第54話 勇者VS深淵の魔王
「侵略者を排除する。それが魔王である今の俺の責務だ。だからお前たちに敵対するのさ」
そう言って剣先を翡翠に向け、睨みつける。ここまでの話を聞いて敵のままでいるならば容赦なくその首を落とすつもりだ。
「……そうか、葛西君。残念だったよ」
寂しげにそう言う翡翠の顔は下を向いていてよく分からない。だが口調からして明らかに俺とは違う意見を持ち、そして俺とは敵対するという事なのだろう。
問答無用で俺は剣を振り下ろす。しかしその剣筋も翡翠の持つ勇者の剣で防ぎとめられる。
「葛西君……いや、魔王葛西ライト! 貴様を倒して僕はこの世界の救世主になる!」
翡翠が纏う光の出量が大幅に増加していき更に力が増していくのが分かる。改めて思うが自分よりも強い相手と戦う事で常に進化し続けるこの能力ははっきり言ってチートだな。魔王の試練を経ていなければ絶対に勝つことのできない相手だっただろう。
「神力が100億!? いや、それ以上」
「うおおおおおおお!!!!!」
騎士団長の言葉が翡翠の成長がどれほど異次元なものであるかを示している。そして身に纏うは世界を照らさんとする光の鎧。煌々とした光を放ちながら飛び上がりこちらを見下ろしてくる。
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名前:翡翠流星
種族名:異世界人
称号:勇者
レベル:9999
スキル一覧
ユニークスキル:『勇者』
常時発動スキル:『暗視』『身体強化Ⅴ』『魔法強化Ⅴ』『魔法防御Ⅴ』『物理防御Ⅴ』『状態異常無効』
魔法スキル:『全属性魔法lv.10』『光魔法lv.10』
特殊スキル:『見切り』『剣豪』
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「これが今の僕が出せる最大火力! くらえよ魔王!
「危ない、ライト君!」
翡翠の剣に宿った巨大な光を見て王国兵士たちは歓喜の声を上げ、魔王軍の兵士たちは絶望の声を上げる。その力はだれがどう見ても最強の一撃。これを返すことのできる者など想像できなかったからである。誰もが勇者の勝利を信じて疑わない、それほどの一撃が打ち出された。
その瞬間、世界に静寂が訪れる。勇者によって勝利の一撃が放たれたから? 違う。勇者の力の強大さを見て諦めた魔王軍の兵士が戦いを止めたから? そうでもない。
「魔王シリーズ『魔王カイザー・ウラヌス』」
そこには一振りの剣を握りしめる魔王が居た。そして静寂の真なる理はまさにここにあった。
魔王シリーズ最強火力を誇る『魔王カイザー・ウラヌスの宝玉』、そしてその力を使いし者はこの世界でたった二人しか存在しないレベル10000の存在である。
「王の息吹」
アルムから放たれた黄金の光は打ち出された勇者の最大の一撃をいともたやすく消し飛ばす。その威力は留まることを知らない。
「なにっ!? 僕の最強の一撃が!」
翡翠が狼狽えている間に黄金の波動を放ちながら迫りゆく王の息吹はすさまじい勢いで目の前まで迫っていた。勝ちを確信していただけにその一撃を避ける力は翡翠にはもう残っていない。
「く、くそ、くそぉ!」
黄金の息吹によって体を包み込まれた翡翠からはそんな声が聞こえてくる。黄金の光が過ぎ去った後、上空から人影のような物が一つ地面へと墜落してくる。
ドサッと言う音を立てて地面に転がるのは翡翠流星の姿であった。所詮理の中で生きるレベル9999と理の外で生きているレベル10000とでは比べ物にならないことが証明された瞬間だ。
翡翠と戦いながら自身の軍勢が優勢かどうかを見極めていた。そして優勢であると判断した瞬間、味方を超強化していた支援特化型の宝玉を最強の宝玉へと取り替えた。
「ゆ、勇者様が……負けた?」
最初は小さな声。だがその小さな呟きはやがて大いなる驚愕へとつながっていく。そこからはまさに地獄絵図であった。
「勇者様が敗れたぞ!」
「勇者様が居なければ我々はどのようにして魔王に勝てばよいというのだ!」
王国の兵士たちがワーワーと騒ぎ散らし後退していく中で一人の女性がこちらへと歩いてくるのが見える。
「翡翠様!」
そう言って駆け寄ってきたのは俺をダンジョンへと置き去りにした張本人、リズワール・ディ・アストゥールであった。
治癒魔法なるものがあったら厄介だと思った俺は翡翠に近づくリズワールを剣で制する。
「それ以上近づくな」
「……まさか本当に魔王が人間だったとは驚きです。それに白鳥様も」
「……」
「……無視ですか」
白鳥さんはリズワールの方を見てムッとした表情のまま返事をしない。もともと抗議していたこともあったと聞くしどちらかと言えば嫌いなのだろう。
それはそうと敵の総大将がわざわざ現れてくれたのは好都合だな。俺は剣を構えたままリズワールへと寄っていく。
「姫様!」
「邪魔だ」
飛び掛かってきた見覚えのある騎士団長を剣ごと切り裂く。それを見た他の者が追従することはない。そしてとうとう俺がリズワールの首に剣を向けたところで戦いの勝者が決まる。
「リズワール。お前の略奪行為はここまでだ。大人しく軍を退かせろ。あと、国王にも話がある。案内するよな?」
その言葉に頷く以外の手段がないリズワールであった。
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