第5話 部隊格差
「お前たち第五部隊の寝床はここだ」
騎士にそう言われ連れてこられた場所は20畳程度の大部屋であった。
「まさかここに6人で暮らせって言うの! 男子も居るのよ!」
ここで部隊が一緒になった
「仕方ないだろう。我が国も魔王の侵攻で疲弊しているのだ。貴様らの面倒を満足に見る余裕なんざないんだよ」
残念ながらこの国は思っていたより腐っていたらしい。恐らく他の部隊はそんなことはないのだろう。第五部隊に属するのはクラスの中でも特に神力の数値が低い者ばかりだ。低いとはいっても俺以外の全員、100万を超えているわけだが。
「毎日昼と夜に飯を渡しにくる。それじゃあな」
バタンと扉を閉め、騎士が去っていく。閉められた扉を見て石川が、なによあいつ、と毒吐き、不機嫌そうに近くにあった椅子に座る。
「てか家具も少なすぎる。椅子が三つに机が一つ。それに布団すら無くねえか?」
「ホントだ。私達にこのかったい床で寝ろってことなの?」
ひっきりなしに部屋の粗悪さに文句が飛び交う。俺も皆と同意見である。普通ならば床に柔らかい素材のカーペットなんかを敷いてくれていたのならまだ良いが、どう考えても石造りの床がむき出しになった状態になっている。昨日まではベッドの上で寝ていた者にとってこの状況は最悪と言ってもよいだろう。
それに机はまだしも椅子が足りないのは問題だ。この中で序列が生まれ、椅子を使うのは誰々などと決まっていくことが予想されるからである。そうしてその優先順位の最下位となるのは間違いなく俺だ。
「てか俺達を才能ゼロの奴と一緒にすんなよな」
「本当だわ。一番下といっても私達、一応百万はあるんだから。なのにどうしてこんな奴と一緒の待遇を受けないといけないのよ」
部屋への不満から自分たちの不遇さを嘆き最終的には石川ともう一人の男子の矛先が俺へと向く。
「そもそもアンタが居なかったらもうちょっとマシな待遇になったんじゃない? アンタのせいで私たちまでこんな事になってんのよ! 謝りなさいよ!」
「そうだ! 本来なら神力とやらが百万もある俺達がこんな待遇を受ける筈がない。全部お前のせいだ!」
そうやって責め立てられる。いつもなら白鳥さんや翡翠が助けに入ってきてくれるが、ここにはその二人は居ない。部隊の他の四人も石川達に加勢はしないものの意見には賛同しているようで攻撃的な視線をこちらへと向けてくる。
「別に俺だって好きでこんな能力になったわけじゃ……」
「なに? 口答えすんの?」
そう言って石川が俺の目の前に持っていた槍をちらつかせる。
「おい、それは流石にヤバいんじゃないか?」
「大丈夫でしょ。国もこんな奴要らないでしょ」
石川の剣幕に一緒になって俺を責めていた男子生徒ですら若干引いて止めようとするが、石川はその手を振り払う。この中では確か石川が一番、神力が高かった。この槍で貫かれれば間違いなく即死だろう。
「わ、分かった。俺が悪かった」
「フンッ、最初からそうやってれば良いのよ」
俺が謝罪を述べると石川は満足したように槍を引っ込める。あのまま俺が意地でも認めなければ奴は確実に槍を突き刺してきたことだろう。向こうの世界で槍なんて触ったこともないであろう石川が軽々と扱っている姿を見るに恐らくはスキルのおかげだろう。
俺にもそんなスキルが欲しかったと、腰に提げている刃の無い剣を見て思う。
「じゃあ、そこの無能君はおいといて私達で椅子のローテーション組みましょ。今日は~」
そうして石川が場を仕切りだす。普段、翡翠や鷺山がいるときは表に出ない癖にいざ自分が一番強い立場になった時にやたらと仕切りだす典型的な奴だな。まあ、椅子くらいどうだっていい。そう思って部屋の隅っこの方へと移動していると、部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえる。
「今から訓練を行う。広場に集まれ」
♢
「葛西君」
「白鳥さん」
騎士に言われて広場に来ると白鳥さんがすでに広場で訓練が始まるのを待っていた。部隊ごとに訓練するわけではなく一応平等に訓練をしてくれるようだな。
「良かった。酷い目にあってないかって心配だったんだから」
「心配してくれてありがとう。今のところは大丈夫だよ。強いて言うならみんな同じ部屋なのが嫌だけどな」
「えっ? 同じ部屋なの?」
「白鳥さんのところは違うのか?」
「うん。個室だったよ」
やはり第一部隊と第五部隊では待遇に格差があるようだ。そんなことを平気でするあたり、第五部隊が反旗を翻したところで何の影響も受けないとでも思っているのだろう。実際、受けないんだろうけど。
「それではこれより訓練を始める! 近距離戦の者はこちらへ! 魔法を使う者はあちらへ! 遠距離戦の者はそちらへ分かれるように! それと勇者様と聖女様はわたくし、騎士団長のホーンハイムが訓練相手となりますので私の元へ来ていただけますか?」
「あっ、呼ばれちゃった。またね、葛西君」
「ああ」
そう言って白鳥さんの背中が遠ざかっていく。聖女、というのは白鳥さんの事を指す。無論、能力名とその整った容姿からしてお似合いであろう。
「おい、無能葛西。愛しの美羽ちゃんがあっちに行っちまって残念だったなぁ!」
一応俺のアルムが剣だったこともあって近距離戦のところへと集まると、真っ先に鷺山からそんな言葉が掛けられる。
「おめえと美羽が釣り合う訳ねえだろ? 話しかけられるからって甘いこと考えてんじゃねえぞ?」
「別にそんなこと考えてない」
それは本心からの思いだ。なぜならこのクラスで最も権力もあり、人望もある翡翠が実は白鳥さんのことが好きなのを分かっているから。俺なんかが勝てる筈もない相手がいる時点でその線は諦めている。
「ケッ、生意気なこと言いやがって。そういやぇ、この訓練ってペアを組んで戦う奴らしいぜ?」
そんな事を言う鷺山の顔は醜くゆがんでいた。なるほど、声をかけてきたのはそれが狙いか。
「俺がヘボヘボ葛西君のために訓練つけてやんよ。せいぜい壊れないように気を付けるんだなぁ」
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