第9話 新たな仲間、不吉な訪れ

「ていうかナイトは普段、何してるのよ?」

「あ?そりゃ勿論、トラッキングやハッキングに決まってんだろ。俺をおとしめた奴等を叩き潰す為だけに生きてきたからな!」

 完全に目付きが殺意に満ちており、全人類を皆殺しにする気配がそこには漂っていた。だが──

「へぇ、そうなんだ。ナイトは、なんていうか……真面目な人なんだね?」

「は……?」

 ラブリーはそこでしおらしく、やんわりと笑い掛ける。そして声のトーンを落とし、伏し目がちになった途端、金髪男ナイトは急変したラブリーの態度に少しどきまぎしていた。ラブリーの変貌ぶりは端から見れば大根役者だが、完全に金髪男ナイトは不意打ちを食らった顔でラブリーを見詰めている。そしてラブリーは語っていく──

「アタシ、全然気付かなかった。だってまさか、この世界のシェキナシステムがナイトが作った物なんて知らなかったし、今流行りのアプリゲームのイランシステムもナイトが手掛けてたなんて……。ナイトから直接話を訊かなければ全然知らなかったよ。ナイトが作った物なのに、それを自分達が作ったように発表して、その上強奪して、こんな風に悪用されるなんて……許せないし、酷い話よね」

「お前……。分かってくれるのか?」

 金髪男ナイトの表情が和らいでいく。どうやら純粋なようだ。

「うん、ナイトが許せないって思う気持ちは痛い程分かるよ。だけどナイトは、本当は壊したいなんて思ってないでしょ?ナイトは自分が作った技術を自分の物だと、世界に認識させたいんだよね。それなら壊すよりも……」

 そこでラブリーは金髪男ナイトに向けて手を差し伸べ、告げた。

「アタシ達と共に、ここに巣食う悪い奴等に、ナイトの技術を見せつけた上で救ってみない?ナイトの技術はイランゲームやシェキナを凌駕してるじゃない。それにナイトはこの世界に独自に侵入して、チートアイテムも作って、レッド・ドラゴンも懐柔かいじゅうさせた。ナイト以外の人じゃ不可能だったことをやり遂げている。ナイトは偉業を達成してるじゃない!ここにいるアタシも、名無しの金平糖も、元・夜更けの荒らし改めナイト初号機も、ナイトの凄さを認めてるし、必要としてるんだよ」

「おい!ナイト初号機ってなんだよ!?」

 元・夜更けの荒らしで現ナイトは突っ込むが、名無しの金平糖がラブリーの話に水を差さないように「まぁまぁ、どうどう」と落ち着かせ、ラブリーに話の続きを促していく。

「ナイトの技術はこの先、世界に変革をもたらす平和の希望にもなるんじゃないかな?だから、この世界の勇者になって、お願い……ナイト!ナイトがいないと、このバーチャル世界も、リアル世界も滅亡して終わってしまう!」

 ラブリーは力強くナイトに向けて言った。大根役者ながらも語る言葉には感情がこもっていた。チャットでネカマをしていた経験があるからだろうか。

「俺は……」

 暫し黙りとしていた金髪男ナイトが徐に切り出したその時だった。城だけが地響きを立て、不気味に揺れ始めた。

「なんだ!?」

「おい、中で何が起きてるんだ……!?」

「え、やばくない!?」

 そして城周辺の空気が裂けるようにして歪みだした。

「やだ!なに!なんなの……!?」

「不味いな!これはまた、死ぬかもしれないぞ……」

「まじか!どうする!?走って逃げるにしてもこのままじゃ……」

 城の揺れが酷く、その周辺の空間も連鎖するように徐々に歪みが侵食していく。

『ピィー!』

 刹那、金髪男のナイトが人差し指と親指を口許にくわえて勢いよく吹いた、指笛だ。すると先程まで大人しくしていたレッド・ドラゴンが勢いよく動き、金髪男ナイトの傍まで駆け寄って姿勢を低くしていく。

「お前らさっさと乗りやがれ!おら!急げ!」

 金髪男ナイトはラブリーを乱雑に小脇に抱えると、レッド・ドラゴンの背に飛び乗った。どうやら助けてくれるようだ。名無しの金平糖とナイト改め、ナイト初号機もナイトとラブリーの後に続いて乗る。

「しっかり掴まってろよ!」

 ナイトは矢継ぎ早に言い、再び指笛を鳴らしていく。するとレッド・ドラゴンは雄々しく翼を広げ、城から離れるように上空へと一気に急上昇して飛翔していく。風圧が凄まじかったがナイトに言われたように掴まり、振り落とされないように踏ん張っていく。そしてレッド・ドラゴンが城から離れて数秒──ズンとした衝撃音の後に城が木っ端微塵に崩壊していき、周囲を焼く程の爆炎が上がった。ほんの数秒の出来事だった。

