ゼロサムゲーム
龍神雲
第1章
第1話 序章
「ねぇ、今なら考えなおせるしやり直せる!これが正しい選択とは思わないでしょ?」
コンソールが設置された格納庫のような造りの施設、シェキナシステムを管理している施設にて女はコンソールに向かう男に投げ掛けていく──
日本含む世界はAI機能9割のシェキナシステムを樹立させ、統治国家を築いていた。シェキナは神の存在として名付けられ、このシステムは衛星から世界各国の情報を一瞬で掌握する、量子型プログラムシステムとして誕生した。そしてこのシェキナシステムを開発した博士、シェキナ博士は開発し発表したのち亡くなるが、その後釜として精鋭の諜報員9名が選出され、各国の国家権限の命に基づき管理されていた。内乱はあれど大規模な戦争はなくなり、多くの世界で平和と均衡を保つようになっていた。そんな頃、事件は起きた──
「ヘセド!」
女はコンソールに佇む男を呼称する。女の周囲には6名の男女が混在していた。シェキナシステムを管理している精鋭達だ。だが後の6名は口を挟まず、事の成り行きを静かに眺めていた。女の訴えに男は静かに頷くが──
「ああそうだ、これが正しいとは思わない。だが誤りだとも思えない……正しいか正しくないか分かるのは、実行しなければ誰も分からないものなんだよ……」
男の表情は憂いを帯びていたが、決断を迷う素振りは見られない。だが女は諦めずに説得を続けていく。
「だったら考えなおそうよヘセド!私達ならいつだって……」
「ああ。それは以前の僕の話だよ。今日からはヘセドではない──マスターだ。僕の名前はゲームマスター、これでさよならだよ……」
男がそう告げた瞬間、施設から複数名の警備兵が現れ、女と女の近くに控えていた6名の男女を拘束した。
「──!ヘセド、待って!!」
「これが正しいか、正しくないか……判断してみなよ」
それを最後に男女の会話は終わった。それから3ヶ月が経過した。世界中では最新のアプリゲームが流行り、賑わいを見せていた。
「全世界で注目されているこのアプリゲームはどの機種でも簡単にインストールできて、老若男女関係なく誰でも!気軽にさくっと!課金勢でも、無課金勢でも、楽しめるゲームになってますが、中でも毎週開催されるクエストが人気を博しています!」
女性レポーターがタブレット画面をカメラに向けて陽気に話しながら説明したのは、最新ゲームアプリ、イランゲームで、イランは
「では私も早速、アバターを作って人気のクエストをしていきたいと思います!明日の正午にアップデートされるダンジョンは御伽の国や中世の時代、そして近未来を描いた物語で【秘境赤ずきんの森】【ドラゴンズナイト】【メタバースシティ】のダンジョンとなってます。第1ステージの【秘境赤ずきんの森】ではいなくなった赤ずきんを制限時間内に救出し、お婆さんになりすました狼を倒すという、昔ながらの童話がモチーフにされた内容となってますね。1人で冒険してもよし、複数人でプレイしてもよしですが、今回アップデートされた各ステージのゲーム難易度がナイトメアだそうで……ああ、ナイトメアというのはイージー、ノーマル、ハード、ベリーハード、ナイトメアとなってまして、一番難しいモードに設定されています。ちなみに5回死ぬとゲームオーバーになり、課金者も無課金者も関係なく今まで積み上げていたスキル、武器、アイテム、レベルも失ってしまうという、とんでも仕様だそうです!コアゲーマー殺しのハイランクゲームでクリアできる者は現れるのか、さてさて、ゲームイージーな私は一体どうなってしまうのか?今からとても楽しみですねぇ♪」
レポーターはそのゲーム専用のデバイスを腕に装着したのち、頭にヘッドセットを被った。臨場感を味わう為でもあるが、ゲームから見える景色をよりリアルに、正確に、視聴者達に伝える為で、それがゲームの仕様にもなっている。因みにゲーム内のアバターは自分とほぼそっくりのアバターが生成されるようになっており、それ以外に変更できない仕組みだ。
