第2話 玉座の間
リズワール王女に連れてこられた先は召喚場と呼ばれていたあの部屋よりも数倍大きい部屋であった。壁にめぐらされた装飾の数も先程とは比にならないほど多く、かといってしつこさを感じさせない。まさに豪華絢爛という言葉が相応しいその部屋には所狭しと派手な正装を着用した人たちが立ち並んでいる。
その奥には巨大な椅子に座っている男性の姿があった。恐らくあの男がこの国の王なのであろう。その男の前へ行くとリズワール王女は膝を地面につけてこう告げた。
「父上。神の使い様をお連れ致しました」
ここに来るまでにリズワール王女から聞いたのだが、俺達はこの世界を侵略し続ける魔王を倒す戦力として召喚されたらしい。先程から神の使い、と呼んでいるのは俺達の事で、上層の世界から召喚された者達は軒並み女神の祝福を受けているため、そう呼ばれているのだとか。
女神の祝福を受けた者はそれだけで強大な力を保有しているため、ちょっと訓練をするだけで魔王と戦えるようになるのだという。そもそも俺達が戦う前提で話を進めてこられて少し困惑はしたが、お陰である程度の事情は分かった。
「おお、リズ。成功したか。でかしたぞ」
周りから品定めをするかのような視線を感じる。横に正装で整列しているのがこの国の大臣とかなのだろう。こんなに大勢のお偉いさん方にこうして注目を浴びたことはないため、総勢30名のクラスメイト達の端っこの方で俺は身を縮める。
「私の名はレオナルド・ディ・アストゥール、この国の王である。あなた方にはさっそくだがアルム召喚をしてもらいたい。リズワール、あれを持ってくるのだ」
「はい」
リズワール王女曰く、この世界では全ての人たちにそれぞれ固有の武器、アルムが女神から与えられるのだという。リズワール王女が持っている大きな杖もそれらしい。そしてアルムが与えられる儀式がアルム召喚というものなのだ。話によれば、俺達は女神によって祝福されているため、アルムの中でも特別に「神器」と名のついた強力なものを授けられるのだという。
そうしてリズワール王女が持ってきたのは巨大な入れ物である。何が入っているのか時になるところではあるが、それよりも気になったのはリズワール王女の持ってくる方法である。何と、リズワール王女の身長を遥かに超えるその入れ物をふわふわと地面から浮かせながら持ってきているのだ。
あれはもしかして魔法なのか? 更にファンタジーな要素が増してきたな。
そして俺達の前に置かれた黒い箱をリズワール王女が開くとその中は虹色の光で満たされている、なんとも奇妙なものであった。
「では一人ずつ前に来てこの箱に手を入れてアルムを取り出してもらえるか?」
国王がそう言うも誰一人としてその箱に手を突っ込むものは居ない。それもそうだろう。いきなり得体の知れない光を放つ箱の中に手を入れるなどしたい者が居る筈もない。
「お待ちください!」
そこで翡翠が声を上げる。
「何だ?」
「僕達はまだ戦うと決めたわけではありません! その決断の猶予をお与えしてもらえないかと」
「ふむ。その時間を与えてやっても良い。ただ、一つ忠告しておこう。我が国も魔王の侵攻によって余裕があるわけではないからな。戦う選択をした者にしか私たちは生活の手助けをしない。戦わない選択をした者には一応一定の金を渡しはするがそれ以上はしない。よく考えて選ぶことだ」
理不尽なまでの言いようである。つまり、戦う選択肢を取らなかったものはある程度の金を渡されたら城から追い出されるということだ。住居もない、職もない、知識もない、そんな状態で放たれれば野垂れ死ぬ未来しかない。これでは強制的に戦えと言っているようなものではないか。
それからいったん選択する時間を与えるという名目で別室へと移動する。案内をしたリズワール王女も部屋から出ていき、完全にクラスメートだけとなった空間で翡翠が話し始める。
「みんなの意見を聞きたい」
「俺はいいと思うぜ、流星。神器とか貰えて無双できんだろ? 楽しそうじゃねえかよ」
そう声を上げるのはクラス一のいちびりである
こいつは平気で人の事をけなしてくるから嫌いだ。それも愛のあるいじりではなく嫌悪感を見せた物だ。たまに白鳥さんと話していると思い切り俺に肩をぶつけてくる、鬱陶しい奴だ。まあ、表立って逆らうことはしないけどさ。
「でもいきなり戦うだなんて無理だよ」
白鳥さんの言葉に女子たちから盛大な同意が聞こえる。見ている感じだと、女子全員は戦いたくないという意見で、男子は半分が戦いたい、もう半分が戦いたくないといった意見に分かれているようだ。
「葛西はどうする?」
「ケッ、そんな奴にいちいち意見なんざ聞かなくていいぜ、流星」
「鷺山君。そんな酷いこと言わないで。仲間なんだから」
辛辣な鷺山の言葉に白鳥さんが反応してそう言ってくれる。
「美羽の言う通りだぞ、亮太。今はみんなで団結しないと乗り越えられないんだから」
「こいつの力なんざなくても大丈夫だろ」
「もう!」
このようにして俺は何故だか鷺山から常に敵意を向けられている。はあ、この男だけ召喚されなければよかったのに。まあ、翡翠に聞かれてるし答えるとするか。
「心情的には戦いたくないが、状況的には戦わざるを得ないとは思ってる。こんな何も分からないところで放り出されるよりかはそっちの方が生き残れそうだからな」
「うん、ありがとう。そうだよね。正直、僕も葛西と同じ意見だ。戦わざるを得ないと思うんだ。そこで僕から提案があるんだけど良いかな?」
翡翠の言葉に全員が首を縦に振る。誰も絶対的権力者である翡翠に逆らう者は居ない。クラス中から全幅の信頼を置かれている翡翠は何も手掛かりの無いこの世界で唯一の命綱なのだ。
「国が行ってくれる訓練には全員参加した方が良いと思うんだ。それでいざ戦うって言うときは戦ってもいいと思っている僕たちが前線を張って戦いたくない人たちを守ればいい。これでどうかな?」
翡翠の提案に異議を飛ばす者はいない。他の誰かが言えば、反対するものが現れたであろうが、翡翠が言うだけで一気に信頼度が高まるのだ。こうして全員の意見が一致したため、部屋から出るのであった。
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