第27話 これはこれでありだな。
「ごめん、心配かけたかな?」
真夜中にやっと気がついた翔輝。握っていた手を引っ込め、「もう! 本当ですわ!」と拗ねたように言えば、苦笑いをしていた。
暗くなる部屋の空気を明るくしないとと思い、私は自分のベッドに置いてあるカバンを手に取った。
……翔輝は、自分の体のこと、わかっているのかしら?
私はカバンをぎゅっと握って、これからを考えた。初めて会って2ヶ月が経とうとしている。旅を続け、笑い語り合い、時には喧嘩をして口も聞かなくなったり……、忘れてしまっていた何気ない日常。私に取ってかけがえのない日々を過ごした。
旅の最後、いつかの夢を語り笑い合ったのはつい最近のことだ。なのに……、あんまりだと思う。
覚悟はあると言っていた翔輝。でも、私には、まだ、そんな日が来るとは思えなかったし、思いたくもなかった。
だって……、二人の未来まで語り合っていたのだから。
最初懐疑的だった翔輝だが、私はその優しさに触れ心惹かれている。それは、胸の高鳴りや家族以上に翔輝を心配する私自身が1番よくわかっていた。
「……翔輝」
「ん? どうかした?」
「あの、これからなんですが……」
「あぁ、邪龍の力? ちょっと抑えられなくなって暴走しそうになったんだ。それを抑えてて……」
「そう、だったのですね? あの、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。なんか、すごく調子がいい。体を巡る邪龍の力がうまく循環してる感じがして、あったかい感じ? うまく表現できないな……」
うーんとベッドに座ったまま、腕を組んで考え込んでいると、「あっ!」と何か思いついたようだ。
「どうかしましたか?」
「ベスに抱きしめられてる感じ?」
クスクス笑い私を揶揄う翔輝の背中をバシンと叩く。驚いて「いたた……」と大袈裟に騒いでいた。
私もベッドに座り翔輝の背中に寄りかかる。
「どうかした?」
「……なんだか、現実味がなくて。邪龍になると聞いていましたが、本当になると思えなくて、頭で理解していても心が理解していなかったのかなって」
「まぁ、普通は理解するのさえ難しいんじゃないの? それより、ベスはあったかいね。ぎゅーっと抱きしめたいんですが、こちらにきていただけますでしょうか?」
私はそこから身動きせずに、「嫌です」と答えた。優しい声で「どうして?」と聞くので「知りません!」と後ろから翔輝を抱きしめる。
「これはこれでありだな。ん? これは?」
私の手にあったそれを見て受け取ってくれる。作ったばかりのカバンに興味が移ったようだ。
「約束していたカバンです」
「えっ? あれから、買い物に出かけたの?」
「えぇ、宿屋にいても仕方がなかったので。それより、どうですか? うまくできたと思うのですが」
「うん、よくできてる。どれくらい入るの?」
「私と同じ材料で作っているので、同じくらいは……。でも、少し違う糸で縫ったので、かなり丈夫だと思いますよ! 試しにこれを入れてみてください」
私が翔輝に渡したのは傷薬1000本分だ。コツコツと作っていたので、いつの間にかたくさんになっていた。
「あと、これはお守りです。紅玉と光蜘蛛の糸で作ってあるので、災いを遠ざける……」
「ありがとう、ベス!」
説明をしていたら急に抱きしめられ驚いてあたふたとする。次第に落ち着き、翔輝の髪を撫でると、「ベスに出会えてよかった」と呟いている。「お守りを貸してください」というと、私に渡してくるので、手首につけてやる。光蜘蛛の糸は伸縮性があり、どんな大きさでも、付けたものの体に添って、大きくなったり小さくなったりできる。例え、邪龍になったとしても、翔輝が見つけられるようになっていた。
「明日は早いですから……もうひと眠りしましょう」
「ベスはベッドで寝てね? さすがに床で寝るのはなしだ。シャドウ!」
私の影からシャドウが首だけ出した。何か用か? と言いたげなシャドウ。
「悪いけど、夜、俺のこと見張っていて。だいぶ体が楽だけど、いつ、どうなるかわからないから」
心得たと影から出てきたシャドウは、数日前より二回り以上大きくなっている。どうやら、私の魔力でこちらも成長をしているようだった。
床に寝そべり、大きくあくびをする。私と翔輝はそれを見て微笑み、「おやすみ」と眠りについた。
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