第8話 直情径行な美丈夫、ナイト登場!
「そうだ、一応ハンドルネームも変更したほうがいいかも。ああいうのはしつこく追ってくるかもしれないしさ」
ラブリーが提案すれば、夜更けの荒らしは意気揚々に答えていく。
「おう!既に変更しといたぜ!あと念の為、このゲームでのハンドルネームも変更した!夜更けの荒らし改め……今から俺のことを、レイト・ナイト・ヴァンダリズム様と呼んでくれ!」
「それ英語呼びにしただけじゃねぇか!つぅか呼びにくいからナイトで良い?」
名無しの金平糖が代替案を口にすれば、夜更けの荒らしは舌打ちをし「んじゃ、ナイトでいいよ。しゃーねーなぁ、じゃあこっちもナイトに変更しときますわ」と再び表記を変更した。そして夜更けの荒らしはナイトとなった。(※以降、夜更けの荒らしはナイト呼びになります)
「それにしても、虎徹とミカエルから連絡が全然ないんだけど……どうしたんだろあいつら。まさか殺られた──なんてことはないよな……」
名無しの金平糖が懸念を呟けば、ナイトは首を捻り口を開く。
「アイツ等なら大丈夫じゃねぇか?やばくなったら速攻で逃げると思うし、無茶はせんと思うぞ」
「ふーん、他にも仲間がいるんだね。そうだ、名無しの金平糖とナイトは付き合い長いの?」
ラブリーの問いに2人は顔を見合わせたのち、それぞれ口にしていく。
「チャットで出会ってかれこれ、6年ぐらいの付き合いになるのかな……?」
「ああ、そんぐらいだな」
「へぇ~、結構長いんだぁ~。なんか良いねぇそういうの。オフではあったことあるの?」
ラブリーの質問にナイトが口を開く。
「何回かあるな。丁度都合がつく日があったから、ご飯した。名無しの金平糖お勧めの飯屋は全部旨かったから、また食べに行きたいなぁ……あとは電話したり、ラインしたりもしてるけど、何だかんだでチャットしてるよな」
「だなぁ。それで、ラブリーちゃんはチャ歴はどれぐらいなん?」
「アタシも結構長いよぉ。それこそ、お2人の付き合いぐらい長いかなぁ」
「ほほぉ~。そんじゃあ結構コアなユーザーだね」
「ふふっ、まぁね。よくネカマとかもして遊んでるし」
「ハハッ、チャットあるあるだね」
3人が楽しく会話をする最中、突風が吹き、上空で大きな影がゆっくりと横切っていく。
「なんだ……?」
「なんだろうね……?」
「──!おい、2人ともさっさと逃げるぞ!こっちだ!」
和やかな空気は一瞬にして消え、名無しの金平糖は叫びながら踵を返し駆け出した。上空で横切った大きな影は城の周囲を旋回するように暫く飛行していたが、先程赤ずきんが摘み取っていたリンゴの木の側へと降り立った。
「えっ、マジか。あれが噂のレッド・ドラゴンか!?」
「でっか~!」
名無しの金平糖に続き、夜更けの荒らしとラブリーも続いて駆け出していく。だがレッド・ドラゴンは火炎を吐かず、何故かそこで上体を低くした。
「なにやってるんだ、レッド・ドラゴンは……?」
名無しの金平糖は走りながら振り返って見た刹那、レッド・ドラゴンと視線が合い──瞬間、ドラゴンが消え、ズンとした地響きと共に目の前にレッド・ドラゴンが現れた。レッド・ドラゴンは跳躍して一気に距離を詰めてきたのだ。完全に退路を絶たれてしまったその時だ──
「答えたほうが身の為だぞ──……と、警告しただろうが」
レッド・ドラゴンの頭上から苛立ちの声が降ってきた。そして1人の男がドラゴンの頭上を踏み台にして地面に降下し着地する。その男は漆黒のアーマーを着込み、金髪の長い髪、そしてエメラルドグリーンの瞳に彫りが深い顔ながらも色白な男で、美青年ランキングがあれば恐らく堂々1位にランクインする程の美貌を兼ね備えている。男でも見惚れそうな美丈夫具合のイケメンだが、その金髪の男は間髪入れずに再び口を開き──、その顔と似つかわしくない乱雑な口調で詰問してきた。
「イランゲーム開発者達で内部抗争があった情報をどこで入手したのか訊いてんだよ!答えろや!つーかテメェが夜更けの荒らしか!?吐けやゴラァア!」
名無しの金平糖に歩み寄るなり胸ぐらを掴み、強く揺すぶった。
「いやいや、そいつは名無しの金平糖で、俺が夜更けの荒らしなんだけど……」
「テメェか……!俺に糞舐めた態度をしてやがったのは!」
鬼の形相で
「お言葉ですが……挨拶もなく横暴な態度でチャット部屋に入室してきたあなたこそ、糞舐めてませんかね?それと自分、名前変更したので元・夜更けの荒らしで、今はナイトと名乗ってますので、ナイトとお呼びくださいね」
ナイトがネット特有の喋りと煽りを入れて返した瞬間、金髪の男は髪を振り乱しながら更に激昂しだした。
「あぁ……?俺に糞舐めた態度をしやがっただけででなく!ナイトに変更しただと……!?ざけんじゃねぇええええ!!」
すると金髪の男は夜更けの荒らしに勢いよく掴み掛かっていく。とんだ狂犬具合だが、それよりも危険なドラゴンが目の前にいる訳で、そっちのが一大事である。
「ねぇ!ていうか!目の前にレッド・ドラゴンいるしやばくない!?早く逃げないと……」
ラブリーが口にした瞬間、金髪の男はきっと振り向き告げた。
「あ……?なにビビってんだよ。
金髪の男はそこまで言うと、再びナイトに突っ掛かり罵声を浴びせはじめた。
