第45話 相談
それから敵の攻勢が一回止んだことを確認して俺はアリスのいる城へと戻っていく。相談したいことがあるからだ。相談することはもちろん、領地の奪還。
「ライト様。アリス様がこの先でお待ちです」
「ああ。ありがとう、グレイル」
アリスを城に留めておいてくれと先にグレイルに言っておいたのだ。放っておいたらどこかへ行っている可能性があるからだ。
そうしてグレイルに言われた部屋の扉をノックして中へと入る。
「遅かったな、ライト」
「ジキルの軍を強化したらぶっ倒れてな。少し時間をロスした」
「なるほどな。それで話とはなんだ?」
「ああ。アストゥール王国に奪われた領地をジキルの軍と一緒に取り戻しに行くつもりなんだが、お前も来ないか?」
俺がジキルの兵士たちを強化した理由。それは領地奪還の際に力を借りたいから。戦場に居た時、数多くの涙と怒りを見た。ジキルの軍の中には奪われた領地に取り残されている家族を持つ者もいた。
魔王となったからには責任が伴う。好きでなったわけじゃないとはいえ、そこで責任を放棄していたらどこぞの王女様と同じだ。
「フフッ、最初は魔王など興味がないという感じだったのに今となっては立派な魔王だな」
「まあ今でも魔王自体には興味ないけどな。ただ、俺の同郷が迷惑をかけているみたいだからそれを償いたいんだ」
それに奴等は俺を置き去りにしたのに対して魔界の人達は敵の種族でもある人間の俺が魔王になっても優しく接してくれる。その扱いには天と地ほどの差があるのは言うまでもないことだろう。
特に鷺山とリズワールには個人的に恨みがあるしな。それが相手ならなおさらだ。
「へえ、まあもちろん妾も行くと回答しよう。というか他の者も行きたがるのではないか?」
「この後、摩天には聞いて回るだけだ。ジキル以外の兵士たちは残念だがスキルを付与する時間がないから連れていかないつもりだが、摩天だけはスキルを付与して連れていこうと思っている」
「それが良いな。特にファフニールの奴が騒ぎ出すだろうから」
まああの性格だしな、と思い出す。今は魔界の北側を守ってもらっているが、この話を聞きつけば飛んでくることだろう。
「取り敢えず明日ファフニールのところへ行ってくる。それで準備が出来たら取り返しに行こう。奪われた土地を」
♢
「状況がすげえ変わるせいで何だか気持ちが落ち着かない」
「ああ。貴様とのダンジョンでの日々が懐かしく感じるくらいには忙しいしな」
アリスの言う通り、ダンジョンでの日々が懐かしい。この世界に来てから大半をあそこで過ごしていたからな。それにもともと弱かった俺を強くしてくれたところでもある。今思えばずっとあそこにアリスと二人でいたときの方が楽しかったのかもしれない。
「魔王様。魔界北側に侵攻していた敵の軍がファフニール様によって打倒されました」
「魔王様。南側で新たに敵襲が!」
「魔王様」「魔王様」「魔王様」
魔王になってからというもの大体がそれだ。しかしその役目をしっかりと果たすのも魔王の責務。次から次へと指示を出していく。
そんな時、焦ったような顔で一人の兵士が玉座の間へと現れた。
「魔王様! 大変でございます! 神の使い、それも聖女が現在この城をめがけて攻めてきているようです!」
「なに! 奴等はいったん退いたのではなかったのか?」
「どうやら聖女だけが引き返してきたようです。奴の力は凄まじく我々でも抑えきれない程でございます!」
聖女。その言葉を聞いて俺はふとあの優しい少女の顔を思い出す。確かあいつのアルムのユニークスキルが聖女だったような気がするな。
「仕方ない。妾が……」
「待てアリス」
玉座から立ち上がろうとしたアリスを手で制し、代わりに俺が立ち上がる。
「なんだ? またライトが行くのか?」
「ああ、そう言う事だ。多分知り合いだから」
アリスが行けば恐らく翡翠であっても死ぬだろう。他の神の使いであったならアリスに行かせていたところだが、件の聖女がもし白鳥さんだったならそうはいかない。彼女はいつも俺の味方で居てくれた。いざというときに俺を守ってくれた。
そんな少女を見殺しにするわけにはいかない。だから俺が行く。
「悪いな」
「まあ良い。その分、妾は楽が出来るからな」
そうして俺は聖女が現れた場所へと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます