最終話 continue to the next stage?
* * * * * *
「報告します!シェキナシステムを介して全てのライフラインがたった今戻り、ウイルス施設の工場とウイルス兵器も特定し鎮圧!無力化完了しました!それと匿名のタレコミで人工的に作られた隕石が落下するとのことで、アメリカが対応に向かってます!」
原子力災害対策本部は歓声半分、どよめきが起こった。だが未だにシェキナシステムを介して全てのライフラインを復旧させた人物を特定できずにいたが、全てのライフラインが戻った今なら恐らく特定もその内できることだろう。
「引き続き特定を急げ!」
「了解!」
* * * * * *
無事、【秘境赤ずきんの森】の城で赤ずきんを助け出し、リワードをゲットし、シェキナシステムを介して送信できた。そしてダンジョンを抜けることに成功したウサぴょんジュリナアバターと赤ずきん──残すは、時限爆弾のみとなった。
「名無しの金平糖!ナイト!」
上空を見ればラブリーとアラシ、そしてグブラ含んだ子供達が空から降りてきた。無事に帰還してほっとした束の間、まだ時限爆弾がそこには残され、残り時間は30分を切っていた──
「ナイト!どうにかなりそうか!?」
「あと2分もあれば割り出せそうだ!」
そしてナイトが宣言した2分後、『ピロン』と返り、解除コードが示されていた。解除コードはナイトにとって単純な物だったが、ナイトの手はそのコードを打ち込むことなく、画面を見詰めたまま止まった。
「どうしたの?」
ナイトの様子にラブリーはナイトが見詰める画面を覗き込み──そして言葉を失った。ラブリーに続き、名無しの金平糖も、アラシも、グブラ含む子供達もその画面を見遣り、言葉を失った。画面にはこう書き記されてあったからだ──
【この画面を見ているということは【秘境赤ずきんの森】のダンジョンの城をクリアして、隕石も防いだ後だろうね。おめでとう──だが、残念だったね。この爆弾を解除するともれなく現実世界の、各世界に散りばめておいた僕の最高傑作、地震兵器が稼働するようになってるんだ。それでも解除するか、それともこの仮想世界とシェキナシステム含むAIシステムを全て凍結という形式で消滅させて現実世界を守るか──君達に選択させてあげるよ。因みにこの選択を押せるのは残り時間0秒きっかりだ。君達は恐らく逃げないだろう?最期まで覚悟して楽しむといい】
それから暫くし、選択肢のアイコンが2つ表示されていた。
【現実世界を捨てて仮想世界を選んで解除する】【仮想世界を捨てて現実世界を選んで解除しない】の2つの選択肢だった。
「ここまできて、こんなことって……」
ラブリーは愕然とし、その場に力なく座りこんだ。
「何処までも、最後までも、ゲーム脳かよっ……!」
アラシは吐き捨て歯噛みしていくが、名無しの金平糖は今この場にいる全員とは異なる意見を切り出した。
「なんだろうな、このゲームマスターがこうなってしまった理由が逆に知りたいよ、俺は……。物凄く変なこと言ってるのは分かっているが……知りたいかな」
名無しの金平糖は自身の境遇とゲームマスターを重ねて見ていた。歩んでいた人生は違えど、何かしら拒否反応を示すアレルギーがあって、自身の境遇を、社会を、人を、全てを恨むように、憎むようになったのかもしれない──。それは一種のアレルギーのように。アレルゲンを失くし、壊すまで、その行動は己にも誰にも止められず、止めることはできないのかもしれない──
「名無しの金平糖、テメェがコイツの肩を持ってない上で意見を言ってんのは分かってるが一言、言わせてくれ。コイツは糞だ!」
ナイトが吐き捨てれば名無しの金平糖は笑って返した。そして一同はこの場で多数決を取り、1つの選択肢を選び──……そして1年が過ぎた──
* * * * * *
「おっはよ~!」
「おはよ~!今日も元気だね」
「うん、元気だけが取り柄だし」
制服を着た2人の女子高生が挨拶を交わし、遊歩道に並ぶ並木の間をゆったりと歩きながら他愛のない話をしていく。のんびりとした風景は今日も平和な日常が訪れていることを示していた。
「そうだ!昨日お兄ちゃんが教えてくれたんだけど……ほら、これ見て見て!」
1人の女子高生が端末画面を操作してスワイプすると、そこにはソシャゲのアプリマークが示されており、最新のデータがアップデートされたNewの表示マークがついていた。
「あー、それ去年から流行ってるやつだよね。イランゲームだっけ?」
「うん、イランゲーム!これ一緒にやらない?アプデされたの面白そうでさぁ~」
「うーん……私はそういうのやらないんだよね」
「えー!?何で!?一緒にやろうよぉ~!」
