第15話 ナイトの過去~幼少期篇~

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 ナイトには両親がいた。しかし両親2人は飛行機事故で亡くなった、ナイトが13歳の時だった。それからは母方の叔父になるシェキナ博士に預けられ育てられていた。だがナイトは1人ではなかった。ナイトと同じくして飛行機事故で親を亡くした者達がシェキナ博士の研究施設に集い、共同生活を送っていたのだ。ナイトと同じく年齢の近い子供やそれよりも幼い子供がそこには集められ、ナイト含めて10人いた。鬱蒼うっそうと生い茂る自然豊かな環境はナイトや他の子供達の傷ついた心を癒す場所には最適な環境となっていた。だがナイトはそこには中々馴染めず、衝突するようになっていた。その中でもグブラとはよく言い争いになり、派手な喧嘩を繰り返していた──


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「おいナイト!それは俺が作った玩具だぞ!返せよ!」

「ちょっと借りるだけだ!」

「ちょっと借りて、お前はすぐに魔改造するだろ!止めろよ!」

 最初こそは親を失った悲しみに呉れていたが、子供達は次第に元気を取り戻した。シェキナ博士や研究員の親に育てられていたこともあってか打ち解け、親がしていたような新しいシステムの研究に繋がるような開発を、子供の内から全員やるようになり、互いに協力したり見せ合いもしていたのだ。だがナイトだけは周囲と中々打ち解けずにいて、特にグブラとは毎日喧嘩しない日がないぐらいに派手な喧嘩をしていた。

「もう~、2人とも止めなよ!」

 そしてその喧嘩を仲裁する役割を担っていたのはビナーだ。グブラやナイトと年齢が近かったからだが一番は、ビナーに弟のヘセドがいたからだろう。それもあってか皆の異変にすぐ気付き、対応する姉のような存在だった。研究施設の中では確り者で、皆のまとめ役も自ずと担うようにもなっていた。なのでグブラとナイトが喧嘩しだすと必ず間に入って仲裁をするのがビナーだ。

「ビナー!これは男同士の喧嘩なんだよ!関係ない女はどっか行け!」

「男とか女とか関係ないわ!それからナイト!その玩具はグブラが一生懸命考えて開発した玩具なのよ?それを勝手に改造するのはよくないわ!」

 ビナーはナイトの荒い物言いに怯むことなく、言い返していく。

「いいんだよ!俺様が改造すればもっとより良い物になんだよ!」

 言い返すナイトにビナーは嘆息するも、だが決してナイトの言い分を否定することはせず、諭すように言った。

「確かにナイトが更に手を加えればより良い物に変わるかもしれない──けれど、グブラの大事な思いが消えてしまうかもしれない……そう考えたら、悲しいとは思わない?」

「うるせぇ!そんなん知るか!こんなもん……!」

 ナイトはグブラが作った玩具を床に叩きつけて壊そうと腕を振り上げた──だが、その手を止めたのはシェキナ博士だった。シェキナ博士はナイトからグブラが作り上げた玩具を取り上げるとグブラに返し、そしてこの日、この施設で初めてのことがこの場で起きた。

 『パン』

 乾いた音が響き渡り、静まり返った。シェキナ博士はナイトの頬を叩いたのだ。その場にいたグブラも、ビナーも、他の皆も驚いた様子でその光景を見詰めていた。そしてナイトも驚いた表情でシェキナ博士を見返していたが、直にきっと睨み、無言で施設の外へと出てってしまった。

「ちょ……、ナイト!待って!」

 ビナーは慌ててナイトを追い掛けて行く。ビナーの後に、玩具を持ったグブラも続いて

追い掛けていく。そしてシェキナ博士はその場にしゃがみこみ、項垂れ、嘆息した。

「私はナイトに……いけないことを、悪いことをしてしまった……」

 シェキナ博士が自責するように呟く中、シェキナ博士の側に1人の少年がトテトテと歩み寄り、口を開いた。

「シェキナ博士……、悲ちぃの……?苦ちぃの……??」

 幼い少年は明瞭に言葉を言えないが、この場の空気を察したようにして訊いていく。

「ハハッ……心配を掛けてしまってすまない。そうだね、悲しくて苦しいよ」

 すると幼い少年はしゃがみこむシェキナ博士の頭に手を載せ──

「よちよち、もうだいじょぶ。悲ちくない、苦ちくない……」

 そう口にして微笑んだ。幼い少年の微笑みはとても穏やかな気持ちにさせ、涙も気持ちも溢れでていく。

「ありがとう……ヘセド、君はとっても優しい子だね……」

 シェキナ博士はヘセドを抱き寄せ、嗚咽する。

「よちよち、よちよち」

 ヘセドはシェキナ博士が泣き止むまで頭を撫でるのだった──


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「ナイト!何処にいるの!?いたら返事をして!?」

 鬱蒼うっそうと生い茂る森林を駆けながら、ビナーはいなくなったナイトを必死に探していく。だが幾ら呼んでもナイトからの返事が返ることはなく、ビナーの声のみが反響するだけだった。

