最終章
第21話 ウイルスに、隕石に、歪んだ愛の告白に
* * * * * *
「お前の命は……あと1回しか、残ってないんだ……」
名無しの金平糖が手にしていた回復薬をアラシはぐっと押し返していく。
「そう、か。そうだな……ありがとな、アラシ……」
そして名無しの金平糖は起き上がり、押し返された回復薬をアラシの口の中に全て注ぎ、飲み干させた。
「ゲホッ……!おまっ……!なに、やって……!?」
アラシは目を見開き言い返した。体力が残っていれば怒鳴られていたところだが、言い返すのがやっとで見返すのみだった。
「可能性があるなら……、俺は……そっちに……賭けたい……。ナイトと、ラブリーにも、よろしく伝えといてくれ……」
名無しの金平糖のライフゲージは見る間に減っていく。残り10を切っていた。
「ざけんな、馬鹿野郎……!こんなとこで……、遺言なんて……残すんじゃ……ねぇよ……!」
アラシは睨むが、名無しの金平糖は笑って返した。
「あとは……任せたぜ、相棒……」
そして名無しの金平糖のライフゲージが5になり──
「マルクト権限発動!無数のアバターを
刹那!怒鳴るような声が頭上からした。地面に横たわる名無しの金平糖、アラシ、そしてクエスト者達に光の粒子が放たれ包まれ、HPも、体に発生した異常も瞬時に回復するだけでなく、消失した。
「え──?嘘……」
「ま……?は……?ワクチンいらず……?」
名無しの金平糖もアラシもむくりと起き上がり、お互いに見つめ合う中、頭上から声が響き渡った。
「名無しの金平糖!アラシ!くっせぇ大根演技や三文芝居してんじゃねぇよ!俺さっきメッセで送ったよなぁ?死んだら殺すぞって!」
金髪の美丈夫、鍛えられた体躯ながらも言葉が乱雑な為に、その全てを台無しにしているナイトは新たに作ったのか、はたまた見つけたのか、ブラック・ドラゴンに悠々と乗り、名無しの金平糖とアラシに向かって宣言した。
「なんだよ……俺、けっこう良い感じの遺言残せて逝けると思ってたのに……ほんと、空気読めないよなぁ、ナイトの野郎は」
「だな……でも、良かったわ」
状況はまだ好転した訳ではないが、名無しの金平糖とアラシは笑い、そしてふと気づく。
「あれ、そういえばラブリーは……?」
「分からん。どこにいんだ……?」
ブラック・ドラゴンに乗ってるのはナイトだけだった。名無しの金平糖とアラシがきょろきょろと周囲を見渡した刹那、大地が強く振動し、ずんという衝撃が響き渡った。
「なんだ……!?」
「おい、あれっ……!」
名無しの金平糖はアラシに呼ばれるがまま見れば、そこには紅色のカクテルドレスに身を包み、黒い羽を生やしたラブリーが、リヴァイアサンにトランスしたゲームマスターと対峙していた。そして綺麗なすらりとした脚から強靭な蹴りを放ち、紅色のヒールの踵でリヴァイアサンの内蔵部分に鋭く一撃をくれたところだった。
「グアッ──!」
ゲームマスターは吹っ飛ばされ、地面に強く叩きつけられていく。だがラブリーは間髪を入れずに一瞬で間合いを詰めて飛翔し、リヴァイアサンの尾っぽを両手で掴むとそのまま上空に飛翔──鞭の要領で軽々とリヴァイアサンの巨体を振り上げて更に強く叩きつけた。瞬間、地面に深い亀裂が生じていき、その欠片が粉々に吹っ飛んで
「うわぁ……えっぐ!」
「えええええっ!ラブリーちゃん……強すぎ怖すぎ!はわー、味方で良かったですわ……」
名無しの金平糖とアラシが若干引きながら言う中、ブラック・ドラゴンに乗っていたナイトは2人の傍に下り──
「お前らがいない間、ラブリーは一瞬だけ敵だったが改心した。ラブリーは強いし益々、惚れたぜ」
