第17話 簡易チャット画面に隠された暗号

「これ、イランゲームの内部に入ってないで横付けされているこの簡易チャット画面」

「これがどうかしたのか?」

「うん……名無しの金平糖とアラシがね?ゲーム内にメッセージできる場所があるのに、わざわざ外に設置してるのおかしいって言ってたの。インポートすればいいのにって……アタシは別に気にならなかったんだけど、名無しの金平糖とアラシはおかしいって言ってて、それでチャット部屋を立てたのよ。【イランゲーム開発者達で内部抗争があったの?】って部屋。だからナイトにも意見が訊きたくて……、これってやっぱりおかしいの?」

 するとナイトはその簡易チャット画面を今一度開いたのち、設置されている部屋名は見ずに、チャットのソース画面を開き見た。

「これは……」

 ナイトは目を見開き、ソースをスクロールしていく。

「なにか発見あったの?」

「お兄ちゃん、僕にも見せて」

 ラブリーが覗き込むとグブラという少年も気になったようで、一緒に確認することになった。するとそこにはよくネットやホームページ等で見掛ける、アルファベットのタグや記号がずらりと表示されていた。門外漢もんがいかんのラブリーにとってはさっぱりだが、ナイトとグブラという少年はじっと見たのち呟いた。

「今気づいたが、アナグラムが含まれてんな、これ……」

「うん」

 ナイトが言えばグブラという少年も頷いた。

「頭に血が登っててチャットしてた時は気づかなかったが、このチャット部屋にメッセージとコードが含まれてるな──解読するぜ」

 ナイトは早速、自身の端末にインストールして解読とプロテクト解除をしていく。すると直に、アルファベットの文字列が順に出てきて表示されていく──

【m・a・l・k・u・t・h】

「エム、エー、エル、ケイ、ユー、ティー、エイチ……malkuthマルクト──主権って意味よね?」

 ラブリーが覗き込み口にすればナイトは暫し考え込み、それから口にした。

「これはイランゲームに関連した単語だ。イランゲームは生命の樹で、神の様々な要素を表す10個のセフィロスとの神秘的な関わりを示した図をモチーフにしてるんだ」

「へぇ~、難しくてよく分からないけれど……そのマルクトは重要な要素になるの?」

 ラブリーがナイトに訊くと「いや……」と否定し、それから説明した。

「これは恐らく、シェキナ博士が残した最期のメッセージかもしれないな。シェキナ博士のシェキナの意味は神の存在からきている。そして俺以外のグブラやビナー、そしてケテル、ホフマー、ヘセド、ティフェレト、ネツァハ、ホッド、イエソドは全員、イランゲームや俺が作ったシステム……世間ではシェキナシステムとして流通しているが、それも全部、繋がりがあんだよ。アイツ等もシェキナ博士も本名じゃなくてコードネームなんだよな」

「えーっと、それはつまり??」

 ラブリーが更に追求するとナイトは口にした。

「システムもだが、このゲームを作った時、仲間のコードネームを使用した──俺以外は偶然じゃなかったのかもしれねぇ……もしかしたら、飛行機事故も……」

 刹那、ナイトの元にメッセージが届いた。メッセージ相手は名無しの金平糖からだった。まだウサぴょんジュリナアバターからの合図もしてない内にメッセージ──。嫌な予感がしたナイトは急いでメッセージを開いた。

【悪いナイト、約束を守れないかもしれない。俺は4回死んだ、残りは1回。アラシは3回死んだ】

「えっ、嘘でしょ……!?」

「ちっ……クソが!何が起きてやがる!?」

 ナイトは【秘境赤ずきんの森】に存在するカメラ機能から映像を確認しようとして気付いた。名無しの金平糖とアラシが飛び立った時間から一向に進んでいなかったのだ。

「くそっ!通信状況乱れてんな……!」

 ナイトは急いで接続し直し、【秘境赤ずきんの森】に存在するカメラの映像を再び繋いでいく。

「なっ……なに、あれ!?」

「あれは……」

 するとそこには硬質な鱗で覆われた巨大な体、そして炎を吐く生物──レッド・ドラゴンとはまた違う龍のような生き物が名無しの金平糖やアラシ、そして先程まで写真撮影をしていたクエスト者達に次々と襲い掛かっていた。

