第2章
第6話 逼迫する中でほんわかチャット
一方その頃、現実世界では未だ混乱が続いていた。ライフライン復旧どころか、最優先事項に原発が追加されたからだ。原発付近に近い地域住民は避難指示が発令され、避難を急いでいる。そして今現在、原子炉の近場に設置された貯水タンクや近場の海の海水等から炉心冷却用プールへ手作業で水を入れ、人員作業で冷却をしているが人手が足りてなかった。そして日本含む各国は、原子力災害対策本部を設置し、議論を交わしていた。
「このままでは炉心融解してしまいます!」
「ならば……、廃炉にすべきかもしれないな……」
世界中の原発を廃炉にする動きもでてきたが、それに反対する者達が後をたたない。
「原発を廃炉にするだと!?ふざけるなっ!廃炉にどれだけの費用が掛かると思ってるんだ!それに放射性廃棄物の処理を安全に処理する解決策もないじゃないか!そもそも廃炉にすれば我々がテロに屈したことになり、それこそ笑い種だ!原発は我々の維新そのものだ!そして我々だけではない、国民の生活にも影響がでる!代替えエネルギーの導入の見通しもないまま廃炉にすればそれこそ電力不足になり、原発を運営し関連する企業にも影響を与え、そこに従事している人々の雇用も大幅に失い、多大な影響もでる!断じて廃炉にしてはならない!」
「ですが……このままでは、炉心融解してしまいます……!」
「ゲーム内はどうなっている!自衛隊と各国の混合部隊の精鋭達を手配して向かわせただろ!?」
「それがその、アバター作りに難航してまして……何せ、特別仕様のアバター故に時間が掛かってまして……」
「何をやっているんだ!精鋭達じゃないのか!?」
議論が白熱するほどに事態は逼迫していた。そして簡易チャットでも部屋が乱立し、議論が白熱していた。様々な憶測や陰謀論等が飛び交う中、ゲーム実況をしながらチャットをしている部屋名【秘境赤ずきんの森ナウ~1回死亡~】は、どこの部屋とも異なる、独特な空気を醸し出していた──以下、チャット画面のやり取りになる。
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──夜更けの荒らしさんが部屋に入室したよ♪
夜更けの荒らし ≪こん!早速質問なんだが、名無しの金平糖って、あの名無しの金平糖?いつもチャットで俺と喋ってる≫
名無しの金平糖 ≪そうだよ!あの名無しの金平糖っす(笑)夜更けの荒らしもいつもの人?≫
夜更けの荒らし ≪そそ!いつもの人だよ(笑)こっちのチャットではお初だな!改めてよろ!ところで今、どういう状況なのよ?ゲームしてる?あと俺はアバター作って赤ずきんの森付近についたとこだぞ≫
名無しの金平糖 ≪了解。ちなみにこっちは1回死んだが、生きてるしゲームも続行中で赤ずきんの森にいるよ。ていうかゲーム内にメール設置されてるのに、この簡易チャットを別口で置いたの意味不だよな≫
夜更けの荒らし ≪確かに。うーん……このゲームを開発した人の趣向とか……?≫
名無しの金平糖 ≪あーね。ていうか森のどの辺にいるんだ?俺の今現在の位置画像貼り付けとくから、これ便りにきてくれよ相棒≫
夜更けの荒らし ≪了。今そこ行く≫
名無しの金平糖 ≪あ、あとフレンド登録したいからフレ名教えてクレメンス!≫
夜更けの荒らし ≪←このままだぞ≫
名無しの金平糖 ≪まじかwwwあ……発見、いたわ!夜更けの荒し発見w≫
夜更けの荒らし ≪よっw≫
名無しの金平糖 ≪ようw≫
夜更けの荒らし ≪つーか名無しの金平糖もそのままやんけwチャットと変わらんなw≫
──ラブリーさんが部屋に入室したよ♪
