第28話 おばちゃん、干物定食2つ!

 転移門の予約をしてあった私たちは、出発の用意を済ませ、目的の場所まで向かう。翔輝の腰には真新しいカバンがあり、時折撫でているのを見かければ、気に入ってくれたのがわかる。


「お次の方、どうぞ!」の声に前は進めば、受付嬢が予約確認をしていた。


「確認が取れましたので、お進みください」


 水晶に手を置けば、本人確認ができるらしく、私は水晶から離した手をグーパーさせていた。


「不思議?」

「えぇ、とっても。もし、本人じゃないってなると、どうなるのですか?」

「んー、そうだな……。あっ、あっちの人見てて!」


 翔輝が指差した方をみる。ちょうど、旅商人らしい人が、水晶に手をかざすらしい。すると、赤くなった水晶が旅商人を弾き飛ばした。


「あぁなる。そうすると、名前を使われた方も、あの人もしばらくは使えなくなるんだ。特例はあるけど、概ねあんな感じかな?」


 翔輝に話を聞いて頷いていると、いよいよ私たちの番になった。


「怖かったら手を繋ぐ?」


 翔輝が手を差し出してくれたが戸惑ってしまった。引っ込めようとした翔輝の手を今度こそぎゅっと握って「怖いので、離さないでくださいね?」と震えながらお願いすると、目を丸くして、「絶対離さないから」と微笑む。安心した。



 転移門をくぐると、もう別の意味でビックリした。全く違う建物内に驚いた。


「建物内が全然違う! すごいです!」

「ようこそ、東の国へ」


 翔輝が茶化してくるのを睨んだあと、私は外へ行こう! と促す。西の国と違うのは、その空気。少し、湿っぽく感じるのは、雨が西の国より多いからなのかもしれない。


「どう? 初めての東の国は」

「なんていうか、すごいですね! 建物も違うし……。変な臭いがするのですが、何の臭いですか?」


 私は嗅いだことのない臭いに鼻をつまみそうになった。それを見て翔輝は笑っている。


 ……全く、失礼ね!


 私は建物から出て、その臭いのする方から煙が出ているのに目を白黒させた。


「ベスはお嬢様だから、見たことないかなぁ? 焼き魚だよ。日持ちするように干物にしてあるものを焼いているんだ。食べてみる?」


 返答に困っていると、「美味いんだけどな?」と呟く翔輝の手を取って、「食べます!」とやけを起こした。

 翔輝は笑いながら、「シャドウも出してやるといい。きっと気にいるはずだから」というので呼び出す。シャドウの大きさは調整できるようで、子犬ほどの大きさになって、私も翔輝の間にちょこんと座った。


「おばちゃん、干物定食2つ!」


 慣れたように注文する翔輝に呼応するようにおばさんが元気よく返事をした。

 お昼に向けて準備しているようで、「焼きたてだよ!」と机の上に置かれる。見たこともない魚の開きに茶色く具がたくさん入ったスープ、白くてつぶつぶでツヤツヤしたものが出てきた。


「食べようか!」


 翔輝は2本の棒切れをうまく使って魚を取り分けていく。私はそれを見ながら、手元にある棒切れを見た。


「あぁ、ベスは箸が使えないんだね?」

「棒ではなく、箸というのですか?」

「そう、西の国では使われてないね。使い方は、また教えてあげるから、今日はフォークで食べなよ。身はほぐしてあげるから」


 器用に魚の身をほぐしてもらい、ご飯と味噌汁というものを食べていく。食文化の違いに驚きつつも、とても美味しくて頬が緩む。シャドウにもあげると美味しそうに食べていた。


「不思議なお味ですが、とても美味しいです!」

「それはよかった。東の国の中でも、俺が育ったところでは、こういう料理が多いから、食べられないと辛い」


 笑う翔輝に頷く。


 気にしてたのね。食べるものが、合うか合わないかを。すごいわ。私なら気にもとめない。


 旅慣れている翔輝に感心した。私のことまで気にかけてくれる優しさに思わず頬が緩む。

 今日は次の街まで向かうことになり、しばらく二人と1匹が街道を進む。


「ここからは、翔輝の故郷へどれくらいで着くのですか?」

「そうだなぁ、のんびり歩いても、1ヶ月かからないかな?」

「そうですか」

「何? ホームシックな感じ?」

「そうではありません、その、楽しい旅もと思うと、寂しくて」

「なるほどね。でも、旅は終わっても、俺らは変わらないだろう?」

「わかりません。国へ帰れば、王子なのですよね?」


 翔輝は苦笑いをしながら、「無事帰れればね?」と呟く。私が心配するように見つめたので、こちらを見つめ返してきた。正直なところ、今の体の状況を話してくれるようだ。


「東の国に入って、少し邪龍の力が強まった気がする。元々巫女を見つけるために、留学をして国元を離れることで時を稼いでいたんだけど、生まれ故郷が近づいてきて、力が増しているようだ。制御するのが、大変だから……もしかすると、たどり着けないかもしれない。今後、魔法は極力使わない方向で考えているんだけど、ベスは協力してくれるかな?」

「もちろんです! 翔輝に強くしていただきましたから! それに……シャドウもいますしね?」


 足元でこちらを見上げている、シャドウの頭を撫でるとくぅんと鳴いている。見た目は子犬でも私の魔力をどんどん吸っていっているので、かなり立派になったシャドウと二人なら、翔輝も守れると胸をトンッと叩いて、「任せてください!」と笑った。

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