私を抱けるのでしょ? それなら、キスくらい、何てことないでしょ?」


 笑いかけると、戸惑う翔輝にもう一度告げる。


「私は私の意思で、翔輝についていくと決めたのです。置いていかないでください」

「でも……」

「世界が何ですか? 邪龍になって世界中を壊してしまうというなら、私も一緒に世界を壊して差し上げますわ! とっておきの魔法が私には使えるのです。内緒ですけど……翔輝が邪龍になったときより、もしかしたら強いかもしれませんよ?」

「……ベス」

「私にとって大切なのは、『世界』ではなく、『翔輝』ですから。世界の敵になるなら一緒に。こう見えて、一度決めたら意地でも遂行しますからね!」


「安心してください」と微笑むと、「それは不安しかないな」とやっと笑ってくれた。それで、いいのだ。それで。

『厄災の魔女』と呼ばれた私のことを知る人は少ない。私にできることは、翔輝と同じ……、世界を破壊することだ。それなら、一緒に堕ちるのも悪くない。

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