第11話 王国サイド②

「また居残って練習してんじゃん」


 全員が訓練を終え、部隊の部屋へと引き揚げていく中、美羽ただ一人が残って剣を振るっていた。彼女のアルムは白く美しい刀。振るうたびに空を切る音が洗練されている。


「うん。いつか葛西君が帰って来た時に今度は守れるように強くなりたいんだ」


「ま~た葛西の話?」


 美羽にそう話しかけるポニーテールの女子の名は第一部隊で一緒になっていた花園凛はなぞのりん。花園は元々一匹狼で誰が何をしていようと無視して我が道を行っていたため、第一部隊の誰とも会話をすることはなかった。


 しかし、ライトがダンジョンの奥地へと置き去りにされたその日から美羽が一人居残って訓練に励んでいたのを見て居ても立っても居られなくなり、こうして話しかけるようになったのだ。


「別にいいじゃん。凛ちゃんには関係ないでしょ」


「ま、別に良いけどさ。あんまり鷺山とかの前でその話しない方が良いわよ。明らかに機嫌悪くなるからさ」


「それはわかってる。凛ちゃんにしか言わないよ」


「フフッ、信頼されてるようでありがたいわね」


 そう言うと花園は持っていた槍型のアルムを壁に立てかけ、代わりに近くにあった模造剣を取り、構える。


「付き合ってあげるよ」


「ありがと」


 そうして美羽も近くに置いてあった模造剣を取り出し、花園と対面する。それから晩御飯が提供されるまでの間、二人で剣を打ち合うのであった。



 ♢



「皆様、今日までよく頑張ってこられました。明日からとうとう魔王討伐に向け、王都を出発いたします。先導するのは私と王国騎士団です」


 初めてのダンジョン探索から数週間が過ぎたとある日、いつも通り訓練をしている美羽たちのもとへリズワールが現れ、そう告げる。


 すでに美羽達の戦力は第一部隊は上級ダンジョンも踏破できるまでになっており、魔王討伐に十分な戦力であると判断が下されたのだ。


「ようやくか。皆覚えているか? 最初に交わした約束を」


 翡翠の言葉に皆が頷く。翡翠の言う約束というのは戦いたい者が先陣をきって戦う事で戦いたくない者たちを守るというものである。ダンジョン探索や訓練では仕方なく付き合っていた者もこの約束事があるからこそ。


 この約二か月間で戦いたい者が急激に増え、戦いたくない者は限られてはいるがそれでも下の方の部隊、特に第五部隊と第四部隊には戦いたくない者が多い。神器を扱える以上は常人よりも強いことには変わらないがそれでも不安なのだ。


「約束?」


「僕達はクラスの皆で決めた約束があるんだ。それはリズでも教えられない」


「そうですか」


 相変わらず無機質な笑みを浮かべるリズワール。一見、穏やかに見えるが瞳の奥が笑っていないのは美羽にはわかった。


「あの王女様、怖くない?」


「凛ちゃんもそう思う? 私も苦手なんだよね」


「へえ、美羽でもそんな感情あるんだ。誰とでもうまくやってるイメージがあったから意外だわ」


「なんでだろう。あの子が特別だね」


 もちろんライトをたびたび馬鹿にしていた鷺山の事も好ましくは思っていない美羽だが、リズワールほどではない。彼女の事を美羽は本能的に拒んでいるのだ。


「我らが行うのはいわゆる遠征と言われれるものです。各地に散らばる魔王の勢力をしらみ潰しにしていき、最終的に本拠地をたたきます。まずはルーランド王国へ向かいます。その周辺で魔族達が蔓延っているらしいので。それでは伝えたいことは伝えましたので私は戻りますね」


「あっ、ちょっと待ってくれリズ」


「どうされましたか? 翡翠様」


「いや、僕達も強くなったからさ。その手合わせがしたいと思って。誰かうってつけの人はいないかな?」


 翡翠の言い分はあくまで建前である。本音を言えば、リズワールが最近、訓練を見守ることが少なくなったのが寂しいのである。手合わせがしたいと思っているのも本当の事だが、一番の理由はそれでリズワールに居てもらおうという魂胆なのだ。


「指南役である騎士団長のゴードンに頼めば良いのではないですか?」


「それはそうなんだけど」


 翡翠の思いを知ってか否かリズワールは今度こそ帰ろうと翡翠に背を向ける。そんなリズワールの態度に少し表情を曇らせる翡翠だったが、諦めたようでクラスメートたちのもとへと戻ってくる。


「ふむ、勇者様がご所望ならば今回は私が皆と実戦形式の訓練を始める。特別にアルムを使って戦うぞ」


 そうして一年Bクラスの生徒たちの訓練が始まるのであった。

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