第18話 ライフライン奪還!
* * * * * *
「ナイト!どう!?なんとか分かりそう!」
ナイトはシェキナ博士が残した簡易チャットシステムの
「くっそ……。全然分からねぇ……一体、何を伝えようとしてたんだ?」
『ピロン』
刹那、電子音が鳴った。その電子音はナイトが独自に開発したbotからで、その画面には一つの英語ファイルのリンクが表示されていた──
【
正真正銘、原発の冷却装置だった。
「……っしゃ!これで原発は何とかなるぞ!」
「やったね、ナイト!」
「ナイトお兄ちゃんすごい……!」
そしてナイトは独自のプログラムで厳重にプロテクトを掛けてパッケージをしていき、それを各世界の原発のシステムに繋げることができるシェキナシステムのメインサーバーを介して送信した──
* * * * * *
現実世界では原子力災害対策本部に息急き切って駆け込む男が1人、矢継ぎ早に告げた。
「たった今……!世界中の原発の冷却装置が復旧し稼働しました!」
「そうか!という事は、誰かが【秘境赤ずきんの森】をクリアしたのか!?」
「いえ、それが……誰もクリアしていない状態です」
「なに……?では一体誰が……まぁいい、引き続き原発の監視体制は怠らないよう厳重注意しろ!それから衛星兵器の一時無力化と、ウイルスを散布しそうな施設の特定を急げ!」
「了解!」
世界中にあった原発の冷却システムだけは復旧した。だが未だに他のライフラインは復旧しないまま混乱が続いていた──
* * * * * *
──あらら、原発のシステムは復旧しちゃったかぁ~残念!でもウイルスはどこからばらまかれるなんて、ぜ~ったい、分かりっこないよねぇ~
ホフマーの声は楽しげに響き渡っていく──
「ゲホッゲホッ……」
その間にもアラシは吐血し続け──
「くそっ!このままじゃ……っ……!ガハッ!」
名無しの金平糖は歯噛みするが、名無しの金平糖もアラシと同じく吐血し、その場で倒れることになった。バーチャルとはいえリアルに経験するような痛みがアバターの体から生身の体へと伝わっていく。これは電気信号みたいな物で、脳にそのようなシグナルが送られているのだろう。これを機に、痛覚システム仕様連動の代物のゲームは二度となやるものかと、思った者達が続出していることだろう。しかしこれはまだアバターだ。アバターだからいいが、現実世界で、自身の生身で起きたら苦しいどころの騒ぎではなくなる話だ。
「何とか……しない、と……」
名無しの金平糖は残り少ない回復薬と毒消しを自分と、アラシとで交互に分け与えながらこの最悪な状況を変える手立てを考えていく。しかし何も思い浮かばず、思考は痛みと苦しさに支配されていった──
* * * * * *
「ナイト!名無しの金平糖もアラシも、それからみんなも……ウイルスで苦しんで身動き取れなくなってるよ……!」
ラブリーが危機として報告する。ナイトがハッキングしたカメラ機能から見える【秘境赤ずきんの森】そして【始まりの街】でも同じ状況で苦しみ、HPゲージが減り、ホフマーがトランスしたウイルスによって5回死亡していくクエスト者達の姿が映し出されていた。ナイトはそれを見ながら今、打破できる状況、最優先事項を脳内で処理し──そして端末に指先を置き操作していく。
「イランゲーム内のウイルスも早く何とかしてぇが、衛星兵器……いや、先に現実世界のチップの無力化だ!待ってろよ……!」
ナイトは内心焦っていたが、何とか落ち着けながらチップ無力化のプログラムを組んでいき、簡易チャット画面に表示されているメッセージ【malkuth】と更に小さく表示されていた【Malkuth is the Kabbalistic Tree of Life, the Sephiroth Knot】も解読していく。因みにこの英文の意味は【マルクトはカバラの生命の樹、セフィロスの結節です】という意味だ。するとナイトの横にグブラという少年が近付き、簡易チャット画面に表示されているアルファベットを暫く眺め、それから意見を口にした。
