第19話 閃く暗号、別れと裏切りは突然に
「ナイト、やってみよう!」
ラブリーに呼称されナイトは頷いた。そしてラブリーを一旦下ろし、【6文字のアルファベットを打ち込んでください】と表示された画面にナイトは打ち込み、OKボタンをクリックした。するとデバイスの画面には【
「やったね!ナイト!」
「ああ!」
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも……すごい!」
グブラも嬉しそうに笑った。だがまだ事態の解決はしてないので余韻には浸らず、直ぐに次の行動を開始し、アイテムボックスの画面を早速開いてチェックしていく。するとアイテムボックスの中には先程グブラが使用していた
「すっごい!これ全部、このイランゲームで使用できるアイテムなの……!?こんな状況じゃなければ楽しめるし、とても魅力的なアイテムだけど……これは、今の状況でも使える物なのかな」
ラブリーがナイトに確認をしていく。
「ああ。これだけのアイテムがあってマルクトシステム権限のコードがあれば、この糞ったれな状況を100%ひっくり返せるぜ!ラブリー!グブラ!やるぞっ!」
「うん!」
「あ、そうだ、それじゃあ僕達の仲間も……」
グブラがそこまで言った刹那、押し黙り──すっとその場に立ち上がった。まるで機械のような動きに、ラブリーとナイトは疑念を抱く。
「グブラ君……?」
ラブリーが声を掛ければグブラは徐に口を開いた。
「呼ばれてる……これは、絶対命令……だ……、うっ……!」
グブラは頭を押さえるようにして両手で抱えて苦しそうに呻いたのちふらつき、そして跳躍してナイトとラブリーから離れた。
「グブラ君!?どうしたの……!?大丈夫!?」
ラブリーはグブラに近寄ろうとしたが──
「ダメ……お姉……ちゃん、来ちゃ、ダメ……!」
グブラはそう叫んで制したのち、声を振り絞るようにして言った。
「ラブリーのお姉ちゃん……ナイトの、お兄ちゃん……楽しかった……ありがと……う……」
そしてグブラの瞳は機械のような目付きになるだけでなく、次には機械的な言葉を発した──
「
グブラはそこまで発するとまた光源に包まれ、光源を放ちながら散っていく──
「グブラ君──!?」
ラブリーは近寄ろうとしたが咄嗟にナイトが腕を掴み止めた。
「駄目だ!ラブリー!危ねぇ!」
「でも、でも……!グブラ君が!」
するとグブラは僅かに反応し、ラブリーとナイトの2人に視線を向け──
「おねぇ……ちゃ……助け……」
そして消失した。
「グブラ君……!?」
ラブリーはナイトの手を振りきり、消失した場所まで行った。だがグブラがいた形跡は跡形もなく消えていた。
「どうして……何で、グブラ君が……?」
ラブリーは目に涙を浮かべ嗚咽する。ナイトはラブリーに近づきそっと肩を抱き、声を掛けた。
「グブラが今言った言葉からして、まだグブラは生きてる……大丈夫だ。それに、俺が絶対助けてやる!グブラも、名無しの金平糖も、アラシも──……癪だが、他の連中もまとめてな」
ナイトはラブリーを励ますようにして力強く言った。最後のナイトらしい言葉にラブリーは少し笑いを
「うん……そうだね。それに、まだ終わってないし、凄いアイテムの数々をみんなのところまで届けよう!アタシとナイトで!そして世界を救おう!」
「ああ!──そうだ、ラブリー……」
「ん?」
「いや、やっぱ何でもねぇ……。終わってからにするわ」
ナイトは独り言ちたのち、デバイス画面を開いた。ナイトのそんな行動にラブリーは疑問が浮かぶも、笑顔で告げた。
「それじゃあ、次の行動開始だね」
「だな」
ナイトは目を細めて頷いたのち、再び端末を操作していく──
* * * * * *