ラブリー ≪こんにちは、初めまして!≫
夜更けの荒らし ≪こん!お初!≫
名無しの金平糖 ≪こん!お初です!今、秘境赤ずきんの森でゲームしながらチャットしてるよ≫
ラブリー ≪そうなんだ。それじゃあアタシも今からアバター作ってそっちに向かうね≫
名無しの金平糖 ≪おいおい、命が掛かってるんだぞ?ラブリーちゃんはお家で大人しくチャット画面でも見てな!俺等が圧勝でクリアしてきて、世界を救ってやっからよ!≫
ラブリー ≪え~、ほんとですか?めっちゃ頼もしいなぁ~♪≫
夜更けの荒らし ≪1回死んでる奴が決めて言う台詞じゃねぇえええええwwww≫
名無しの金平糖 ≪うるせっ!いいんだよ!≫
ラブリー ≪ちなみにどんな死に方したの?≫
名無しの金平糖 ≪【秘境赤ずきんの森】にて突如出現したレッド・ドラゴンの炎に焼かれて1回死にますた≫
ラブリー ≪レッド・ドラゴン?それって第2ダンジョンに登場する【ドラゴンズナイト】のレッド・ドラゴンかな?≫
名無しの金平糖 ≪そそ、それそれ!なんか知らんけど【秘境赤ずきんの森】のダンジョンに突如出現して、口から炎を放ってきたんだよね。あれは回避不可能即死フラグでしたわ。それでその後、【メタバースシティ】のダンジョンも一瞬だけ開いたんだけど、システムエラーみたいなのが発生したっぽいから、クエスト者同士で話し合いして、城に向かう組と、森のダンジョン組とで今分かれて、チャットながらメッセながらで、ながらしてますわ≫
ラブリー ≪なるほどぉ。アタシも今、秘境赤ずきんの森に着いたよ~♪お2人はどこにいるの?≫
夜更けの荒らし ≪ここにいるよ≫
名無しの金平糖 ≪おー!ラブリーちゃんハケーン(゚∀゚)♪こっちこっち!≫
ラブリー ≪どうも~。それでどうする?ここで待機してればいい感じ?あ、そうそう!一応ゲームは色々なジャンルのやつプレイしてるから、中堅プレイヤーになるかな?≫
名無しの金平糖 ≪プレイ……(*´Д`)中堅プレイヤー……(*´Д`)≫
夜更けの荒らし ≪おいw変な妄想はよせwセクハラになるぞw≫
名無しの金平糖 ≪す、すまん……つい……。チャット画面だとテンション変に上がっちゃって。ごめんね?ラブリーたん≫
ラブリー ≪お気にせずに~≫
──政府より通達さんが部屋に入室したよ♪
政府より通達 ≪一般市民は極力【秘境赤ずきんの森】に近付かないようにして下さい。今現在、各国混合の特殊部隊が向かい対処しますので一般市民は別ダンジョン、又は、自宅待機をお願いいたします≫
──政府より通達さんが退室したよ♪
ラブリー ≪え、なに今の?これ本当なのかな?≫
夜更けの荒らし ≪政府になりすましたアホじゃないかな?≫
名無しの金平糖 ≪うーん……え?ぅおおい……ま!?ちょ!部屋閉じる!あとはダンジョン内で話そうぜ!≫
夜更けの荒らし ≪了!ていうかガチかよアレ!?≫
ラブリー ≪ガチだね!面白そう♪それじゃあダンジョンで!≫
──夜更けの荒らしさんが退室したよ♪
──ラブリーさんが部屋を退室したよ♪
──虎徹さんをキックしたよ♪
──ミカエルさんをキックしたよ♪
──名無しの金平糖さんが部屋を退室したよ♪──【秘境赤ずきんの森ナウ~1回死にますた~】のチャット部屋は閉じられました♪
名無しの金平糖が立ち上げていた部屋を閉じたのは【秘境赤ずきんの森】で異様な光景が発生していたからだ。そして名無しの金平糖以外にも続々とアバターが増え、ギャラリーが集まっていた。
「すげぇなぁ……!」
