第42話 重大な話
「流星君!」
転移石の光とともに現れた翡翠の下へクラスの女子たちが心配して集まってくる。
「魔王が出たって聞いたけど大丈夫だったの?」
「うん、心配しないで。魔王と戦う前に逃げてきたから怪我はないよ。それと皆に伝えたいことがあるんだけどいいかな?」
「あっ、じゃあちょっと待ってて。別の場所で戦っている白鳥さんと花園さんたちを呼んでくるから」
翡翠の言葉を聞いた一人の女子がそう言って走り出していく。戦力を等分した二つの部隊と黒木を中心にして作られた数人による斥候部隊とに分かれて戦っていたのである。そして運の悪いことに翡翠達の方へ魔天と魔王が現れたのだ。
「いや、僕が迎えに行くよ。道中でもしも魔天や魔王に出会ってしまったら対処できるのは僕だけだからね」
そう言って翡翠自らが立ち上がり、美羽達の下へと向かう。
「あっ、俺も行くぜ! 俺様の美羽を守らなきゃいけねえからな」
いつも連れていた子分たちを失ったというのにまったく意に介さない様子の鷺山に女子たちから非難の目が飛ぶ。しかし、そんなことは鷺山には関係ないのだ。美羽からの好感さえ得られれば。
「亮太。君はまだ心の傷が癒えていないんじゃないのか?」
「そんなもん考えてる暇なんざねえだろ? 落ち込むのは帰ってからにするぜ」
実際は落ち込んでなど一切いないのだが、翡翠には嫌われないようにしなければ鷺山の居場所がなくなるため敢えてそう言う。翡翠もそれに気が付かずそうだな、とつぶやくと鷺山の同行を許し、二人で美羽たちを迎えに行く。
♢
「凛ちゃん! そっち行ったよ!」
「オーケー任せて!」
そう言って身の丈程はあろう大鎌を振り抜き、襲い掛かってきた魔族の身体を切り裂く。
「ごめんね。ごめんね」
目の前で失われた命に対して涙ながらに謝る美羽。相手からすれば殺しているくせに泣いているというただの危険人物にしか見えないが、ライトを救いたい美羽にはそうするしかなかったのだ。
「美羽! 危ないわよ!」
「え」
凛に言われた時にはすでに美羽の頭上へと大きな槌が振り下ろされていた。
「同胞の恨み!」
「ごめんなさい!」
その瞬間、青白い光が美羽を包みだし、その魔族を吹き飛ばす。まさに必殺の一撃である。美羽の攻撃を食らった魔族はその聖なる力に体がボロボロと崩れゆくのであった。
「相変わらず凄いわね、その力」
「別に凄くなんかないよ」
その言葉は決して謙遜などではない。本気で凄いと思っていないのだ。その理由はただ一つ。ライトを助けることが出来なかったから。
今の自分でもあの黒い狼の魔物に勝てるかが怪しいと思っているのだ。少なくともライトをダンジョンの底へと突き落とした張本人であるあの魔物を倒せない事にはこの評価が覆ることはないのだろう。
そんな時、美羽達の近くによく知る気配が現れる。
「美羽、凛。大事な話がある。一度こちらへ集まってくれ」
「うん、分かったよ」
♢
「まずは皆、集まってくれてありがとう。僕から二つ大事なことを伝えなければならない。まずは一つ目。クラスメートが二人、亡くなった」
翡翠がそう言った瞬間、作戦室となっている小屋の中で全員が動揺を見せる。これまで、どれだけ強い魔族と戦ってもクラスメートが亡くなるなんてことはなかったのだ。いずれそう言う時が来るかもしれない、そんな思いがあったことはあったのだが、死んだことがないという実績から少し軽んじていたのだ。
自分たちは魔族特攻最強の神器を持っているから、負けることはないのだと。
「その二人をやったのは?」
「魔天って呼ばれる魔族だ。亮太の話によれば魔王の手下の中で最も強い四人の魔族のことを魔天というらしい。全員が神力5000万の神器に匹敵する伝説級のアルムを持っているとのことだ」
「で、伝説級……」
翡翠の言葉に全員が沈黙する。そうして全員が責めるような視線をリズワールへと向ける。
「王女様、伝説級のアルムを使うのは魔王だけじゃなかったのかよ」
「申し訳ありません。それは古い時代の話でどうやら最近はそうではないらしいのです」
「皆、リズを責めるのはやめよう。リズだって僕達のために頑張ってくれているんだ」
「いやだがそのせいでクラスメートが二人失われたというのは中々に重大な責任はあると思うがね」
翡翠の言葉に黒木がそう反論する。
「分かりました。この償いは後でしっかりと行います」
「ふん、それで良いんだよ」
リズワールの言葉に満足した黒木はそれ以上、何も言わなくなる。それを見た翡翠も少し心に引っ掛かりを覚えながらもここで仲間割れをしている場合ではないとして頭を説明することへシフトチェンジする。
「じゃあ、二つ目の話だ。実は僕は魔王と出会ったんだけどその姿が……」
全員が翡翠の言葉へと耳を傾ける。魔王、という言葉はそれだけですさまじい効果があるのだ。
「葛西君だったんだ」
翡翠がそう言った瞬間、クラスメート全員が目を見開くほどに驚愕するのであった。
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