第12話 また、淹れてくれる?

 瞬く星を見上げる。今は翔輝が仮眠を取り、私が火の番をしているところだ。魔獣避けに結界を張ってはあるが、結界の力以上の魔物が現れないとは限らない。今は20時頃だろう。真上から照らす星を読みながら時間をはかっていく。時計なら持っているが、山道を歩く私たちは、自然の感覚も養うべきだと翔輝が教えてくれた。


「まだまだ、夜は長いですわね……」


 夜中の0時までの見張りなので、暗い森の中で一人きり。ときおり聞こえてくるカサカサという草の揺れる音や何かが動く音など、静かな山の中では耳につく。幾度となく不安な時間ではあった。そんな不安を払拭させるために、この旅が始まってから翔輝から教えてもらったことを考えていた。


「学園で教えてくれたことは、殆ど役にはたたないのね。学園ではうまく立ち回れていたと思っていたけど、いざ、実際にこんな場所へ放り出されると……何もできない。あのまま王都にいれば……私には何ができたのだろう?」


 考えても思いつかない。食べるものすら買えない日々を過ごし、こんな体をしていても……餓死をしたのではないかと思えてくる。翔輝に拾われた……そのことこそが、私にとって幸いな出来事だったのだと、今になっても思える。


「少し、星の読み方を復習してみましょうか……。あの1等星が北極星……ポラリスというらしいですわ。どの星よりも光り輝いていて……常に北にある。あの星を中心に考えるのですよね。そうすると、あちらが私の住んでいた西側。そちらが翔輝の目指している東の国……。北斗七星はこの世界の北側に位置をしていて……時間によって移動をするから、季節を考えて、20時頃ということでしょ?」


 星ひとつ見ても、翔輝の知識に感服される。私たちの国の教育水準が決して低いわけではないはずなのに、知らないことが多い。私の興味がそちらに向いていなかっただけかもしれないが、これは生きるために必要な知識ではないだろうか。コンパスを持って東西南北を示し、地図を見て位置を確認する訓練はしたが……全く違うやり方で、迷いなく教えてくれた。


「確か……もう、隣国も抜ける……そう言っていましたわ。それなら、本当に3ヶ月で東の国へ、向かうのではないかしら?」


 私は鞄の中から、地図を取り出そうとした。何が欲しいかと考えれば、鞄の中のものは出てくるのだが、揃えてくれた荷物を確認しようと思い立った。見張りの交替には、まだ、たっぷりと時間があるので、私は鞄の中身を取り出してみる。


「これは、ナイフですわね。今まで使うことがなかったですけど、餓死しないために、山や川で取れるもので簡単な料理も覚えておいたほうがいいと言っていたわ。それと、薬草の本ですわ。これは……私が持っていたものより詳しいですわね。この薬草にはこんな使い方もあるのですか?」


 他にも地図やコンパス、火打石や宝玉など様々なものが出てくる。元々私の持っていた鞄だったので、私が持ち歩いていた傷薬や応急セットなども出てくる。翔輝が言っていたとおり、服以外を私の周りに並べてみたが、まだまだ余裕がある鞄。この中には寝具やテントも一応入れてある。今は翔輝が使っていたものを使っているのだが、私の分もきちんと揃えられていることに嬉しく感じた。


「……もし、一人で生きていかないとなったときも、困らなさそうですわ。本当に翔輝には、感謝しなければ……」


 並べたものを鞄に戻していく。時間もあったので、薬草を取り出し、薬を作ることにした。調合用の器材は私が元々持っていたので、少し火から離れた場所にある薬草を摘んでくる。


 ピーンと張りつめた糸を鳴らすような音が聞こえてくる。その瞬間、翔輝が飛び上がるようにしてテントから出てきた。


「どうかしましたか?」


 焦った表情の翔輝を不思議そうに見つめると、「なんでもない」と笑う。ホッとしたような表情になっているので、「お茶を淹れますか?」と問う。

 驚いたように一瞬目を見開いたが、「頼む」とテントから出てきた。


「何がいいですか? 鞄の中には少量ですがハーブが入っていましたから、ゆっくり休めるようにハーブティーにしましょうか?」

「うん、そうしてくれる?」


 翔輝は火の側に座り、私はお茶の用意を始める。お湯はもちろん魔法で最適温にできるので、ポットにハーブを入れてお湯を注ぐ。あたりにふわっと優しい香りが広がった。


「いい香りだな」

「そうですよね? お気に入りなのです。もし、東の国に行ったあと、落ち着いた先で庭か鉢植えができるようになったら、このハーブの種を蒔きたいなと思います」

「それはいい。ハーブティーが出来たら……また、淹れてくれる?」

「もちろんです! いつでも、いらしてください」


 ニッコリ笑ったところで、ちょうど頃合いだろう。カップを取り出し注ぐ。その様子をジッと見つめている翔輝に淹れたてのハーブティーを渡すと猫舌なのか、冷ましていた。

 そんな可愛い様子を見ながら、私もカップに口をつける。ホッとするような温かさに、私の気もゆるりとなった。

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