「マジかよ……」

「みんな、どうなっちまったんだ……」

「分かんない……。けど恐らく、1回は死んだんじゃないかな……?」

 名無しの金平糖、ナイト初号機、ラブリーがそれぞれ口にした直後、ナイトがぽつりと告げた。

「あの野郎の仕業で、考えたことだろうな……糞が」

 忌々しげに言ったナイトの表情は憎悪に満ちていた。

「あの野郎って……ここのゲームマスターのこと?ナイトの知り合いなの?」

 ラブリーの問いにナイトは頷いた。

「ああ、腐れ縁だ。あの野郎は……ぜってぇぶっ殺してミンチにしてやる!」

 ナイトの言葉には一切迷いがない。そしてナイトのような類いの人間はもれなくナイトのように異質で突飛な存在で構成されているのかもしれない──と、3人の脳裏に過るが、言えば面倒な状況になりそうなので口にはしなかった。とまれ、金髪男のナイトはバーチャルにも、リアルにも、相当恨みがあるようだが、先程口にした破壊衝動は一先ず収まったようだ。城が爆発した原因は分からないが、ナイトのお陰で命拾いした。

「城は後回しにして、一先ず作戦を立てていこう」

「だな。あとチャット部屋も立てて、この状況を知る人物がいるかどうかも訊いてみよう」

 これからどうするかを話し合う中、城とレッド・ドラゴンを遠くから監視するように眺める者達がいた。

「うーん……原発問題が解決するまでは、あまり目立つ行動はしないほうがいいのかなぁ……?それにあのレッド・ドラゴンのことも、よく分かんないし……」

 上空に飛び去っていくレッド・ドラゴンを見詰めながら口にしたのは、フードを目深に被った少年だ。年は赤ずきんと同じく10歳前後で、その少年を含めて同じ年齢層の子供達が複数そこにいた。

「それよりも僕、お腹が減っちゃったよ~。なにか食べたいな……」

「もうお腹が減ったの?さっき食べたばかりじゃん」

「だってぇ~……」

「しょうがないなぁ。ちょっと待ってて」

 少年は腕に取り付けられたデバイスを目の前に持っていき、口にする。

tranceトランス──狩人」

 すると少年の体から光源が放出され、 見る間に子供から屈強な大人の身体へと変貌を遂げていく。

「それじゃあ僕が今から狩りをしてくるから、みんなで安全な場所で待機してて」

「は~い」

 お腹が空いたと言った子供と共に、他の子供達も返事を返していく。そして子供から屈強な大人の狩人の姿に変貌した子供は凄まじい脚力でフィールドを一気に駆け抜けた──


*   *   *   *   *   *


「ねぇマスター、マスター権限でアップデートしている間に異物が侵入したみたいだけど……どうする?排除する?」

「放っておけ。異物が侵入したところで何もできやしないさ……。そんなことよりホフマー、例の計画はうまくいきそうか?」

 マスターの問いにホフマーは顔をしかめた。

「うーん、それはやってみないことには分からないかなぁ……。何せまだひよっこ共だからねぇ。ひよっこ共で考えて、ひよっこ共で経験をつませてあげるのが大事だし……まぁもし何かあれば、僕が手を差し伸べるけど、暫くは様子見だよ。そうそう、【秘境赤ずきんの森】のダンジョン内の城は爆破しといたよ。各国の部隊がチームを組んで、チート武器で城内に潜入してクリアしようとしていたからね。そんな生温い連中には1回の爆破で死んでもらうことにしたよ。NPCの赤ずきんと兵士をそこから離脱させるのが少し面倒だったけど、何とかうまくいったよ。それで、また城を元通りに復旧してるとこ」

「そうか。それならいい──ところで今、現実はどうなっている?」

「ふふっ……面白いことになってるよ。どの国も原発をメルトダウンさせないよう、人力で冷却するのに大忙しさ!」

「ふむ……そうか。廃炉にしようとしている国はないのか?」

「ないみたいだね。どの国も廃炉は断固として拒否姿勢を貫いているよ。テロには屈しない!が抱負なんじゃないかな」

 するとマスターは黙りとし、端末を操作していく。

「マスター、今度は何をするの?」

「バーチャル世界だけではなく、現実世界にも特別ミッションを追加してやるだけさ。その考えが変わらないかどうか、少し試してみようかと思ってね……」

 マスターは口許に笑みを称えている。

「原発に直接、衝撃でも与えてやるのかい?」

「いいや、それはしない。直接的に与えたらすぐに崩落してジ・エンドだ。矢張りイランゲームと同じく、ゲーム感覚でプレイしてもらわないことには不公平だし、楽しめないだろう……」

 マスターはフッとわらい、端末をタップし──

「さぁ、現実でも楽しく愉快なミッションを、各地で無差別に、満遍なく起こしてやろう」

 唐突に引き起こす為のシグナルを送信していく──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る