第22話 激戦

 洞窟の中で輝く金色の龍。その圧力は信じられない程強く、これより下の階層で出会った龍王クリムゾンよりもはるかに大きな力を感じる。


「鑑定」


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 種族名:?

 レベル:?

 スキル:?

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 くそ、何も見えない。鑑定のレベルが上がってから久しく味わっていなかった相手のステータスを見れないこの状況。そのうえ、うちの最高火力であるアリスが気絶してしまった今、こいつと戦うのは俺一人でだ。


 強敵に初手で出すのは最初から俺の頭の中で決まっている。宙に浮く金龍にアルムに付与されたスキル『飛翔』で飛び上がり、近づいていく。当然それを黙ってみているわけもない金の龍は次々と攻撃を放ってくるがそれらすべてを感知スキルを駆使して避けていき、ようやく剣の間合いへと入り込む。


「まずは試しだ! 毒の剣ポイズンソード!」


 豪快に振り切って毒の斬撃を飛ばす。この技は徐々に食らった相手の体力を削っていく毒魔法の一つだ。このダンジョンには一応、状態異常が通る魔物も居る。こいつはどうだ?


 紫色の斬撃は金の龍めがけて一直線に飛んでいく。もはや避ける時間なんて与えない。毒の斬撃は見事命中し……


 金の龍を目前にして弾け飛んだ。


「は?」


 毒が効かないとかそんなことなら予測できた。だが何だ今のは? こいつは今何もしていなかった。なのに斬撃そのものが消し飛んだ。


 予想の斜め上の現象に気を取られてしまい、感知が間に合わず横から薙ぎ払ってきた金龍の尻尾が腕に掠る。


つっ」


 今、ほんのちょっと避けるのが遅れただけで直撃はしてないよな。なのに腕が深くえぐられたような痛みに襲われる。


 こんな攻撃がもし直撃でもすれば常に風魔法で強固な障壁を作っているアリスならともかくアリスほど魔法をうまく扱えない俺は風魔法の障壁を作っていたところで即死だな。


 一先ず尻尾が掠った右腕を回復し、今一度金龍の倒し方を考える。そもそも俺の斬撃を消し飛ばしたあの力の正体が分からない以上、俺はこいつにダメージを加えることすらできない。アリスと同じく風魔法で障壁を張っているのか?


 分からないが、取り敢えず打つ手を増やすのみだ。


 そんなことを考えているうちに金龍から金色のブレスが放たれる。感知スキルで何とかそれを避ける。そのブレスが通った後を見ればダンジョンの壁に先が見えなくなるほどの巨大な穴が出来上がっている。まさに災害である。改めて目の前の敵の強大さを痛感する。


「これ……勝てるのか」


 思わず零してしまう弱音。誰にも勝てなかったどん底からのし上がりやっとの思いでたどり着いたこの状況に容赦なく上から現れてくる。それも突然に。確かに少し慢心はしていたかもしれないが、少しくらい良いじゃないか。今まで床に這いつくばってたんだからさ。


 スウッと目を閉じ、精神を研ぎ澄ませる。見はしなくとも相手の動きや息遣いを感じ取ることができる。左から爪、右からも爪。最後に正面からブレス。


 相手の動きを予測して次から次へと繰り出されてくる攻撃の数々をすべて避けていく。頭は冷静に保ったまま。少しでも乱れればそれは俺の動きにまで伝播する。一瞬一秒たりとも気を抜けば死ぬこの状況では冷静に相手の動きを分析し、急所を突くのが重要だ。


 俺に全く攻撃が当たらないからか徐々に金龍の動きが雑になってくる。気高い見た目をしていながら案外、我慢できないんだな。段々と粗雑になってきた行動の節々に隙が見え始める。ならばそこを狙うのみ!


「行くぞ!」


 燃え盛る地獄の炎を纏いながら隙が出来た脇腹へと斬りかかっていく。それを阻止しようとして爪が飛んでくるが関係ない。


「氷獄!」


 俺の攻撃を阻害せんとして襲い来る爪は決して温まることのない氷で凍てつかせる。よし、思った通り魔法じゃなけりゃ、通るな。


「うおおおおっ!!!!!」


 徐々に火力を増していく獄炎の剣が衝撃波を伴いながら脇腹へと迫りゆく。その焔は大気に舞う埃すらも燃やし尽くす。


獄炎剣ごくえんけん!」


 今己が出せる最高の力で勢いよく剣を金龍へと突き刺す。そのあまりの衝撃に耐えきれなくなった金龍は宙に浮いていた身体を地面へと墜落させる。


 ドオオンッ!!!!


 龍が地に沈む重厚な墜落音が部屋中を駆け回る。そしてその脇腹には獄炎で彩られた深い傷口が見える。やがて獄炎は金龍を飲みこみ燃やし尽くすことだろう。


 俺もトンと地上へ降り立つ。ピシッという音が剣の方から聞こえる。どうやら先程の一撃で罅が入ったようだ。


「お前には今まで世話になったな。今度からは俺の中で生きろ」


 龍王クリムゾンの宝玉が瓦解を始める前にスキルを取り出す。アルムはいつもの無機質な見た目へと変貌し、これまで助けてくれていたクリムゾンの宝玉が崩壊したことを示す。あいつとは長い付き合いだったから少し寂しいな。


 受け取ったスキルは氷獄。他の魔物では見たことが無かったからこれにした。


「さてと、ボスも倒したことだしアリスを連れてここを出るか」


 そう言って呑気にアルムを片付け、アリスのもとへと歩いていく。このときの俺はまだ気が付いていなかった。いつもならば倒した後に流れてくる力の奔流が今回はことに。


「な!?」


 気が付いた時にはもう遅かった。すでに俺目掛けて放たれたブレスが俺の目の前まで迫っていたのであった。

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