「ナイトのお兄ちゃん、これ……もしかしたらなんだけどね……、ビジュネル方陣の、ビジュネル暗号なんじゃないかな……?」
グブラは自身のデバイス端末から26個の暗号アルファベットを使用するビジュネル方陣、上段部分が平文の小文字のアルファベット、それ以降は縦方向に大文字のアルファベットが並べられ記されている表を引っ張ってきた。
「──!そうか、そういうことか……!グブラ!おまえすげぇな!」
「エヘヘヘ……」
ナイトがグブラを褒めると、グブラは嬉しそうに、照れた笑いをした。そしてナイトは早速、ビジュネル方陣の表にアルファベットの【malkuth】という単語を使い平文の【Malkuth is the Kabbalistic Tree of Life, the Sephiroth Knot】を当て嵌めて解いていく──そしてそこで出てきた次のメッセージは──
【シェキナシステムの全てのコードをマルクトシステムに打ち込んで下さい】という説明と入力キーにコマンドバーだった。
「このシェキナシステムに関わった連中、ケテル、ホフマー、ビナー、ヘセド、グブラ、ティフェレト、ネツァハ、ホッド、イエソド、シェキナの順で打ち込めばいいはずだ!」
ナイトはそのソースに早速アルファベットを打ち込んでいく。すると画面は変化し、また新たなウィンドウが表示され──
【6文字のアルファベットを打ち込んでください】と更に表示された。
「おいおいおいっ!嘘だろっ!まだあんのかよ……!?グブラ!分かるか!?」
ナイトはグブラに話を振り訊いていく。するとグブラは暫し画面を覗き込むも首を振り……
「うう~ん……。これは、分からない……。ごめんね、ナイトお兄ちゃん」
「気にすんな!くそっ、何を打ちこみゃいいんだよ……!?」
『ピロン』
刹那、再び電子音が鳴った。言わずもがなナイトが独自に開発したbotからで、その画面にはまた英語ファイルのリンクが表示されていた──
【
「ハッ!どうやら天は俺達に味方してくれてるようだぜっ!」
ナイトは早速それも独自のプログラムで厳重にプロテクトとパッケージを掛けていき、各世界の原発のシステムに繋げるシェキナシステムのメインサーバーを介して送信していく──
* * * * * *
「報告します!原発に続き!チップが埋め込まれた国民の破壊情動が沈静化!無力化がたった今!完了いたしました!」
また原子力災害対策本部に息急き駆けて人が駆け込み報告が上がり、原子力災害対策本部にいた一同はざわつくと同時に拍手をし、歓声を上げた。
「やったな!それで、一体誰が無力化したんだ!?」
「その件のことですか、矢張り不明です……」
「なに……?」
「どういう訳か、シェキナシステムを介してパッケージを送信する者がイランゲームのゲーム内部にいるようです。それで特定をしようと試みたのですがヒットせず──……恐らく、独自のプログラムでゲーム内部に侵入したのではないかと……」
「そうか……。つまり、その者もゲームマスター並のノウハウを持っているということか……」
「はい、恐らく……」
「よし──引き続き厳戒態勢のまま、衛星兵器の一時無力化、ウイルス散布の施設の特定、それから原発の冷却装置とマイクロチップの無力化をした者の特定も急いでやってくれ!」
「了解しました!」
そして報告した男が部屋を後にしたのち、原子力災害対策本部では暫くざわつき、誰もが疑問を口々にしていた。
「しかし一体誰が、この事態の被害を食い止めているんだ……日本なのか、それとも諸外国なのか……そんな真似ができるのは、シェキナシステムに関わった者達だけだろ……?」
「ええ、ですが……シェキナシステムのシェキナ博士は半年前に他界してますし、シェキナ博士の意思を継いでいる精鋭達も今現在、行方知れずになっております──恐らく、イランゲームでテロを起こした首謀者に捕まり、既に殺されているのではないかという話も出ております」
「そうか──……シェキナシステムとイランゲームに関連した者達をもう一度、調べなおす必要性があるな……おい、誰かできる者はいるか?」
