第20話 自分の目や感覚で選んでいった方がいい

 町へ出かけ、保存のきく食料や足りなくなった日用品などを買い足していく。私もこの旅で必要なものは何なのか学んだので、翔輝に言われなくても選ぶことができた。ただ、叱られることもある。それは、金銭感覚のことだ。


「ベス、こっちとそっちならどっちを選ぶ?」

「えっと……こちらですか?」


 私が選んだのは値段が高いがあまり新鮮ではない野菜。翔輝の手には、もう片方の野菜が握られていた。表情を見れば、私が不正解だったのがわかる。


「さすがお嬢様と言うべきなのかもしれないけど、この場合は、こっちが正解。よく見て」


 その野菜の違いを教えてくれる。まさに、私が選んだのは、値がする割に新鮮ではなく萎れている。翔輝が持っているほうは、値段も安いが瑞々しい。


「俺がこっちを選んだ理由はわかったね?」


 言われて初めて気が付くことが多い私に、一つ一つ丁寧に教えてくれる。生活の知恵が少しずつついてきていると実感した。


「ベス、何に対してもだけど、まずは観察。さっきの野菜を選ぶときでも、よく見ていれば、どちらが新鮮かだけでなく、値段の比較も出来ただろう?」

「はい、私は値段だけで見てしまっていました」

「うん、高ければいいものとは限らないから、そのあたりは自分の目や感覚で選んでいった方がいい。もちろん、高くていいものもあるからね。さて、俺の方の鞄はいっぱいになったから、ベスの方に入れてくれるかな?」


 翔輝から預かったものを鞄へと入れていく。「便利だよな」とこちらを見ていうので、苦笑いをしておく。材料さえあれば、作れるのと前にも言ったことがある。ただ、その材料を手に入れるのに、私にはお金がなかった。


「そういえば……翔輝」

「どうかした?」

「宝飾品の作り方を教えてくれると言っていたのを覚えていますか?」

「あぁ、もちろん! そういえば、先日、原石を見つけたんだったね?」

「えぇ、それで、何か作れますか?」

「もちろん! 宿に帰ってから早速作ってみようか!」


 買い物は全て終わったと翔輝は私の手を握って先を歩く。さっきまでとは、少し雰囲気の変わった翔輝にどんな心境の変化があったのかはわからないけど、笑っている。何より、翔輝の笑顔にホッとしている。


「この前拾った石は縁石だったね?」

「はい、石の割れ目から見えたのは、緑でした」

「上手くすれば、結構な金額になるかもしれないな。ベスって強運の持ち主かもしれないね」


 宿屋に着くなり、店主に声をかけ、庭の一角を借りることになった。キョロキョロと見渡したあと、地面が土のところを見つけ、そこへ鞄から取り出した炉を始め機材を置いて行く。


「そんな仰々しい感じではないよ。宝石をまずは綺麗にするんだけど……これは、魔法で出来る。見ていて……」


 鞄から赤石を取り出し、風と水の魔法を使って宝石を磨きあげていく。手早く宝玉にしてしまった。手にコロンと置かれたそれは、とてもなめらかで光沢のある綺麗な赤い宝石であった。


「うん、いい宝石だね。これは何かわかるかい?」

「ルビーですね。こんな深い赤は初めて見ました」

「ルビーの中でも、珍しいものだよ。たまたま手に入ったものだ。ペンダントはあるから……バングルがいいかな?」


 呟いたときには、金の塊を炉で溶かして、用意してあった型へと流し込んでいく。縄目のようなそのバングルはとても美しく輝いている。台座となる部分を器用に作って、「貸して」と私の手の中にあったルビーを持っていく。台座にルビーを座らせ、バングルを整えれば宝飾品の完成だ。もっと時間がかかるものだと思っていたが、あっという間に出来てしまい、目をぱちくりさせた。


「ベス、手を出しで」

「手ですか?」


 うんと頷くので、言われたように出すと、そっと手を握られる。もう片方の手で、作ったばかりのバングルを持ち、私の腕にはめてくれた。


「翔輝……これは、売り物ではないのですか?」

「うん、ベスに送ろうと思っていたんだ。ちょうど、いい宝石が手に入ったから。他にも送りたいのはあるけど……旅の間に、これがベスを守ってくれるようにって」

「こんな高価なものいただけません!」

「いいの。もらって」

「……では、いつか、家が落ち着いたらしますね?」


 驚いた後、少し寂しそうに笑い、首を横に振る翔輝に、小首を傾げた。私の考えとは違うようだ。


「旅の間のお守りだから、外さないでほしい。例え傷ついてしまったとしても……ベスの腕から離さないで」

「わかりました。大事にしますね?」

「うん。そうして。大事にね」


 クスクス笑いながら、「次はベスの番だよ」と作り方を教えてくれた。原石は翔輝が持っているもので、まずは練習をさせてくれた。簡単そうに翔輝はしていたけど、意外と難しい。何度も失敗を繰り返したあと、上手に宝石を磨けるようになったので、いよいよ私の手元にあるものに手をかけた。

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