レポーターが自身のアバターを生成し、それから【始まりの街】を越え、【秘境赤ずきんの森】のダンジョンに踏み込み間も無く、
「おぉ~!早速!赤ずきんちゃんらしき少女を発見しました!いやあれは、間違いなくグリム童話に登場する赤ずきんちゃんですね!皆さん見えてますか?赤ずきんちゃんですよ~!」
女性レポーターは興奮気味に話しながら実況する中、赤ずきんの姿は森の奥へと向かい遠ざかっていく。
「赤ずきんちゃん待って~!では!赤ずきんちゃんの後を追い掛けていきます!」
レポーターはそう言い、赤ずきんのあとを追い掛けた。
暗い森を抜けると広大な草原が広がっていた。風が心地良く凪ぎ、ひらりと葉が舞っていく。バーチャル世界にいながらもまるで現実世界のような感覚で体感できるのは、このゲームならではの仕様である。そして目の前に見えてきたのはお婆さんの家──ではなく、巨大な西洋風の城だった。童話の赤ずきんと異なる城が
「お婆さんの家ではなく、巨大なお城が見えてますね。いやぁ~壮大な城で圧巻で、これはインスタ映えすること間違いなしですね!さてさて、赤ずきんちゃんは一体どこに……あ、いました!あそこです!あそこにいます!」
赤ずきんは城付近にある林檎を数個もぎ取り手に携えていた籠に入れ、それから城近辺に広がる花畑にしゃがむと花を摘み取りだした。何ともほっこりする光景だが、間も無くし、城から兵士1人が出現し、赤ずきんに近づいていく。
「おい貴様!そこで何をしている!ここは女王陛下の敷地だぞ!勝手に林檎をもぎ、花まで
兵士は赤ずきんを引っ捕らえ、城の中に連行していく。
「いやだ!離して!助けて!誰か助けて……!」
赤ずきんの悲痛な助けを求める声がした後、そこで鐘の音が鳴り響く。
『ゴーン。ゴーン。ゴーン』
大地を揺るがす鐘の音と同時に腕に装着しているデバイスも振動しアナウンスも入った。
『秘境赤ずきんの森でイベントが開始されました。クエスト者は制限時間内に赤ずきんを救出してください。繰り返します。秘境赤ずきんの森でイベントが開始されました。クエスト者は制限時間内に赤ずきんを救出してください……』
するとデバイスのモニターには時計と共にタイムリミットが表示され、既にカウントダウンが開始し、59分36秒から数字が徐々に減っていた。タイムリミットの横には横長のHPゲージの他に
「制限時間は1時間のようですね!では早速!城に潜入したいと思いますが……どこから入ればいいんでしょうねぇ?うーん……そうだなぁ、赤ずきんちゃんが連れ去られた扉から入ってみることにします!」
レポーターーは苦笑しながら赤ずきんが連れ去られた扉に近づいていく。取っ手に手をかけ回そうとした刹那──
「えっ……?」
鮮血が飛び散った。その扉から無数の鋭い巨大な針が飛び出し、レポーターの体を一瞬で貫き串刺しにしたのだ。レポーターのHPは瞬く間に1000から0になり、1回目の死亡となった。死亡すると直ぐには復活せず、5分のタイムラグが発生し、串刺しにされた扉付近の手前で復活した。どうやら始めからやり直しはないようなのでそこは安心だが、初見殺しのステージにレポーターも驚いた様子で話しだした。
「いやぁ~!まさかまさか……まさかの!扉の取っ手に触れた瞬間に串刺しにされて死ぬとは思いませんでした!しかも刺される痛覚もあって吃驚です!この感覚は体験したくないですねぇ……ともあれ!この城全体にカラクリが仕掛けられているのでしょうか?これは油断できませんねぇ。では別のルートからも行ってみることにします」
レポーターは笑顔で告げると裏手の扉から今度は城の正面に移動した。見事な薔薇の庭園が広がり、幾つもの薔薇のアーケードがあった。そこをくぐっていくと立派な門構えが見えてきたが、門は堅く閉ざされている。そして門の前には門番のような兵士2名が甲冑を着込み、槍を携えて立っていた。
「正面突破も死亡フラグがありそうですが、行ってみます!」
