第55話 終わって始まって
「なにっ!? 勇者様方が敗北しただと!?」
「はい。そして現在、リズワール王女殿下が魔王を連れ、王都へと向かっている最中だそうです」
「魔王が?」
国王の近衛騎士によって紡がれたその言葉は国王にとって恐怖の宣告であった。勇者がいるからこそ魔王へと喧嘩を売っているのだ。長年、神の使いという力を使い、やりたい放題してきた末路が自分の代で賄われる時が来たのだと思うと、国王の血の気はサアッと引いていた。
「あと、もう一つお耳に入れたいことがございます」
「な、なんだ!」
もはや魔王が王都へと迫っているという言葉以上に大きなニュースなどないと言わんばかりに雑に聞き返す。しかしその予想はすぐに裏切られることとなる。
「どうやら我が国が魔族に対してしていた仕打ちや我らが行っていた情報操作が魔族に与する人間の国家によって暴露されたらしく、それについての説明をと国民が暴動を起こしております」
「な、なんだと!?」
そう言って国王が急いでバルコニーへと顔を出すと既に大量の民衆が王城へと押し寄せてくるのが見える。
「前まではあれほど勇者様と言っていたではないか!? なのにどうして!?」
「それは私が説明いたしましょうか」
そう言うと目の前に居た騎士の顔が段々と違うものへと変貌していく。その姿はこの世界の住人とはまた異質で、まるで召喚した異世界人のようであった。
「前回の異世界人の召喚を覚えているだろうか? 貴様らが用済みだと言って処刑された異世界人たちの事を」
「ま、まさかお前は……」
「ああ、そうだ。俺はお前たちによって数十年前に召喚され、そして魔王と相対する力を失ったとして殺された異世界人の生き残りだよ」
国王はその事実に驚愕し、地面に尻もちをつく。異世界召喚をするにはこの世界に他の異世界人が居てはならなかった。なぜなら世界間のバランスがおかしくなるから。その調整が行われてしまえば新たに召喚される異世界人の能力が圧倒的に低くなってしまう。
だから普通はこの世界に居る異世界人が亡くなってから召喚するものであるがこの王はすべてを葬り去ることでその周期を早めていたのである。
「……だから奴が居たのか」
謝罪する気もなく誰かを思い出しているかのような国王のその態度に近衛騎士は憤怒の色に顔を染める。
「お前達は覚えていなかったようだが、国民の皆は素顔を晒せば俺が誰かすぐにわかってくれたよ。それで貴様のやった悪行も俺の仲間たちの事もすべて話したんだよ。そして蜂起するなら魔王と戦う今この時が絶好の機会だってこともな!」
剣を引き抜き、そのまま国王の首元へと当てる。
「お前はもうこの国の王じゃない。それを今から皆に知らしめに行く。ついてこい」
そうして力なく項垂れた国王は壮年の近衛騎士によって引っ張られていくのであった。
♢
「それで今の国のトップはツヨシ殿でよろしいのでしょうか?」
王国に到着すると、以前見た国王ではなく、中年のおじさんが俺達の相手をしてきた。話によると、ついこの間クーデターが起きて政権が崩壊したらしい。その時に、リズワールや捕虜としていた神の使い達も国のトップと言われる者へと身柄を預け、日を改めての現在となる。
それにしてもあの時のリズワールの絶望した顔は驚いたな。いつも無表情でいたあいつがまさかあんな顔をするなんて。
「はい。現在のこの国の代表は私と思っていただいて構いません。それよりもまずは謝罪を」
そうして目の前の中年のおじさん、ツヨシさんは深々と頭を下げる。
「長きにわたり我が国もとい我が連合が魔族の皆様にご迷惑をおかけしていたこと、深くお詫びいたします」
「……あーっ、俺じゃなくてアリスたちに言ってください」
正直ここに来て日の浅い俺に言われてもなんか違う。
「大変申し訳ありませんでした」
俺の言葉を真摯に受け取ってくれたツヨシさんはもう一度アリスたちや魔天たちの方を向いて深々と頭を下げる。
「ふむ、まあここで気にするでないと簡単に許せるものでもないが、一先ずは許してやろう。だが条約なんぞまどろっこしいもんは要らぬぞ? 面倒だからな」
「アリス。流石にそれは要るだろ。すみません、ツヨシ殿。書類関係は俺が書きますので」
「いえいえとんでもございません。こちらこそ書かせて頂く身でございますので」
ここまで畏まられると少しやりづらいな。もとはと言えばアストゥール家がしでかしたことなんだしツヨシさんには関係ないんだからな。
それから召喚の儀式の禁止など色々とやり取りをした後、俺達は元アストゥール王国の王都を出る。国王や王女その他王族そして国王派の貴族たちは皆、どうなるかは分からないがツヨシさんのあの感じだと恐らく……。この先は言うまい。
あと神の使いつまり俺の元クラスメート達に関してだが、ツヨシさんが元異世界人というのもあって庇護することに決めたらしい。
勇者である翡翠は戦闘のダメージでもう戦える体ではなくなっているらしく、この程度ならばいざ神の使い達によるクーデターが起きようとも封じ込むことはできるとのこと。魔族側の心情からすれば神の使い達の事を許せない気持ちも分かるが、神の使いも神の使いで王族に良いように操られていたからと説得され、わかりましたと言っておいた。
アリス達も取り敢えず侵略さえしてこなければなんでも良いって感じだったしな。
「くーっ、なんか一先ずは落ち着いたって感じがするなー!」
魔王としての一仕事を終え、ようやく魔界の仲間入りを果たせたような気持ちになる。
「うむ、ライトよ! 城に戻れば早速決闘の続きをするぞ! まだ決着はついておらぬからな!」
「いや戦いの後に戦いってどれだけ戦闘狂なんだよ」
「へっ、ホントだぜ全く」
「うちの魔王様ってホント変だよね」
「何を言う! 妾は戦闘狂でもないし変でもない!」
必死に言うアリスがおかしくて魔天たちを含む全員が一斉に噴き出す。ああ、なんかダンジョンの時を思い出すな。いや、それよりも上かもしれない。
「ライト! 絶対にやるからな! 分かったか!」
「はいはい」
そうして俺達は戦いが終わったという安心感に包まれながらゾルドレインへと帰るのであった。
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