名無しの金平糖が興奮気味に話す先には、異様な行軍が見えていた。黒い迷彩色に身を包んだ行軍は一糸乱れぬ動きで列をなし、その手には【秘境赤ずきんの森】にもこのイランゲームにも存在しない、特別仕様の武器を手にしていた。恐らく先程のチャットで【政府より通達】というハンドルネームの者が書き込んだ、各国混合の特殊部隊員達だろう。
「恐らくだけど、あれはチート武器っぽいね」
夜更けの荒らしは見解を口にしていく。
「チート武器ってことは、それだけ本気でヤバい状況なんじゃない。原発が爆発するかもしれないんでしょ?」
不安半分、好奇心半分と言った感じでラブリーが話せば、名無しの金平糖は城に向かった組の友人に各国混合の特殊部隊が城に向かっていることをメール送信し、夜更けの荒らしとラブリーに訊いていく。
「俺達はどうしようか?ここで待機してる連中は他にもいるし、各国混合の特殊部隊の後にこっそり付いてってみる?」
「うーん……。でも、待機するようにお願いされてなかった?」
ラブリーは通達に書かれていたことに対して懸念を示していた。
「確かにお願いは出てたけど、強制力はないからなぁ~。各国混合の特殊部隊の邪魔にならない、尚且つ、安全な場所から見てるだけなら大丈夫じゃないか?」
夜更けの荒らしが意見を口にすれば、ラブリーは頷いた。
「それもそうね……それじゃ、見に行くとしますか!」
「よし、決まりだな!」
そして名無しの金平糖とラブリーと夜更けの荒らしの3人組は、各国混合の特殊部隊の行軍の後にこっそりと付いた。一方その頃、城へ一足先に向かった者達は既に城内に潜入し、先程死んだレポーターと同じルートを通って最初のフロアに足を踏み入れていた。
「あ……」
「どうした、虎徹?」
「たった今、チャット部屋からキックされた。多分、名無しの金平糖がチャット部屋を閉じたんだと思う。ミカエルも切られてるよ」
「ほんとだ。何かあったのかな……お、名無しの金平糖からメールが届いてるぜ」
そして腕時計型のデバイス画面をタッチし、メール画面を開き、メッセージを確認していく。
【各国混合の特殊部隊のアバターが城に向かってるぞ!しかもチートっぽい武器を持っててガチめだった!自衛隊が向かってるから一般市民は待機してて下さいとかいう、政府のお知らせがチャットであったが、邪魔にならないところで見学してればいいかなと思って今、俺達も城に向かってる。また城の報告できたらよろ~】
「各国混合の特殊部隊が城に進軍してて、名無しの金平糖も城に向かってるんだって」
「へぇ~、そうなんだ。それじゃあ俺達は各国混合の特殊部隊と名無しの金平糖が到着する前にある程度、城内を調べてまわろう。原発を何とかしないとやばいのはどこも一緒なんだからさ──……名無しの金平糖と夜更けの荒らしは完全に野次馬っぽいけど」
「だな。アイツ等は100%そんな感じだよな。ある意味すげぇし尊敬だわ。しっかし広い城だよなぁ。1階と2階に分かれてるし、部屋も沢山あるし……ここは、二手に分かれたほうが良さそうだね」
虎徹が切り出せばミカエルは頷いた。
「ああ、そうしよう。あと死なないように気を付けよう。俺達の残りライフはあと4つしか残ってないからな」
「そうだね。さっきみたいに、レッド・ドラゴンみたいなキャラが登場しなければ問題ないとは思うんだけど……それじゃあ何かあったら直ぐに連絡してくれ」
虎徹はミカエルに念を押した。
「ああ、連絡する。じゃあ俺は、2階からまわってくよ」
ミカエルは踵を返し、2階の螺旋階段を上がっていく。
「うん、よろしく頼んだ」
そして虎徹とミカエルはそれぞれ分かれ、探索を開始した。
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