1人が周囲に訊くと、その内の1人が立ち上がり挙手をした。
「紙媒体の資料なら、地下の倉庫に保管されているはずです!私がやりましょう!」
そして原子力災害対策本部でも特定を急ぐ動きが始まった──
* * * * * *
【秘境赤ずきんの森】と【始まりの街】でナイトとグブラが2人で画面を見詰めたまま思考する中、ラブリーも画面を覗き込んでいく。
【6文字のアルファベットを打ち込んでください】という表示の下には入力キーとコマンドバーが表示されている。
「うーん、6文字……6文字……」
ラブリーはそう呟くのみにとどめ、ナイトとグブラには声を掛けず、ラブリー自身で考えてみることにした。ナイトとグブラが考えを巡らせている最中に声を掛ければ、折角思いついた事柄も掻き消してしまう可能性があるからだ。2人の邪魔にならないようにラブリーは配慮し熟考していく。そしてラブリーは先程ナイトが話してくれた過去の話に続き、イランゲームの創設者達のことを思い浮かべ、次いで、もしも自分なら──……と、ラブリー自分の立場で考えて想像していく。
──もしもアタシなら、最後の6文字はどうするかなぁ……
ナイトを裏切る形で守ったシェキナ博士、グブラ、ビナー、そして他の創設者達──……
「うーん、6文字……」
そして先程ナイトが打ち込んだアルファベットを思い浮かべていく。だが思い浮かべるも矢張り分からず首を捻らせるだけになり、再びナイトを見遣る。ナイトは真剣な目付きでデバイス画面を睨むように見詰めていた──……うん、格好いい……じゃなくて!ラブリーは突っ込み、はたとする。
「あれ、そういえば……」
ラブリーはそう呟き、今度は自身のデバイス画面を操作してメッセージ欄を開く。そこである平仮名を打ち込みアルファベットに変換させ──……閃いた。
「──!これよ……!これじゃない!どうして気づかなかったのかしら!?」
ラブリーがそこまで口にすると、ナイトとグブラはラブリーを不思議な表情で見遣り──
「なんだ、どうしたラブリー?」と訊いてきた。そんなナイトの両肩をガシリと勢いよく掴んだラブリーはその勢いのまま口にしていく。
「当てはまるじゃない!6文字!」
そしてラブリーはナイトがアラシと対面した時分を振り返る。そう、ナイトはアラシに向かってこう言ったのだ──
『俺のハンネをパクってなりすましてんじゃねぇよ!俺がナイトなんだよ!テメェみたいな貧弱なナリの奴がナイト名乗るなや!ぶち殺すぞ!』
ナイトによってアラシに改名された元・ナイト。その前は夜更けの荒しで、ラブリーがつけたナイト初号機もあるが──とまれ、このナイトの発言からして答えは出ていたが、ラブリーは一応、ナイトに確認をしていく。
「ねぇナイト!ナイトのハンドルネームのナイトの意味は【夜】の意味じゃなくて、【騎士】の意味のほうよね?ほら、ナイトさ!アラシに絡んでた時に自分から言ってたじゃない!俺のハンネをパクってなりすますなって、俺がナイトなんだよって、アラシみたいな貧弱なナリの奴がナイトを名乗るなって!それにナイトの格好も騎士の格好でしょ!?」
ちなみにアラシに盛大に絡んだ後『ぶち殺すぞ!』という物騒な言葉が続いていたが、ラブリーはその言葉を省いた上でナイトに訊いた。するとナイトは暫くポカンとしていたが
「そうだ──……ああ、そうだよ!」と頷き、ラブリーをそのまま抱き上げ最高の笑顔を弾けさせた。
「俺の本名も、ハンドルネームも、
「うん!6文字のアルファベットはナイトのことだよ!ナイトがさっき話してくれた過去の話からして、絶対ナイト以外あり得ないよ!シェキナ博士も、グブラさんも、ビナーさんも……ナイトに託したんだよ!」
「ああ……そう、なるんかなぁ」
ラブリーの発言にナイトは感極まったのか、少しだけ瞳を潤ませた。だが今は泣いている場合ではない──この事態の解決が先だ。ナイトは切り替えた。
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