第28話 魔王になる条件
フェンリルを倒した瞬間、景色が変わり元の玉座の間のようなところへと戻ってくる。どうやら宝玉化はさせてもらえないらしい。
『……その珍妙な技。流石は異世界人だな』
「分かってたか」
『分かるとも。最近、人間が魔族に対して剣を向けるようになってからというもの異世界人の気配は嗅ぎなれているからな。それはそうとよくぞ我が飼い犬を倒した。これで君達は魔王となる挑戦権を得た……と言いたいところだが』
そこで初めて初代魔王が立ち上がる。真っ赤なカーペットの上を歩いてこちらへと近づいてくる。
『残念ながら魔王はただ一人だけなんだ。さあ、どちらが魔王となる?』
やはりな。最後に戦うのは確実に一人であろうと思っていた。思っていた通りだ。どんなファンタジーも魔王は一人ってのが相場で決まっている。だからこそ俺は先程の試合でアリスに温存させておいたのだ。
俺がアリスの方を向くと、アリスもこちらを向く。そして二人が示し合わせたかのように頷くと同時に魔王となるべき人物の名を告げる。
「「魔王となるのは」」
「アリスだ」
「ライトじゃ」
ん? 今の互いに見合わせて頷くのって答えが一致した時の仕草じゃなかったのか?
「何言ってるんだアリス。俺はそもそも部外者だぞ? 魔王にはお前がなるべきだ」
「いや魔王とは最も強い者がなるべきだ。ならばライトこそ相応しい」
俺とアリスの意見がここで初めて違える。俺としてはそもそも魔王になりたくて魔王の試練に挑んだアリスとただ落とされて仕方なく攻略していた俺とでは天と地ほどの差があると感じている。もしここで俺が魔王になってしまえばそれこそ申し訳なくなる。
『……ふむ。一方は部外者ゆえに、他方は実力ゆえに。双方の意見はどちらも正しいように聞こえる』
ここで魔王になる気概のあるものが居ないのなら魔王にする権利などないとかいう暴君じゃなくて良かった。ここまで頑張ってきてアリスが魔王になれないなんて可哀そうすぎるし。いや、その証明をここまでの道のりでしていたのか。
「初代さん、俺には魔王になる資格なんてない。仲間に裏切られてここに落とされただけだ。そんな人望の無い奴が魔王になんてなれるわけがないだろ? そんな俺なんかより魔王になるためにこんな厳しいダンジョンに挑んだアリスこそが魔王に選ばれるべきだ」
『魔王とはその力がゆえに即位前は往々にして一匹狼であったことが多い。人望など結果の後についてくるものだ。そしてアリスフォードの思いもよく理解しておる。ここまでの君達の動向はこちらから見せてもらっていたからな。葛西ライトへ魔王の座を譲るのも、さぞ悔しい思いであったことだろう』
「うん? 少し待つのじゃ」
そんな初代魔王の言葉にアリスがそう言って待ったをかける。
「妾はライトに魔王の座を譲るのが悔しいわけではない。寧ろ清々しい思いだ」
『そうであったか。その様子だとアリスフォードの意思も葛西ライトの意思も変わらないようだ。されど、この二人以外から魔王を選び出すのも我としてはしたくない。ならばこうしよう』
そう言った瞬間、初代魔王の体がブレたように見えたのち、新たにもう一人の初代魔王の姿がそこに現れていた。
『本来であれば魔王は一人だ。なぜならば分断を招くことになるからだ。しかし、君達ならそんなことにはならないことを信じて我は禁忌を犯そう』
初代魔王はそう言うとパチンと指を打ち鳴らす。さっきと同じ感覚。瞬きをしたそのほんの僅かな時間でフェンリルと戦った時の神殿と同じ場所へと移動する。違うのは横にアリスの姿が無いこと。
『我が名は魔王ベルゼ・イゴール。君達二人ともにこの最後の魔王の試練を与えよう。これを乗り越えた者だけが真なる魔王となる』
「それって……」
『ああ。もし二人とも我を倒すことが出来たならば二人とも魔王となる。魔王となりたくなければ負ければよいだけだ。だが分かっていると思うが今まで通り……』
そこまで言うと氷の仮面を張り付けたその顔に初めての笑みが生まれる。
『勝てねば待つのは死のみだ!』
その言葉と同時に魔王は剣を振るう。
「はい!?」
すべてを飲み込まんとする漆黒の斬撃がこちらへと迫ってくる。
てか速すぎッ!
間一髪でその斬撃を避ける。俺が元居た場所を見ると、斬撃によって完全に削り取られた大地があった。
「おいおいマジかよ」
魔王になる気がないなら試験受けなくてもいいよ、みたいなのを期待してたのに。これが魔界流ってか。
俺は収納から魔王カイザーの金色に光る宝玉を取り出し、先程はめ込んだ魔王ソルの宝玉と入れ替える。
「こうなりゃヤケだ。魔王にでもなんにでもなってやる!」
ようやくダンジョンから出るあと一歩のところまで来たんだ。こんなところで死ぬくらいなら魔王になってやる。そう腹に決めた俺は初代魔王へと斬りかかるのであった。
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