第19話 『厄災の魔女』
私の生まれた国は、魔法が使えるものが優遇されるところだった。そのため、生まれた日に魔力測定をすることになっている。もちろん、私も例外なく対象だ。
ときは、私が生まれる少し前まで遡る。国王にひとつの提言が、魔法師の中でも優れていると言われる『賢者』からもたされた。
その内容は、この国に『厄災の魔女』が生まれるというものだった。
『厄災の魔女』とは何か。魔力保有量が常人ではなく、火力も爆発的であり、国に置いておくと、必ず災いをもたらすものと文献には記されている。
国王は賢者からの話を聞いて、国中に御触れを出した。魔力測定をしたとき、一定の測定値が出たものを申告するようにと。その赤子に待っているのは、死だった。
御触れが城下にされたあと、生まれ来る女児については特に厳しく魔力測定が行われた。両親は、私を守るためにある策を施した。魔力測定の改ざん。
母が、自身の魔力のほとんどを使って宝玉を作り出し、父が、自身の半分の魔力で私を丸ごとくるんでしまった。宝玉は、私の心臓へ埋め込まれており、力を押さえるために魔法陣が背中に施されていた。
『厄災の魔女』の私は、今も両親のおかげで生きながらえている。両親揃って、その話をされたのが10年前。私のために魔力のほとんどを使い果たした母は魔法師としての力を失った。それからというもの、自分の好きなことをして生きている。
父は元々の魔力保有量が、人より少し多いおかげで魔法師としても活躍できる。私が生まれたばかりに、両親に亀裂が入ったのは事実だ。母は何より自身のキャリアにこそ魅力を感じていたから。
普段は見えないようになっているが、背中にある魔法陣こそが、私を『厄災の魔女』と言わしめるものだ。
このことを知っているのは、私を含め両親だけだった。
「邪龍になれば、自我はなくなるのですか?」
「なったことがないからわからないよ」
「聞いてもいいです?」
「もちろん。答えられるものならなんなりと」
微笑む翔輝に龍の鱗を見せてもらった。少しずつ体を蝕んでいくらしいそれは、見たこともないほど、黒光りをしている。私が触れた瞬間、静電気のようなもが、バチン! と鳴る。
「ベス、大丈夫?」
「えぇ、少しピリッとしただけだから……」
そういって翔輝には見せなかったが、人差し指の腹がぱっくり切れている。鋭利な刃物で切り裂いたみたいなものだ。
「見せて? 俺がいつもしてもらっているから」
手を出そうか迷って、翔輝の微笑みに負けた。ゆっくり手を出すと、驚いていた。私が思っているより血がたくさん出ていて、床にぽたぽたと落ちていく。困ったような怒ったような翔輝から視線を逸らした。
「ベス、痛いだろう?」
「……痛くはないですよ」
「嘘だ。ほら……治すから」
ぽぅっと指の先が温かくなり、開いていた傷が跡形もなくなくなっていく。翔輝の魔法はあっという間に、元通りに治してしまった。
「もう大丈夫」
「翔輝がいれば、大丈夫ですね?」
「……いつまでもというわけにはいかないよ。ベスは治癒魔法を使えるんだろう?」
「もちろんです。でも、私は翔輝にかけてもらいたいです」
指先の温もりを確かめながら微笑んだ。仕方なさそうに笑う翔輝に「さぁ、買い物に出かけましょう!」とすばやく腕の包帯を巻いて、出かけるのを促した。「わかったよ」と笑いながら、立ち上がり私の手を握って部屋を出た。
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