第3話 刃の無い剣
俺達は再度あの厳粛な空気が流れる玉座の間へと足を踏み入れる。神の使い様と呼んでいるのに、そのくせ俺達を見定める無数の視線に尊ぶ気配など微塵もない。所詮は異邦の者である。目に見える何かを残さない限りは常にこの感じなのだろう。
「父上、戻りました」
「うむ、ご苦労であった。して、神の使い様方の意見を聞こう」
「僕達はみんな魔王と戦う事に決めました」
「ほうほう、それは良かった。ならば再度この箱に手を入れるが良い」
そう言って差し出されたのは先程の妙に艶やかな見た目をした黒い箱。中はやはり変わらず虹色の光で満たされている。
「まずは僕から行くね」
その箱に先んじて手を突っ込む者など限られていることを知っている翡翠は真っ先に名乗りを上げて前へと歩み出る。こういう奴が一番の武器を引くのだろうな。そんな俺の予想は部屋中を照らし出す眩い虹色の光でそれが正しいことを証明される。
「な、なんだこれ!?」
「虹色! まさかそんな筈は!」
翡翠は自分の腕に絡みつく謎の物体に慄き、国王を含むこの国の権力者たちはその光輝く色に慄く。翡翠の手に握られている虹色の光を放つ物体は生き物のように激しくうねりを起こす。やがてそのうねりは剣の形となって落ち着きを取り戻し、翡翠の手に収まる。
黄金の龍で装飾された鍔に赤く光り輝く宝石のような物が埋め込まれている。柄には派手な装飾が施されているものの、しっかりと握りやすさもあるようで明らかに普通ではない両刃の剣は見事に翡翠の手に収まっている。
「おお、おおおおお!!!! 神器です! それも
黒い箱の横に立っている眼鏡を付けた男性がそう叫ぶ。どうやら黒い箱の横に数値と文字が浮かび上がっているらしく、それを見て驚いたらしい。
「1500万だと!? 我が国の騎士団長ですら1000万くらいしかないのだぞ!?」
それにしてもジンリョクか。またよく分からない言葉が飛び出してきたな。ただ、国王たちの盛り上がり方からしてすさまじい偉業であることは何となく想像がつく。やっぱり思った通りだな。性格、才能、ルックス。どれを取っても彼の右に出る者はいない。そんな翡翠のアルムが悪いはずがなかった。
それから翡翠に続いて男子生徒たちを中心に続々と黒い箱へと手を入れる。翡翠のアルムを見て我こそはと思った者が多いのだろう。
「あ~、くっそ! 812万かよ。流星にはやっぱ勝てねえぜ!」
「いや、812万でも結構強い方じゃないか?」
「まあ、俺だし? それくらいは当然って言うか?」
鷺山の結果もどうやら好ましかったようで、翡翠に負けたと口では言いながらも吊り上がった口端が感情を表している。翡翠よりは見劣るがそれでも十分にカッコいい剣である。俺としてはあいつのアルムの数値が高いのは不味い。これでより一層、付け上がった鷺山が一体何をしでかすか分からないからだ。力を持った暴君。できれば鷺山よりも大きい数値が良いな。
「葛西君、私達でラストみたいだよ」
「みたいだな」
いつの間にか端っこの方で眺めていた俺と白鳥さん以外の全てのクラスメートのアルム召喚が終わったようである。翡翠のように虹色に輝くことはないが、大体の人が三色くらいは光っていた。数値が500万を超えた鷺山達を含む四人は5色くらいの光に包まれていた。
「じゃあ私先行くね」
そう言って白鳥さんが黒い箱へと手を入れる。すると今度は黒い箱の中身が真っ白な光でいっぱいになる。
「単色か……うん? いや待て! 神力1260万だと!? 単色でこの数値は見たことが無い」
「いや待て。白い光はおかしい。アルム召喚では白の光なんてかつて生じたことは一度もないはずだ」
「美羽ちゃんすご~い! 最強じゃん!」
「え? え? よくわからないんだけど」
国王たちからの反応からして色が一色の場合でも凄いことがあるらしい。いわゆる特異点的なものなのか。とにもかくにも白鳥さんが出した魔法の杖は翡翠に続いて二人目の1000万越え。白鳥さんも納得ができるな。学年一、いや学校一のアイドル。皆からの人望も厚く、天使のような見た目の彼女は上級生すらも虜にされ、入学して二日後にファンクラブができたほどだという。
ていうか今気づいたがこの状況って結構不味くないか? 一番最後の上に直前の白鳥さんが1000万越えという最高レベルに高い数値をたたき出したのだ。
「すみません、最後の方。お早めにやっていただいてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はい」
俺が黒い箱の前に行くことを躊躇していると近くに居た騎士がそう言って前に行くよう促してくる。せめて皆が超えている100万は超えてますように。そんな思いを抱きながら恐る恐る黒い箱へと手を伸ばす。
「どうせあいつ大したことねえ武器でも出てくんだろ? 数値5万とかよ」
「うっわー、あり得るあり得る」
「てか美羽ちゃんトリにしといたほうが良かったんじゃね? あいつがやったら場が冷えて終わりだぜ」
鷺山とその取り巻き共の俺を馬鹿にする言葉が耳に入ってくる。それを聞いた周りの生徒たちも数人クスクスと笑っている。最後の意見に関しては俺も同意だが、それにしても腹が立つ奴等だ。いや我慢我慢。ここで俺が凄い数値の武器を引けば良いだけだ。
そう思って俺は勢いよく手を突っ込む。その瞬間、先程までと同じように黒い箱を埋め尽くしていた虹色が一気に消えていく。そして俺の色で光りだして……ん?
「うん? 光らないぞ」
突っ込んだ腕の先は真っ黒のまま色を変えない。普通ならばここで赤や黄色の光が入って綺麗に光りだすというのに俺の時だけ真っ黒のまま変わらない。故障か? そう思ったが、手に何かの感触がしたためゆっくりと手を抜く。
少し見えたのは剣の柄だ。ちゃんと武器は出ているようだ。しかし、剣にしてはやけに軽いな。嫌な予感がする。そして嫌な予感というのは往々にして当たるものである。
「おいなんだよそれ! 流石にウケるわ!」
鷺山の声を引き金にしてクラスメートたちの間でクスクス笑いがまた起こる。今度は先程よりも辛辣な声も聞こえてくる。
「あれはないねー」
「ていうか武器じゃなくね?」
「ちょっと皆! やめてよ! 同じクラスの仲間でしょ!」
白鳥さんが俺の前に立って庇ってくれる。それがより一層俺の惨めさを浮き彫りにする。だってこんな結果、俺だって笑いたくなるってもんだ。
「え、え~、当然ですが神器ではないようですね。それに神力0です……プフッ」
黒い箱のそばに立っている眼鏡の男が噴き出しながらそう告げると、今度は部屋中で小さな笑いが起こる。国王の前でなければ盛大に笑われたことだろう。しかし、俺にはそれに対して反論する余裕はなかった。なにせ俺の手元にあったのは
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