レポーターは快活に言い、兵士2人の側に近付き話しかけていく。
「こんにちは、城の中に通していただけますか?」
すると兵士2人はレポーターを見遣り口にした。
「去れ!ここは神聖な女王の城である!」
「そうですかぁ。うーん、城の中に赤ずきんちゃんが囚われているので解放してくれませんか?」
女性レポーターは兵士2人に事情説明をする。だが──
「去れ!何人たりともここは通さない!」
兵士2人は槍で牽制しレポーターを遠ざけた。赤ずきんというワードを出しても兵士は動じない。どうやら正面突破も無理なようである。
「正面突破も無理なようですねぇ!では門からまた移動しま~す♪」
レポーターは明るく言い、城の城壁をぐるりとまわるようにして歩いていく。
「敷地も広く、大きな城ですねぇ~。ミッションをこなさなくてもただこうして散歩するだけでも楽しめますし、このゲームの見所かもしれませんねぇ」
のんびりと実況する中、タイムリミットが40分になった。すると腕につけていたデバイスが振動し、再びアナウンスが入る。
『秘境の森から悪い狼達がやってきます。クエスト者は避難、もしくは戦闘の準備をしてください。繰り返します。秘境の森から悪い狼達がやってきます。クエスト者は避難、もしくは戦闘の準備をしてください……』
「どうやら狼が向かってきているようですね。うーん、しかし赤ずきんちゃんも助けないといけないし……そっか!混乱に乗じて助ければいいのか!ではまた正面に移動します!」
レポーターは閃き、正面門扉がある方向へ再び走っていく。するとそこには門番以外の兵士達が集まり、狼の襲撃に備えて臨戦体勢で待ち構えていた。正面門は開いていたが、どうらや狼の襲撃に合わせて突破しないといけないようにも見えた。
「ここは襲撃のタイミングに合わせて突破していきます」
レポーターはそう言うなり正面扉から近い大木に身を潜め機を
「兵士達が無数の狼と応戦しています!では私はその隙に、城に潜入して囚われた赤ずきんちゃんを見つけ出し、解放しにいきたいと思います!」
レポーターは颯爽と駆け出した。兵士達は狼と応戦しているのでレポーターに構ってる余裕もなく、存在も気付くこともなく、レポーターの侵入をあっさりと許した。どうやら正解フラグだったようだ。そして城の中に踏み込めば、豪奢なバロック形式の造りが視界に広がっていた。城内は広く螺旋階段がいくつもあり、そこかしこが大理石でできていた。部屋もいくつも点在していてどれも凝った造形だ。
「うーん……どうしよう」
レポーターの逡巡する声が上がる。片端から扉を開けていきたいところだが、先程のような初見殺しなカラクリ扉も恐らくある為、一筋縄にはいかない。迂闊には開けることが
できないのは一目瞭然だ。
「いや~、扉が沢山ありますねぇ~。どの扉が正解で、赤ずきんちゃんの扉になるんでしょうかねぇ……?」
レポーターは暫しそこで立ち止まり、考えていたが──
「ううーん、時間もそんなにないので!上の階からあたってみたいと思います!」
レポーターは近くにあった螺旋階段を軽快に走りながら登り実況していく。
「このゲームなんですが、実際の動きと連動しているので、中々良い運動になりますね!ダイエットにも最適かもしれませんねぇ。さて、どの扉を開いていきましょうか?」
レポーターがいる階には20の扉が縦方向に存在していた。それぞれ何かしらの紋章が描かれていたが、ゲームならではのデザイン紋章で意味はないようにも見えた。
「そうだなぁ、先ずは手前の扉から開いてみましょう!あ、その前に、さっきのように初見殺しにならないようなアイテムを探してみます。アイテムは何かないかなぁ……」
レポーターはデバイスを開き、アイテムボックスの中身を覗いていく。そしてレポーターがアイテム選びをする中、その中継画面を見ながら舌打ちをする者が1人──
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