世界中にある原発の冷却システムが復旧して再び稼働し、マイクロチップを体内に食べる形で摂取してしまった人々が操作される事件が収束に向かい、沈静化するも、依然として混乱は続いていた。各所のライフラインが復旧していないからだ。人力作業、自家発電にも限りがある中、今度は致死率100%のウイルスを空からばらまくと宣言され、そのデモンストレーションとして仮想世界のイランゲーム内にてホフマーという少年自身がトランスすることにより、疑似ウイルスが各ダンジョンに飛散し散布された。常軌を逸した言動に人々の殆どは疲弊しきっていた。だがそれでもイランゲームに挑戦する者達は後を立たない。そしてイランゲーム内部ではなく、そこに横付けされたように設置された簡易チャットシステム──人々は知らないことだが、これはナイトを守り、ナイトの思いである世界平和を受け継いだ、シェキナ博士が生前に作り出した遺品でもある。シェキナとイランゲームを悪用する者達、シェキナを運用する者達の中に裏切り者が今後出ることを恐れたシェキナ博士は、プログラム、役立つアイテム、コード、そしてメッセージを秘密裏に仕込み、唯一信用できるビナーに渡したのだ。そしてシェキナ博士は殺され、シェキナ博士が懸念していた通りのことが世界中を巻き込んで起きてしまった。懸念していたのはシェキナ博士だけではない、裏切ったへセドとホフマーを除く諜報員達だが、とまれ──ビナー、ケテル、グブラ、ティフェレト、ネツァハ、ホッド、イエソドはシェキナ博士の残したデータを守る為のパッケージとなり、イランゲームの横に簡易チャットを設置することに成功し、そしてプロテクトコードをかけたアイテムボックスも潜ませることにも成功したのだ。彼等の功績は称えられることはないが、イランゲームをしている者達は彼等が残した物で情報収集、意見交換等を行い、互いに協力していた。中には無意味なチャット部屋が幾つかあったが、そこは憩いのスペースとして利用され、この状況に疲弊している者同士が寄り添っていた。
ゲーム内部では依然として【始まりの街】【秘境赤ずきんの森】のダンジョンでウイルスにトランスしたホフマーと、リヴァイアサンにトランスしたマスターの脅威に晒されたクエスト者達に交じって、名無しの金平糖とアラシもなす術もなく地面に横たわっていた。
──この状態でどのぐらい……持つんだ……
──分からない……
城に近づくことができず、時間だけが過ぎていた。
「どうした──手も足も出ないか。アバターであろうと辛かろう。いっそのこと生き長らえることは諦めて、潔く逝ったらどうだ」
リヴァイアサンにトランスしたゲームマスターは地響きを立てながら、クエスト者達を尾っぽで、鋭い爪で薙ぎ払い、蹴散らしていく。その間にも人が息絶えて死んでいく。それを視界で、地面に這いつくばって見ることしかできない名無しの金平糖とアラシ──刹那、名無しの金平糖とアラシの前に、9人のフードを被った子供達が光源を放ちながら出現した。
「やっときたか」
名無しの金平糖とアラシ、そしてクエスト者も出現した子供達に視線だけを呉れた。まだ10歳ぐらいの子供もいれば、それ以下の子供もいて、その中に先程話していたグブラという少年もいた。子供達はみな一様に胡乱な目付きで虚空を眺めていた。
「紹介してあげよう、この子達はシェキナシステムとイランゲームに組み込む、次世代型のプログラムアバターだ。VXガスで死んでもらう前に脳を摘出し、新たに作り出して実験してみたんだが、まだ改良の余地はあるし、君達が実験台になってくれればより良いデータが取れるだろう。さぁ、ホフマー」
ゲームマスターが呼称すると、ホフマーの声がクエスト者達、そして名無しの金平糖とアラシの頭の中にも響き渡る。
──はいはーい♪ホフマー権限始動!無数の個体を解除、
刹那、子供達は巨大な1つの塊となって集合して合体していき、上空へと上がっていく──
「現実世界でもウイルスを散布した後に、人工的に作ってみた隕石を降らせてみようと思ってね?どれぐらいの威力があって、どれぐらいの被害がでるのか──……やってみなければ分からないし、楽しみだよね」
ゲームマスターはなす術もないクエスト者や名無しの金平糖とアラシを見遣って高らかに
* * * * * *
「どうナイト!?パッケージは済んだ……?」
「ああ、これで完璧だ!あとはクエスト者達と、名無しの金平糖とアラシに届けるのみだ……」
ナイトの手は淀みなく動いていく。あとは送信するのみとなった。
「そう、これでやっと──ようやっと……」
ナイトの隣に座るラブリーが安堵の声音で切り出すと、ナイトも同じように「ああ、やっとだ!」と嬉しそうに返した刹那──
──ガチリ
……という金属音がナイトの耳元で、間近で聞こえ、すず音のように笑う声が響く。
「これで漸く、全てが揃うのね。根気よく待ってたかいがあったわ」
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