第20話 擬態
無言で虚空を見つめる二人。ポツリポツリと浸みだして落ちる水滴の音が静寂をより際立たせている。今、何をしているかというと姿の見えない魔物の音を聞いてどこに居るのかを判断しようとしているのだ。
上からは何も聞こえない。右からも左からも何も聞こえてこない。どうやら魔物のくせに頭が良いらしく注意深く周囲を見ている俺達には襲い掛かってこないのかもしれない。
「我慢ならんな」
「おいちょっと待て」
早々にしびれを切らし静寂から離脱したアリスが歩きはじめる。それと同時に確かに俺の耳はカサッという音を左の方で聞き取れた。バッとそちらへと視線をやると透明ながらも何かが動いている輪郭だけが見える。いや、透明なんじゃない。これは擬態だな。
そうと分かれば怖くない。今にもアリスへと襲い掛かろうとしているその魔物に向かって魔力を集中させる。この魔法は相手のすぐ近くに魔力を収束させて敢えて乱すことで爆発を誘引する魔法。
「
大気を振るわせるほどの魔力爆発。それに巻き込まれればひとたまりもなく、隠れていた魔物はその姿を露にする。
「おいライト。貴様は妾を殺す気か?」
「すまんすまん。魔法防御Ⅴあるし大丈夫だと思ったんだ」
爆風に煽られ不機嫌そうなアリスにそう答える。この魔法は威力は強烈だが、仲間を巻き込む恐れがあるのが難点だな。一応、これまでの経験からかなり威力を弱めたんだが、平野とかならともかくダンジョン内とかの密室でやる場合は更に威力を抑えた方が良いかもしれない。
「フンッ、まあ良い。それよりあれを受けて奴はまだ息があるようだな」
アリスに言われ魔物が倒れていた場所を見ると起き上がろうとするカメレオンのような魔物の姿があった。姿が見えるのであればこちらのものだ。
「鑑定」
===================
種族名:カメレロン
レベル:2800
スキル:『擬態』、『身体強化Ⅴ』、『貫通』、『状態異常無効』
弱点:頭部にある赤い宝石、水属性
===================
レベル2800か。龍王や途中で出てきたヘル・フェンリルよりは低い値だがこれまでの中ボスよりかは圧倒的に強くなっている。もしかすると1000階層から100階層ごとに1000レベルくらい上がるのかもしれないな。
それと鑑定のレベルが上がったおかげで倒していない魔物でも弱点を知ることができるようになった。
「アリス、こいつの弱点は頭部にある赤い宝石と水属性だ」
「了解した。妾の巧みな水魔法を見せつけてやろう」
そう言うと何もないところから水流がアリスの手元へと集まってくる。魔王だけあって魔法の扱いには慣れているらしく、扱いも上手い。
「くらえ!」
やがて一本の巨大な槍と化した水流がアリスの手元から射出される。その勢いは凄まじく音が数瞬置いていかれ、衝撃波を伴ってカメレロンの頭部にある赤い宝石へと迫っていく。そして、
パリンッ!
水の槍は完全に赤い宝石を捉え、貫く。貫かれたカメレロンはドスンッという音を立てて地面へと倒れ伏した。
「どうだ! 妾にかかればこんなものよ!」
「いや純粋に凄いな」
本当に魔法のレベルが同じなのかが疑問になるほどに威力が強いんだが。lv.10が恐らく最高レベルなわけだがその中でも経験値などという要素で差があるのかもしれないな。
カメレロンの動きがみられなくなった時、いつも通り魔物を倒した時の力がみなぎってくる感覚がする。それを確認した俺は真っ先にカメレロンへと手をかざす。
「宝玉化」
そうして赤いカメレロンの宝玉を手に取ると、アルムに装着する。
「アリス、お前が倒したんだしこのスキル欲しいか? 多分ボスモンスターの固有スキルは一回しか手に入らないぞ」
「うんにゃ、別に良い。擬態など闇魔法でも光魔法でも再現できるしな」
「そうか。なら使わせてもらうぞ」
そうして宝玉がはじけるのとともに魔物を倒した時と同じ感覚が体の中を流れる。
===================
種族名:異世界人
レベル:3432
スキル一覧
ユニークスキル:『鑑定lv.5』『宝玉生成』
常時発動スキル:『暗視』『身体強化Ⅴ』『状態異常無効』『魔法強化Ⅴ』『魔法防御Ⅴ』『物理防御Ⅴ』
魔法スキル:『全属性魔法lv.5』『闇魔法lv.10』『毒魔法lv.10』『爆発魔法lv.10』『雷魔法lv.10』
特殊スキル:『パーフェクトヒール』『貫通』『収納』『変装』『投擲』『剛力』『かまいたち』『擬態』
===================
どうやら戦闘に参加しさえすれば経験値は入るらしい。それにしても上がりにくくなってきたな。相手のレベルが2800だったからも少し上がると思ってたんだけどな。
「のう、妾のステータスも見てほしいのじゃ」
「うん? 分かった」
===================
名前:アリスフォード
種族名:魔族 魔王候補
レベル:2351
スキル一覧
ユニークスキル:『暗黒魔法』『鬼神』『融合』
常時発動スキル:『暗視』『身体強化Ⅴ』『魔法強化Ⅴ』『魔法防御Ⅴ』『物理防御Ⅴ』『状態異常無効』
魔法スキル:『全属性魔法lv.EX』『闇魔法lv.10』『毒魔法lv.3』『爆発魔法lv.10』『雷魔法lv.10』
特殊スキル:『パーフェクトヒール』『貫通』『収納』『変装』『投擲』『剛力』『かまいたち』
===================
アリスのレベルがまだ低いからか100も上がってるな。他にめぼしいところとして……うん? lv.EX?
全属性魔法の横に並んでいるその文字に目をパチクリとさせる。lv.EXってことはlv.10のその先ってことだよな? 対する俺は未だにlv.10から微動だにしてないってのに。これが種族差ってことか?
「のう、教えてくれ」
「ああ、わかった」
アリスにせがまれたため口頭ではあるが、ステータスが変わったところだけを教える。
「ほうほう、なるほどな。lv.EXか。聞いたこともないな」
「アリスでも聞いたことないのか」
「そりゃそうだ。そもそも魔法スキルがレベル10に到達している者が少ないからな。地上では生まれようもない」
スキルのレベルの上り幅は使った回数もそうだがそれよりも魔物を倒した時に入る経験値がでかいような気がする。普通、スキルのレベルを一つ上げるのですら何年もかかる人がいるのだとアリスが言っていた。
「それにしてもお主の鑑定とやらは中々に便利なスキルだな。いつもは魔力装置がなければ自分のステータスなど見れぬからダンジョン探索の時は見れなかったというのに」
「まあ、これが俺の唯一の取り柄だからな」
スキルの種類でアリスと違うのはユニークスキルの欄と先程手に入れた擬態だけだ。だというのにスキルのレベルで上回れてしまえばもはやユニークスキルのためだけに俺がいると言っても過言ではない。
「さてと、それじゃあいったん休憩してから次の階層に向かうか」
「だな!」
そうして俺達は少し休憩を取った後、再度ダンジョン探索を進めていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます