第12話 作戦開始!

 ナイトの作戦は至ってシンプルどころか、名無しの金平糖も、アラシも、ラブリーも、得意分野な作戦だった。

「え……。マジでそんなんでいいのか……?」

 半信半疑になる名無しの金平糖に続き、アラシも同じ調子で口にしていく。

「俺等の得意分野で原発の冷却機能を奪取できるどころか、リアルの連中や世界も救えるって……まっっっ!?」

 アラシがナイトに聞き返す中、ラブリーも同じ様子で驚きつつ、思ったままを口にする。

「アタシ達が今までやってきたことは無駄じゃなかったというか、むしろそれが必要になるとはねぇ……」

 名無しの金平糖も、アラシも、ラブリーも同意見になり、信じられないといった様子でいた。そこでナイトは補足説明をしていく。

ゲームマスターアイツは極度の潔癖性なんだよ。特に性に関しての苦手意識が強いし、下品な物は大嫌いで、見るのも不愉快に感じる奴だ──だからこそ、効果覿面てきめんになる」

 自作したプログラムが仕込まれた簡易チャット画面を見ながらナイトはククッと笑う。日常的に使用し利用していた物が、世界を救うことになる──本当なのだろうか?そして作戦もシンプルどころか、そんなことでいいのかと半信半疑をしてしまうレベルだ。だがナイトは自信たっぷりどころか、余裕でいけると豪語している。ナイトがそう言うのであれば恐らく間違いないのだろう。とまれ、ナイトの作戦指示通りに、名無しの金平糖、アラシ、ラブリーは決行することになった。

「まぁぶっちゃけ、得意分野どころか専売特許だな」

 デバイス画面のメッセージの横に、新たにナイトが作成し併設したチャット画面を見ながら名無しの金平糖は言った。

「だな。なんかワクワクしてきたぜ」

 アラシは武者震いよりも楽しさ全開な様子で呟いた。因みにアラシとラブリーはナイトが新たにプログラムを組み込んだメッセージ機能画面で待機している。

「アタシもちょっとワクワクしてるよ!これで世界が救えたら嬉しいなぁ」

 ラブリーも意気揚々と答えていく。全人類の命と原発が掛かった案件が、もしかしたら自分達の指先1つで救えるかもしれない──そう考えるとプレッシャーはあるが、今までしてきた経験、ただの暇潰しや遊びでしてきたチャットやメッセージのやり取りが馬鹿にできない領域に進出するかもしれないのだ。もし進出すれば間違いなく革新となるだろう。

「テメェ等、準備はいいか?」

 ナイトの言葉に名無しの金平糖も、アラシも、ラブリーも頷く。

「始めるぞ……ゲームスタートだ!」

 ナイトは警戒に端末を叩いていく──


*   *   *   *   *   *


『ピロン』

 メッセージが受信した音が響いた。それは1人に限らず、各地でだ──

「ん……?なんだこれ、なんか知らん人からメッセージが届いてるんだが……」

「へぇ、どれどれ……んん?は……?」

 【秘境赤ずきんの森】のダンジョンに踏み込み、クエストに向かっていた2人組プレイヤーの1人が隣のバディを組んでる相棒に声を掛け、疑問を呟いたのちフリーズした。フリーズするのも無理はなかった。何故なら内容はイランゲームと逸脱しているどころか無関係で、何ならこのゲームとは違うポップアップ広告のようなメッセージが表示されていたからだ──

 【イランゲームを楽しんでるみんなぁ~元気?生きてる?私の名前はウサぴょん☆ジュリナと申しまっす♪そしてこのメールを受け取ったみ~んなにお得な情報がありまぁ~す!なんとなんと!このメール!ウサぴょん☆ジュリナのリアルな個人情報が交換できる、とっても大事なメールなんです♪ウサぴょん☆ジュリナのことをもっと知りた~いと思ったら、気軽にメールしてね♡何時でもお返事待ってま~す♡それから下をスクロールしていくと、私のリアルの写真が貼ってありま〜す♪見てみてね♡】

 ──といった内容の、完全に出会い系やマッチングアプリ系な物だったからだ。一体何が目的かも分からないが、取り敢えずこのウサぴょん☆ジュリナはイランゲームをしているプレイヤーと繋がりたいのがうかがえた。

「このウサぴょん☆ジュリナって子は、このゲーム内で出会いを探してるのかな?」

「さぁ……よく分からんが、取り敢えず画面をスクロールして見てみようぜ」

 興味を持ったプレイヤー達は画面をスクロールし、ウサぴょん☆ジュリナがどんなご尊顔をしているかの確認をしていく。

「な……」

「こ、これは……!」

 画面をスクロールしていくと、バニーのコスプレをした20歳ぐらいの女性が可愛くポーズを決めていた。黒髪ロング、小顔、そして体型は細いながらも胸、お尻、脚はムチムチとしながらも細く、純和風の顔つきをした小悪魔系の美人な子だった。そして写真の下には追伸と書かれ、文字が書き記されていた。