1人が執拗に誘えば、もう1人の女子高生は暫し考えたのち「じゃあ……ちょっとだけね?」と妥協した。するともう1人は目を輝かせて嬉しそうに笑い、「じゃ、早速インストしてして!」と急かす。誘われたもう1人の女子高生は言われるがままに、イランゲームをアプリストアから開いてインストールしていく。
「それで、この流行りのゲームで何がアプデされたの?」
誘われた女子高生が訊くと、もう1人は得意気に話しだした。
「人々の大事な記憶を取り戻す話の冒険がアプデされたんだって!」
「人々の大事な記憶を取り戻す話の冒険……?」
首を傾げて訊けば、もう1人は得意気な顔で答えていく。
「このイランゲームのクエストを挑戦した人やこのイランゲームに関わった人の記憶を取り戻して、真実を取り戻して、体を取り戻す……みたいな?」
「ふぅ~ん、変わってんねぇ。推理系SF現代ファンタジーなのかなぁ……あ、インスト終わったよ」
「おつあり!じゃあ学校終わってから時間決めて、一緒にやろ?」
「うん」
2人は和やかに会話をしながら歩いていく──
あれから1年が過ぎ、再び世界は大きく変化した。この世界にあったシェキナシステムがなくなり、変わりにマルクトシステムが樹立した。だが人々はシェキナシステムがあった記憶を忘れ、レポーターが殺されたことも、原発を人質にとられたことも、マイクロチップで操作された人間が出現したことも、ウイルスを散布されそうになったことも全て、記憶から消えてしまっていた──
* * * * * *
イランゲームに横付けされた簡易チャット部屋に、不思議な部屋が立っていた。その部屋名は【真実を知る独りの独白】と書かれていた。
─✕✕✕さんが部屋に入室したよ♪
✕✕✕ ≪こん≫
✕✕✕ ≪挨拶をしてみたが、独りなんだよね≫
✕✕✕ ≪部屋を立てても誰もこないし、興味を持たないのは知っている≫
✕✕✕ ≪俺しか知らないからだ≫
✕✕✕ ≪さて、今日も1人で呟こう。俺が見たままの、あの日の光景を──≫
✕✕✕ ≪秘境赤ずきんの森で俺は見た。恐ろしい化け物を≫
✕✕✕ ≪だが俺は逃げた。命が惜しいからだ≫
✕✕✕ ≪恐ろしい化け物に立ち向かう奴等もいたが、俺は立ち向かわずに逃げた≫
✕✕✕ ≪俺はイランゲームにある始まりの街でのんびり時間を潰すことにした≫
✕✕✕ ≪そしてミッションクリアの鐘の音が鳴った後、イランゲーム内で爆発が起きた≫
✕✕✕ ≪酷い爆発だった。建物も空間も全てホログラムが消滅し、アバターも消滅した≫
✕✕✕ ≪だが、俺だけは消えなかった。俺が消えなかったのはただの偶然だった≫
✕✕✕ ≪俺の腕時計のデバイス画面にシステムエラー、ユーザーを確認・特定できませんという表示が出ていたからだ≫
✕✕✕ ≪……ふぅ、ちょっとROMるか≫
──?さんが入室したよ♪
? ≪マダ ゲーム ハ 終ワッテ イナイ ハジマッテ モ イナイ≫
? ≪真実 ハ ゲーム ノ ナカ≫
? ≪マダ ゲーム ハ 終ワッテ イナイ ハジマッテ モ イナイ≫
? ≪真実 ハ n a l k ノ ナカ≫
──?さんが退室したよ♪
✕✕✕ ≪何だこれ……荒らしかな≫
✕✕✕ ≪初めて人が入室して、来たのが荒らしとか……まぁいいや≫
✕✕✕ ≪兎角、エラー表示がされていたから俺は爆発に巻き込まれずに済んだ≫
✕✕✕ ≪爆発の後、ダンジョン内は白い、ただ広い空間に変わっていた≫
✕✕✕ ≪ログアウトしたかったが、デバイス画面はエラー表示のままで無理だった≫
✕✕✕ ≪俺は暫くそこで時間を潰すことにしたんだ≫
✕✕✕ ≪どれぐらい時間が経過したかは分からなかったが、またダンジョン内に建物が出現しだした≫
✕✕✕ ≪同じ風景、同じ建物、同じアバター……また元通りに復活したんだ≫
✕✕✕ ≪それで、近場を歩いていたアバターの男に声を掛けた≫
✕✕✕ ≪今さっきの爆発は何でしたかね──ってな具合で。そしたらさ……≫
✕✕✕ ≪爆発って、なにが?って聞き返されて、まるで爆発がなかった感じで言われて≫
✕✕✕ ≪それからダンジョン内にいる奴等に全員聞いてまわったが、全員知らなくて≫
✕✕✕ ≪レポーターが殺されたことも、原発が人質にとられたことも、チップのことも、仮想世界だけでなく、リアル世界にウイルスがばらまかれそうになったことも≫
✕✕✕ ≪この仮想世界で爆発が起こったことも、全部忘れたように、記憶から消されてる感じだった≫
✕✕✕ ≪そんで、俺の腕時計型のデバイスのエラー画面が元に戻ったから≫
✕✕✕ ≪ログアウトして世界に戻ったんだよ≫
✕✕✕ ≪イランゲーム内でも現実でも大変なこと起きてたからさ≫