「リヴァイアサン、あれはゲームマスターだ!」

 ラブリーが驚き、ナイトが驚きの声を呟いた瞬間、グブラが叫んだ。

「んっと……ゲームマスターがトランス能力を使って、攻撃してるんだと思う……多分だけど……」

 グブラが自信無さげに言う中、ナイトは否定せずに肯定していく。

「十中八九ゲームマスターだろうなぁ──……くそ、厄介だぜ」

 ナイトは吐き捨てたのち、簡易チャットシステムのプロテクト解除で見えたコードを今一度分析していく。

「これは恐らくシェキナ博士が残したデータだ!もしかしたら解決の糸口になるかもしんねぇ!あいつらに死なれたら作戦がパァになっちまう!何としてでも生きてろよ!」

 ナイトは【ぜってぇ死ぬな!死んだら俺が直々にテメェ等殺すぞ】と再び送信した。


*   *   *   *   *   *


「ナイトから絶対死ぬな、死んだら俺が直々にテメェ等殺すぞという、物凄く矛盾した脅迫紛いながらも熱いメッセージがきたんだが……無理じゃね?」

 名無しの金平糖がアラシにナイトからきたメール内容を伝えれば、アラシは鼻で笑った。

「んなこと言われてもな。人間、死ぬ時は死ぬのにな……って、悲観的になるのもよくないか」

「だな。つぅかナイトにそれを言っても絶対納得しないだろうし、話が通じなさそうだよな。むしろろ言ったら言ったで、怒り狂って突撃されそうな予感しかしねぇ……」

 名無しの金平糖もアラシもその光景を想像し苦笑する。とまれ、この場にいるリヴァイアサンを何とかして倒さなければ他にも被害が及ぶと考えた名無しの金平糖とアラシは、城内に忍び込み、ミッションをクリアしてリワードゲットを後回しにし、レッド・ドラゴンとナイトがくれたウサぴょんジュリナアバターを実体化させて立ち向かっていた。しかしレッド・ドラゴンよりもリヴァイアサンが強く、ステルス機能も数回の炎と稲妻で引き剥がされてしまった。そしてナイトが量産して渡してくれたリモートで動き、戦闘するウサぴょんジュリナアバターもまるで歯が立たず、というより、全く稼働しないポンコツ仕様どころか──

「マスターのマスターをマスって差し上げましょうか?」だの、「マスターのお尻の穴に大根突っ込んで拡張しませう♡ワン・ツー・スリー♡」だの、「マスターの✕✕✕はちっちゃくて可愛いポークピッツ♪あ、違った……枝豆ちゃんでしたぁ♪」だのと、不愉快極まりないお喋り機能のみだけが発動していただけだった。最早、欠陥品どころの騒ぎではなく、苦情つきで返品したいところだが、これを作ったのはナイトなの苦情をいれれば速攻で焼きを入れられそうなので言わないし言えないのだが──とまれ、下品なおしゃべり機能で完全に気づかれてしまったのだ。

「貴様等か!この汚らわしいアバターもだが、ごみ溜めのようなチャット部屋を作った輩か!ゴミクズ共めが……さぁ、マスター権限を返してもらおうか」

 リヴァイアサンとなったゲームマスターは名無しの金平糖とアラシを見据え、人語で告げた。だが名無しの金平糖とアラシはそれに応じることなく言い返す。

「誰が渡すかよ!」

 名無しの金平糖もアラシも同意見で返した。その間にもクエスト者達は次々とゲームマスターのリヴァイアサンに備わったスキル、炎や凄まじい雷鳴で成す術もなく死んでいく。だがそれでも怯むわけにも、諦める訳にもいかなった。この間にもナイト達はこの状況を突破する、好転させることをしているに違いないからだ。城は目前にあるが、リヴァイアサンとなったゲームマスターの注意を引きつけることをしなければ何れこの仮想世界も、現実も終わるだろう──刹那、陽気な声が響いた。

「マスター、僕も手伝おうか?僕も準備が整ったよ」

 そこへひょっこりと姿を現したのはホフマーだった。ホフマーは笑顔でマスターに意見を伺っていく。

「おい、もう1人増えたぞ……どうする!?」

「万事休すか……」

 名無しの金平糖とアラシは突如として現れた少年に目をくれ、ネガティブな発言を思わず口にする。ホフマーは名無しの金平糖とアラシを見遣ったのち口を開いた。

「君達がマスター権限を奪った人達なのかな?」

 少年は屈託なく笑い、そして切り出した。

「今から楽しい楽しいゲームをしよう♪マスター良いかな?」

「ああ、好きにしろ」

 するとホフマーは凶悪に口許を歪ませ、微笑んだ──

「さて、君達と僕のどっちが勝つかな?tranceトランス──ウイルス」

 人でもなく、獣でもないウイルスと口にしたホフマーから光源が放たれ、細かい粒子となって無数に各地へと散っていく。

「なっ……ウイルスって……」

 名無しの金平糖が口にした刹那、隣にいたアラシが酷く咳き込み始めた。

「おい、どうした……?」

「いや、何だか急に喉が痛くなって……ガハッ!?」

 次の瞬間、大量の血を吐き出した。

 ──アハハッ!どうだい?致死率100%のウイルスで徐々に体を蝕まれていく気分は……?因みにこのウイルスはログアウトしても継続したままになるから注意してね?

 頭の中で少年の笑い声が響いた。つまり、ホフマーという少年はウイルスになってアバターの体内に侵入してきたのだ。しかも仮想世界から現実世界に戻って効果が持続するとのことで、迂闊にもログアウトできなくなった。

 ──仮想世界だから、5回死ななければ問題ないようにするだけじゃぁ詰まらないだろう?ふふっ……そうだね、君達にも世界中にも、とっても良いお知らせを今からしてあげようかなぁ

 ホフマーは嬉々として笑ったのち、全世界に向けての動画配信を行った。

「みんなぁ、元気に過ごしてるかな?原発やチップで操作された人間から逃げたりしてて、楽しく過ごしてると思うけど、ここで朗報です♪今から致死率100%のウイルスを1時間後に空の上からみ~んなのところにばらまいてプレゼントしてあげるねぇ。これは僕からのプレゼントだよ?ちなみに少しでも吸い込むと気管も内蔵も脳も10分以内で爛れて溶けてなくなるから注意してね?ちなみにワクチンは【秘境赤ずきんの森】のダンジョンにある城のクリア後に受け取れるから、頑張って挑戦してね?ていうか挑戦しないともれなく1時間以内にみんな死んじゃうから気を付けてね♡では!秒読み開始するよぉ~!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0……スタート♪」

 そして事態は更に悪化した──

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