「俺のハンネをパクってなりすましてんじゃねぇよ!俺がナイトなんだよ!テメェみたいな貧弱なナリの奴がナイト名乗るなや!ぶち殺すぞ!」
イランゲームの内部抗争から一転、何故か話は夜更けの荒らしが改名したナイトに変わってしまった。とまれ、この金髪の男が何者かは不明だが、レッド・ドラゴンを
「ちょ、ねぇ……ねぇってば!名前なんて何でもいいじゃん!?止めなよ!」
ラブリーは金髪の男からナイトを引き剥がそうと止めに入る。名無しの金平糖は暫し考え、それから口にした。
「あなたはもしかして、イランゲームの開発に所属していたか、もしくは関わっていた人ですか?」
すると金髪の男の動きがピタリと停止した。
「ああ、そうだよ……まぁ、元だがな。俺は開発した直後、追放されたんだよ。このレッド・ドラゴンも、イランゲームも、その前のシェキナシステムも……全ての権限をシェキナ博士と仲間と上層部が奪いやがったんだよ!ざけんじゃねぇ!完成した瞬間に俺の地位と権限を剥奪して収監送りにしやがったんだ!そしたら今度は俺のナイトを一般へなちょこ野郎にまで奪われて……糞が!どういう了見だテメェ!ああん!?」
金髪の男は喚き散らしてナイトに突っかかる。怒り狂った金髪の男の話から推測し、どうやら世界中に浸透しているシェキナシステムまでもが強奪されているような主張である。もしこれが本当ならば、相当根が深い上に厄介だ。だがここまで怒り心頭で話すということは、恐らく本当の話で間違いなさそうだが──
「うーん……。一般市民の俺達じゃ手に追えないし、解決できない領域の話だなぁ……」
名無しの金平糖は独り言ちると、再び金髪の男に質問していく。
「じゃあ、シェキナシステムというのは、シェキナ博士ではなく、あなた自身が作ったと?それが間違いのない事実になるんですか?」
「ああ!そうだよ!間違いのない事実で、俺様が作ったんだよ!それからあなたじゃねぇ!俺はハンドルネームも本名もナイトだ!本来ならシェキナシステムじゃなく、ナイトシステムと命名される筈だったんだよあれは!それなのに……それなのに……っ!」
金髪の男は悲痛で悔しそうな表情を漂わせ、歯噛みしていき──
「ああああああああああああ!糞があああああ!」
ど派手に大声で発狂しだした。そしてナイト(※元・夜更けの荒らし)を突き放し踵を返すと、レッド・ドラゴンの方向へ大股でズカズカと歩いていく。
「あなたは……いや、ナイトさん。何処に行くんですか?」
「あぁん?決まってんだろがっ!このゲームも、シェキナシステムも、俺とレッド・ドラゴンで全部ぶち壊しにいくんだよ!」
「えっ、ちょっと待って……!そんなことしたら、全世界の原発がメルトダウン確定フラグにならない……?」
ラブリーが口にするが、金髪の男は動じることなく笑う。
「んなこと知るかっ!原発がどうなろうが関係ねぇし知ったこっちゃねぇ!俺が作り上げたシステムとゲームを強奪しやがった罰だ!糞馬鹿全員に地獄を俺様が贈りつけてやる!全員仲良くあの世に逝けばいいさ!俺が作って新たにアプデしたレッド・ドラゴンの凄さと威力を、奴等に見せつけて!思い知らせてやるぜ!」
更に事態は悪化し、最悪な方向へと進展した。原発復旧の為に各国混合の特殊部隊がこのゲームの世界のダンジョン【秘境赤ずきんの森】に派遣されている真っ只中だというのに、それを妨害どころか、ゲームシステムごと破壊しようとしているのだ。原発を最優先で対処しなければならず、そしてゲームは【ナイトメア】で、一番難易度が高く設定されている。その上、この金髪男のミッションまで加われば、絶体絶命になるどころの騒ぎではない。
「待ってください!ナイトさん!話を……」
「うるっせぇ!黙れやクソガキ!俺に指図すんじゃねぇよ!」
名無しの金平糖が引き留めようとするが、取り合う姿勢は一切みせないどころか、レッド・ドラゴンに再び乗ろうとしていた。だが──
「ねぇねぇ、ナイトのその格好もチートアイテムなの?」
ラブリーが話を転換させ、金髪男のナイトに気さくに話しかけていく。するとどういう訳か金髪男のナイトはピタリと動きを止め、説明を始めた。
「まぁ……な。ふっ、これも俺が開発して、この世界にインポートさせたアイテムだ。しかもこれはレッド・ドラゴンの炎ぐれぇなら難なく耐久できる特別なアーマーだ」
「へぇ~!めっちゃすご~い♪ナイトってイケメンな上にガチ天才じゃん!」
「……。褒めても、なんもでねぇけど?」
金髪男のナイトはラブリーから視線を外し、ぼそぼそと返す。
どうやら女性には弱いらしく、尚且つ、女性に免疫がないのも今ので判明した。これは打開できるチャンスかもしれない──そう考えた名無しの金平糖はラブリーの傍にサッと近づき、小声で耳打ちする。
「(ラブリー、その調子で奴と会話を続けて、煽てて、ほめちぎって!何とかこっち側に引き入れろ!この案件は原発と世界平和が掛かってる!こいつを落とすつもりで本気でやってくれ!)」
「(分かった!頑張ってやってみる……!)」
そしてラブリーは金髪男のナイトと笑顔で会話を続ける。
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