【興味があったら気軽に連絡してね♡あと【秘境赤ずきんの森】の外れのダンジョンで迷ってるジュリナを助けてくれる殿方がいたら嬉しいなぁ♡】

 女性に免疫がなく、ワンチャン狙った者達は次々にこのアドレスを登録するどころかフレンド登録もし、怒涛にメールを送信していく。


 【ウサぴょん☆ジュリナちゃんめちゃ可愛い!彼氏とかいるの?付き合いたい!】

 【ウサぴょん☆ジュリナたんはどこのポイントにいるの?教えて!今から助けに向かうよ!】

 【ウサぴょん☆ジュリナたんの胸の谷間に挟まって埋まりたい……】

 ──等と、質問や意味不明な感想が次々とそのメールアドレスに送信されていく。ちなみにウサぴょん☆ジュリナとは、ナイトがAI画像生成からリアルに構築した架空のキャラクターで高度なプログラムが組み込まれており、先程アラシが【始まりの街】で買い占めてきたアイテム等を使用して形成されている。そしてサーバーは段々と混雑してきた。


*   *   *   *   *   *


「ねぇねぇマスター、なんか一部の機能に過重な負荷が掛かりだしてるようだけど……これ、問題ないのかな?」

 ホフマーはマスターに意見をうかがっていく。

「過重な負荷……?」

 その画面と機能をシステムで選出すれば、数値が急激に上昇していた。その数値がどこ経由かを調べた結果、イランゲームのメール機能システムを使用しているのが分かった。ただ連絡を取り合うにしてはおかしな現象で、マスターはその原因を一先ずホフマーに調べさせ、対処させることにした。


*   *   *   *   *   *


 そしてナイトが作成したプログラムを組み込んだメールには次々とメールが受信されていた。そのメール対応をしているのはアラシとラブリーである。

「まさかチャットで培った経験が、ここで生かされようとはなぁ~」

 アラシは呟きながら、ウサぴょん✩ジュリナになりすましてメール返信をしていく。要はネカマをしているのだ──こんな具合で。

 【ジュリナわぁ、今までお付きあいしてた殿方と結ばれる運命はなく、1人孤独に過ごしてきたのぉ〜。だけど今、危機的状況になっちゃったしぃ、ジュリナめちゃ寂しいしぃ、ジュリナと添い遂げてくれる殿方を募集してるのです♡ジュリナは今、間違えてよく分からないクエストに巻き込まれて挑戦しちゃってましてぇ〜魔物に囲まれてるの……助けて欲しいのです】

 すると直ぐに返信が『ピロン』と返った。

 【ジュリナちゃんと今すぐ添い遂げたいです!詳しい場所どこ?】

 【え〜嬉しい♪えっとぉジュリナの場所を今から送るね?でもそこには魔物さん達が沢山いてぇ、辿り着く前に死んじゃうかもだし、大変かもぉ……ジュリナの為に貴重な命の♡《ハート》を使わないで】

 【平気さ!ジュリナちゃんの為なら散弾の中だろうと、マグマの中だろうと関係ないし助けに行く!】

『本当?えぇ~、ジュリナ……あなたのことめっちゃ好きになりそう!ジュリナね?熱い人……だぁ~いすき♡チュッ💋それじゃあ今から場所とジュリナの為にして欲しいことを送信するね♡』

──……といった具合で返事を返しているのだ。そしてジュリナの文を考えているのがラブリーである。ラブリーが内容を考えて、アラシが打ち込むという連携作業をしていた。

「それにしても、ウサぴょん☆ジュリナにこんなにも引っ掛かる人がいるなんて……吃驚ね。この中に女性もたまにいるけど、男性陣が圧倒的過ぎ……」

 ラブリーは古典的な方法でこんなにも引っ掛かるものなのかと驚き、半ば引いていたが、よくよく考えればネカマをして引っ掛かる人はザラどころかわりと多いので、どこも一緒かと改めて認識することになった。そしてラブリーの話にアラシは「男なんてこんなもんだよ」と苦笑し、持論を展開させた。

「女慣れしてようがしてまいが、可愛ければ騙されるし、守ってあげたいと思ってしまうのがネット民の性ですわぁ」

「ふぅ~ん、そうなんだ。なるほどね……うん、勉強になるよ」

 ラブリーはアラシの見解に頷き、引き続き新たなプログラム制作に取り掛かっているナイトに話を振る。

「ナイト、ある程度の人が【秘境赤ずきんの森】に集結してきたよ」

「おう!そんじゃ、次のプログラムを発動させる頃合いだが、その前にだ!名無しの金平糖!俺が作った簡易チャットのほうはどうだ?」

「今、なんとか部屋を無数に立て終わったところだ」

 名無しの金平糖はナイト独自のプログラムで作成した簡易チャット部屋に、bot利用で無作為に部屋を作っていた。勿論これはプログラムで出来た部屋で、部屋主はどの部屋にも存在していない。そして部屋名はほぼ似たような内容のタイトルで作られていた。


 【童貞ゲームマスターの恥部をハケーンしたけど見る?】

 【ゲームマスターの恥部をみんなで愛でる会】

 【ゲームマスターが自前マスターでマスってマス】

 【マスター界のマスターがマスターの穴開発に牛蒡ごぼうを暴発】

 ……等という、どれも稚拙なタイトルで、そのような部屋名で100以上も埋め尽くされていた。性を知った小学生や中学生並の低次元なタイトル部屋名に、何ともいえない気分が訪れたのは言うまでもない。

「こういう感じで全部作ったけど──どう?てか、本当にこれでいいのか……?」

 名無しの金平糖はナイトに訊き、部屋名を最初から最後まで確認してもらう為に見てもらった。するとナイトはニヤリと笑い「上出来だ!」と口にした。ナイト曰く、これでゲームマスターをおびきだせるとのことだが、果たしてそんなに都合よく、簡単にいくものなのか──。とまれ、ナイトはその部屋に最後の仕込みをほどこしていく。

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