「ナイトー!ナイトー!!」

 ビナーは力一杯叫ぶも、ビナーの呼び声にナイトの返事は返らない。だがビナーはそれでも諦めずにナイトを懸命に探していく──

 ビナーの声は聞こえていた。呼ばれていることにも気づいていた。だがナイトは無視を決め込み、よく隠れ家にし、1人になりたい時のとっておきの場所に潜り込み、そこでじっとしたまま身を潜めていた。そこは森の中心地から外れた場所にある、大木の木の穴の中で、大木の幹の中には大きな空洞があり、そこに隠れることができるようになっていた。目印となる場所にはくいが打ってあり、道を1度覚えれば、方向音痴でない限り迷わずたどり着ける場所だった。ナイトはぽっかり空いた大木の空洞の穴の奥に入り込み、体育座りでしゃがんで先程のことを振り返った。いつも優しく、何をやっても許してくれるシェキナ博士が今日、初めて、ナイトに手をあげたのだ。どうして手をあげたのか、考えなくてもナイト自身分かっていた──しかし悪いと思っても、自分に非があると分かっていても、納得できず、悶々もんもんとしていた。

「俺だって──、俺だって……」

 ナイトは両親を亡くした寂しさを今もずっと1人で抱えていた。ナイトと同じ境遇を持った年齢の近い子達と接するも矢張り、中々その寂しさを埋めることはできず、霧散できずにいた。むしろ時を戻して欲しいとさえ毎日のように思っていた。時を戻せれば、父も母も止めることはできたし飛行機に乗らせないようにもできたからだ。そうすれば毎日、父と母の研究も、楽しい毎日も、ずっとずっと変わりなく送れていたかもしれない……

 そう思う内に、視界は段々とぼやけて滲んでいた。

「お父さん、お母さん……。なんで、いなくなっちゃたんだよ……。どうして、俺を1人にして、置いてったんだよ……」

 ナイトはぽろぽろと涙をこぼし、膝を抱え、うずくまるようにして泣いた。

「キャァアアア!」

 刹那、ビナーの甲高い悲鳴が木霊した。その悲鳴は恐怖し、何か不足の事態が起きたことを示していた。

「ビナー……?」

 この自然豊かな森には人だけではなく、野生の動物が多く生息していた。恐らくビナーはとても恐ろしい動物か何かに遭遇してしまったのかもしれない。ナイトは涙を拭き立ち上がると、大木の空洞の奥に隠してあった、改造したショットガンを抱え、穴から抜けでて悲鳴が上がった方向へと急いで走っていく──


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 ビナーは悲鳴を上げ後ずさり、尻餅をついた。ビナーの前に現れたのは大きな巨体の野生の熊だった。ビナーの悲鳴で野生の熊は一瞬動きを止めるも、次にはビナーに襲いかかろうとしていた。

──ダン!

 刹那、乾いた発砲音が響いた。

「グォオオオ!」

 すると野生の熊はふらつき重心を崩していく。野生の熊の片眼からは血が噴き出し、野生の熊は怯んだ。

「ビナー!さっさと立て!立ってそこから離れて逃げろ!」

 ナイトはビナーに矢継ぎ早に言い、再び熊に向けて銃を構えた。だがビナーは未だに地面に座ったままで動こうとしない。

「ビナー!何やってんだ!?早く逃げろっ!」

 するとビナーは震える声で弱々しく言った。

「ナイト……ごめん……私、腰が……抜けちゃって……」

 そして野生の熊は片目を負傷し血を流しながらも、再びビナーに襲いかかろうと突進していく。ナイトは再び撃つが、弾は熊に当たらず外してしまった。

「くそっ……!」

 ナイトは再び構え照準を定めるが間に合わない──刹那、へたり込むビナーを咄嗟にすくい上げるようにして抱え、間一髪のところでその場から救い出した。救い出したのはグブラだった。

「ナイト!ビナーは俺に任せろ!」

 グブラがナイトに叫べば、ナイトは頷き熊に照準をもう一度定めていく。そして再び立ち上がった熊の心臓目掛け、数発の銃弾を浴びせた。すると熊は暫く動くも直にどっと地面に倒れ伏し、完全に動かなくなった。