✕✕✕ ≪絶対にニュースになってるし、騒ぎになってると思ってたんだが……≫
✕✕✕ ≪ニュースにもなってなかったし、新聞にも、雑誌にも、テレビも普段通りの日常だった≫
✕✕✕ ≪あんだけの騒ぎがあったのに、流石におかしいだろ?≫
✕✕✕ ≪それで調べてみたんだが、やっぱり全員忘れてるんだよ≫
✕✕✕ ≪俺だけが覚えてて、他の連中は全員忘れてる……変だよな≫
✕✕✕ ≪でさ、この簡易チャット部屋の画面が残ってるのも俺だけなんだ≫
✕✕✕ ≪イランゲームをログアウトした後、更新マークが表示されてたんだが≫
✕✕✕ ≪俺のだけは何故かできないようにロックが掛かってた≫
✕✕✕ ≪そんで友人に頼んでイランゲームをインストしてもらって画面を見せてもらったらさ≫
✕✕✕ ≪簡易チャット画面が付いてるのは俺だけで、友人のには付いてなかった≫
✕✕✕ ≪これって何か、あるんかな……いや、あるんだと思う≫
✕✕✕ ≪つい最近なんだが、またイランゲームでアップデートされた内容が≫
✕✕✕ ≪『人々の大事な記憶を取り戻す話の冒険』だったんだよ≫
✕✕✕ ≪これ絶対なんかあるし、仮想世界と現実世界で起きたことに関連してると思うんだ≫
✕✕✕ ≪あれからソシャゲのゲーム自体、トラウマになってたんだが……≫
✕✕✕ ≪リハビリがてら、色んなゲームをしてコアゲーマーにはなった≫
✕✕✕ ≪だから、挑戦してみようと思うんだ≫
✕✕✕ ≪『人々の大事な記憶を取り戻す話の冒険』≫
✕✕✕ ≪また1年前みたいに命が掛かった内容だったら嫌だけど、それよりも≫
✕✕✕ ≪俺だけが知ってて、他の人が知らないっていう状況のが嫌なんだわ……≫
✕✕✕ ≪なんつぅか、気持ち悪い……つぅか、気味が悪いっていうか……うーん≫
✕✕✕ ≪不気味?に感じるんだ≫
✕✕✕ ≪挑戦するのが怖いが、挑戦する。今日はその誓いを書く為に部屋をたてた≫
✕✕✕ ≪では、行ってきます。それから暫く部屋は残したままにしときます≫
──?さんが入室したよ♪
? ≪マダ ゲーム ハ 終ワッテ イナイ ハジマッテ モ イナイ≫
? ≪真実 ハ ゲーム ノ ナカ≫
? ≪マダ ゲーム ハ 終ワッテ イナイ ハジマッテ モ イナイ≫
? ≪真実 ハ n a l k k h b h g t n h y m s ノ ナカ ≫
──?さんが退室したよ♪
──✕✕✕さんの接続が切れたよ♪──【真実を知る独りの独白】のチャット部屋は閉じられました♪
* * * * * *
それから1週間が経過した。世界中ではアプリゲームにアップデートされた内容が話題となり、賑わいを見せていた。
「全世界で注目されているこのアプリゲームはどの機種でも簡単にインストールできて、老若男女関係なく誰でも気軽に、さくっと課金勢でも無課金勢でも楽しめるRPGゲーム仕様になってますが!中でも!毎週開催されるクエストが人気を博しています!そして今回アップデートされるのは【人々の大事な記憶を取り戻す冒険】の物語で、私達が主人公になって冒険をするそうです!とっても不思議な感じですよねぇ!アップデートされた大まかな内容は、かつてクエスト者達が行ったダンジョンや新たにできたダンジョンにも行き、そこでタスクをクリアしてリワード、【記憶の欠片】を入手できるシステムとなっているそうです!そして各ダンジョンに設置された【記憶の欠片】を全部集めてクリアすると、クリアした者にしか貰えない特別な権限コードと、可愛いながらも戦闘スキル抜群なアイドルアバター、ウサぴょんジュリナが特典としてもらえ、【記憶の欠片】を持って眠らされている13名の内の1人を解放してその1人も加えて冒険することができるという……謎で不思議な物語になってるそうです!いやはやこれは!実際にプレイしてみないことには分からないですねぇ!では私も早速!プレイしてみたいと思います!」
女性リポーターがタブレット画面をカメラに向けて陽気に話しながら説明し宣言していく──
『真実 ハ n a l k k h b h g t n h y ノ ナカ』
n……名無しの金平糖
a……アラシ
l……ラブリー
k……ナイト
k……ケテル
h……ホフマー
b……ビナー
h……ヘセド
g……グブラ
t……ティフェレト
n……ネツァハ
h……ホッド
y……イエソド
クリアする者が現れるまで、この13人はイランゲームシステムの中枢深くで眠るようにして解放されるのを待っている──
………………continue to the next stage?
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