ハズレ武器マスター~クラス全員が神器と名の付く武器を授かる中で俺だけ神器でもない上に刃すら無い剣なんだけど。置き去りにされたダンジョンの底から始まる異世界成り上がり~
飛鳥カキ
第1話 異世界
光の一切を受け付けないほど深い闇の中、俺、
「ここは?」
周囲を見渡すと見たことのある顔が周りに居る。どうやらクラスの皆も居るようだ。突然の出来事に対して口々に不安感を語り合っている。ここはどこなのかと。先程まで俺がいた1年Bクラスの教室の中でないことは間違いない。
大理石らしき素材で作り上げられた壁には気品漂う赤い壁紙にその上から何かの文様が描かれた
そんなことを考えていると、シャンッと音がして、そちらの方に顔を向けると、豪華な衣装に身を包んだ美しい少女が背の丈ほどはある金属製の杖を持ちながらこちらを見つめていた。その周りには中世の騎士が着ていたような鎧に身を包んだ屈強な男性が数人、その真ん中の少女を守るようにして立っている。
「ようこそお越しくださいました。神の使い様方」
神の使い? そんなことを突然言われて戸惑っていたのはどうやらクラスメイト達も同じらしく、先程までのざわつきにより一層の拍車をかける。
うん? どうしてお前は一人で考え事をしているのかって? 友達がいないからだよ!
と、そんなことは置いておいて現状の把握を試みる。ここはどう考えても学校ではない。教室で授業の準備をしていた際に、突如、眩い光に包まれて目が覚めたらここに居た。新手の人攫いであろうか。それとも……。
俺がちまちまと考え事をしていた折に、一人の美男子が王女の前へと歩み出る。彼の名前は
そしてやはりこのような非常事態にも冷静に事を見ているようで、その立ち振る舞いには焦りが見受けられない。
「神の使い、と言われましても僕たちは気が付いたらここに居たので頭の整理がついていません。まず、あなた方は誰でここはどこなのでしょうか?」
素性の知れない人物に対しても強気な態度で翡翠が言う。あまり刺激しすぎるなよ、しかしよくぞ言ってくれたと2種類の感情が俺の中に駆け巡る中で、問われた少女が口を開く。
「私はリズワール・ディ・アストゥール。アストゥール王国の第一王女です。そしてここはアストゥール王国にある召喚場でございます」
「召喚場? それにアストゥール王国なんて聞いたことが無いのですが?」
「それもその筈です。この世界はあなた方がお住みになっていた世界とは別の世界なのですから」
「別の世界?」
ここに居る誰もが声には出さないものの、翡翠と同じ反応をしたことだろう。急に別の世界と言われてもそんなものはファンタジーの中だけの話であって、現実世界に出てきていい単語ではないのだから。
一同の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだところでリズワール王女の話は続く。
「はい。この世は何層にも重なった世界によって構成されていると言います。その一層一層が俗にいう世界と呼ばれるものです。要するにこの世界はあなた方が住まう世界とは違う層にある別世界、ということになります」
「……なるほど、ここが僕たちの住む世界とは違う世界だということはわかりました。ではどうして僕達はここに居るのでしょうか?」
「私がこの世界へ召喚したからです」
「召喚、についても説明していただけますか?」
「召喚というのは先程述べました“世界の層”の上層で直近に精神体となった方々を現世から離れゆく前にこの世界へと呼び寄せる、という事です」
精神体になっただと? つまり俺達は死んでいたという事なのか?
「お気の毒だとは思いますが、あなた方は何らかの理由で命を失い、その直後に私たちが召喚してこの世界で生き返らせたということです。転生ということになりますかね?」
「し、死んだ? 僕たちが?」
「はい。でなければ別世界へと召喚することは不可能ですから」
先程まで冷静であった翡翠も流石に自分たちが死んだという事を聞いて狼狽を見せる。その狼狽がクラスメイト達へと伝播していき、更なる不安感をあおる結果となる。
俺も例に洩れず、自分が死んだのだというその事実を受け入れられずに呆然とする。こんなに不思議なことが起こっていながらも未だにこれは新手の犯罪なのではないかと自己暗示をかけようとしている。
「それで僕達は元の世界に帰れるのでしょうか?」
「それは難しいです。先程も申し上げました通り、あなた方は元の世界での役目を既に終えてしまったのです。それに上層の世界から下層の世界へと召喚するのはエネルギーが要らない、寧ろエネルギーが発生してあなた方の体に蓄積します。逆に下層の世界から上層の世界へと召喚するには考えられない程のエネルギーが必要になります。それを用意するのは人の身ではまず不可能です」
「つまり、どちらにしても僕達は元の世界へと戻る手段がない、と」
「そうなりますね」
憐れむ様子を見せることもない、鉄仮面のような表情を顔に張り付けながらリズワール王女は淡々とそう述べる。クラスメイト達の中にはその言葉で家に帰りたいと泣き喚く者、そんな出鱈目な話を信じるわけがないと怒号を飛ばす者で二分される。
「葛西君、大変なことになっちゃったね」
そう言って一人ぼっちの俺に話しかけてくるあまりにも珍しい人物は白い肌に艶やかな黒髪が特徴的な
誰も話しかけないのに白鳥さんだけ話しかけてくる、そんな状況にもしかして俺に気があるんじゃ、と思わなかったことはないわけではない。しかし、接しているうちにただ単に優しすぎるがゆえに俺に話しかけてくれているだけだということが分かり、それ以降は汚すことの許されない気まぐれに話しかけてくれる天使として俺の頭の中では位置している。
「そうだな」
「葛西君はリズワールさん? の言ってること信じる?」
「信じたくはないけど、信じるしかないのかなと思ってる」
「葛西君もそう思う?」
「てことは白鳥さんも?」
「うん」
不安そうな面持ちで頷く白鳥さん。その眼には薄っすらと涙が滲んでいる。
「どうぞ」
「ありがと」
ポケットの中からハンカチを取り出して白鳥さんに渡す。白鳥さんは一瞬驚いた顔をするもすぐに受け取って涙を拭く。それを皮切りに徐々に涙があふれていく。
「我慢、してたんだけどね。葛西君には、バレちゃったか。てへへ」
言葉を詰まらせながらあふれる涙を拭きとり、無理やり笑顔を作る。それを見て天使とはまさにこの人の事なんだろうなと思う。
「それでこれから僕達はどうすれば良いのですか?」
「あなた方にはこれからこの世界に住まう魔王討伐に向けてわが国で訓練してもらいます」
「魔王とは?」
「この世界を滅ぼそうとする、いわば人類の敵です。詳しくは後でご説明いたしますのでまずは私についてきていただけますでしょうか?」
そう言ってリズワール王女は部屋から出ていくのであった。
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