「やったのか……?」

「うん」

 ナイトは先程まで喧嘩してたグブラと普通に会話をした。そしてグブラは漸く動けるようになったビナーを下ろしてから、ナイトが手にしている改造ショットガンを見遣り口を開いた。

「それ……ナイトが作ったのか?」

「うん……。この森は野生の動物が生息してっから、自分の身を守るにはナイフだけじゃ危ないだろ……」

「ああ、そうだな……」

 2人はそれから押し黙り──

「「あのさ……」」

 2人は同時に口を開き声を掛けた。タイミングが一緒だった為、また2人は押し黙ることになったが、ナイトから口を開いた。

「その……、さっきは悪かったよ。お前が大事にして作った物を勝手に取って、勝手に改造しようとして……ごめん」

「ううん、いいんだ。俺のほうこそごめん……。ナイトだって良かれと思ってやろうとしてたの俺知ってたし……でもつい、維持になって……。実はこの玩具のパーツさ、お父さんの形見のパーツを使って作り上げた物だったから……」

 グブラが先程の玩具をナイトに見せ、この部分なんだと指し示しながら説明した。ナイトはそれを見遣り「そっか……」と返した。そしてまた2人は気まずそうに押し黙る。それを見ていたビナーは盛大に溜め息をつき、口にした。

「グブラも、ナイトも、なによそよそしくしてるのよ?くっだらない!」

 ビナーがはっきりと口にした瞬間、少し落ち込んだ様子でいたナイトはムッとした表情で否定した。

「うっせー!つーか、別によそよそしくなんかしてねぇーよ!」

「ふぅ~ん?そうかしらぁ?な~んか何時もと違って、しおらしいし、元気ないからどうしたのかと思ってねぇ」

 ビナーが意地の悪い笑みを浮かべてナイトに言うと、ナイトは何時もの調子で切り返した。

「あ?俺様はいつも元気で!今日も元気だろうが!ビナーこそションベンもらしてんじゃねぇーの?」

 ナイトのデリカシーのない発言に今度ばビナーがムッとなる。

「漏らすわけないでしょ!私は腰を抜かしただけよ!」

「まぁまぁ……ビナーも、ナイトも落ち着いて……ね?」

 グブラがなだめると、ナイトが突っかかっていく。

「るっせぇ!ヘタレなグブラが偉そうにしてんじゃねぇ!」

「あぁ!?なんだと!?」

「──っ、ふふっ、アハハハハ」

 刹那、ビナーが笑い始めた。

「あんだよ、何が可笑しいんだよ……?」

 ナイトが不審な目で言えば、ビナーは「べっつに~?」と明るく返し、そしてナイトとグブラの2人の手を取って歩き始める。

「シェキナ博士もきっと心配してるだろうし、早く研究所の施設に帰ろう?」

「うん、そうだね」

「ちっ……面倒だが、そうすっか」

 ビナー、グブラ、ナイトは元来た道を引き返し歩いた。それから研究所の施設に戻れば、シェキナ博士が入り口の近くで待っていた。突然飛び出してしまったことや先程のことをどう説明しよう──と、3人が考える中、シェキナ博士は駆け寄ってきた。そしてビナー、グブラ、ナイトの元にしゃがむと、3人まとめて抱き寄せ──

「すまなかった……本当に、すまなかった……」

 シェキナ博士は泣いて謝罪の言葉を繰り返した。3人は吃驚するも、先程の一件や騒動で緊張の糸が切れ、シェキナ博士につられて涙を流し「ごめんなさい」と謝った。それからはシェキナ博士が手をあげることはなくなった。ナイト達のわだかまりが解けたのも関係していたからだろう。シェキナ博士も、ナイト含む子供達も、研究しながら穏やかな日々を過ごしていた。だが穏やかな日々もそう長くは続かず、年齢を重ねるにつれまた徐々に溝ができ始めた。というのも、シェキナ博士経由で子供達を精鋭にする為の各国からの依頼が増えるようになったからだ。ナイト達にとって依頼内容はとても魅力的で、どれも面白い物ばかりだったが、シェキナ博士だけは浮かない顔をしていた。何故シェキナ博士が浮かない顔をしているかは分からなかった。だがナイト達は依頼をこなし──やがて、シェキナ博士以上の逸材となった。子供達の成長、飛躍に各国の上層部達は喜んでいた。しかしシェキナ博士だけは矢張り嬉しそうにはせず、懸念の色を示すばかりで、それはじきに子供達にも伝染し始めた──

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