──と、何故か惚気るナイト。最後のどうでもいい情報に名無しの金平糖もアラシも目が点になるが、ナイトは2人の目点に気づくことなく、クエスト者含めて名無しの金平糖とアラシの2人の端末にもマルクトシステムコードから得たデータに入っていたアイテムを送信していく。
「おら、全回復したお前らも気合い入れてゲームマスターぶっ倒せよ!俺はその間にウサぴょんジュリナを使って撹乱しながら、現実世界のウイルス散布を食い止めてやっからよ!」
「あのさナイト──……そのウサぴょんジュリナのことなんだが、全然役立たなかったぞ!?ポンコツどころかただの観賞用アバターじゃねぇか!」
危機的状況に陥っていたアラシは吹っ切れていた。そしてここぞとばかりに文句を口にすれば、ナイトは首を傾げる。
「は?役立たないわけねぇだろう。ウサぴょんジュリナのアバターは、超戦闘型のアバターだぜ?」
そしてナイトはウサぴょんジュリナのアバターをチェックしたのち「あっ……」と小さく呟き黙った。今の小さな呟きで何か不備があったのが分かり、アラシはナイトに詰め寄っていく。
「ちょっとなによ!今の『あっ……』てのは!?言いなさいよ!このパツキン野郎!」と、何故かオネェ口調で問い詰める。するとナイトは笑い──
「わりっ!戦闘モードあんのに、なんか知らんが嘲笑モードだけONにして、他はスリープモードにさせてたわ、ハハハッ」
──と、悪びれる様子もなく打ち明けた。完全にナイト側のケアレスミスだったようだ。
「ふ・ざ・け・ん・な!てんめぇ!ナイトぉおお!その金髪毟ったるわ!!」
アラシはナイトに掴み掛かるが、名無しの金平糖が制して引き剥がした。
「まぁまぁ、生きてるんだからいいじゃん」
名無しの金平糖は緩く笑うが、アラシはそれでも止まらず、ナイトに食って掛かった。
「ナイトのミスで俺達死にかけてんだぞ!?名無しの金平糖に関しては4回で、あと1回しかないんだぞ!」
「悪かったよ、次は気をつけっから。ほら、んなことよりアイテム発見したし、テメェ等は安全なところで援護しててくれや。あとは俺等がやっからよ」
「いや、それがさナイト!大変なんだよ!グブラ君が隕石になっちゃって!空高くうちあがっちゃって!他にも子供が沢山いて隕石になって……!とにかくやばいんだ!多分、この仮想世界にある大気圏まで浸出して、このシステムごと破壊する気だと思う!あと人工的に作った隕石も現実世界に降らせるとかも言ってた!」
「あんだって!?」
ナイトは眉間に皺を寄せ返す中、ゲームマスターであるリヴァイアサンがクツクツと
「この仮想世界も、現実世界も終わりだ──……ウイルスが散布されて、隕石が落ちれば全て無に帰す……クククッ、ハハハハハッ!これで漸く、認めてくれるだろう、僕の凄さを!偉大さを!」
「あ?誰が認めんだよ?」
ナイトが聞き返せば、リヴァイアサンとなったゲームマスターは口にした。
「死にゆく君達には関係のないことだが、冥土の土産に教えてやろう。僕をこの地獄から導いてくれる愛の女神だよ──なぁ、そうだろ?」
リヴァイアサンとなっているゲームマスターの視線はラブリーに向けられていた。
「は……?」
「え……?」
「おん……?」
ナイトの苛立った声に続き、名無しの金平糖とアラシの二重奏が加わった。そしてリヴァイアサンとなっているゲームマスターを睨み返すラブリーは吐き捨てた。
「誰がアンタなんかと!死んでもお断りよ!」
「おや、相変わらず強きだね君は……でもまたそういうところが魅力的で、とても素敵だよ」
ラブリーに対し、リヴァイアサンとなっているゲームマスターは愛を語らう。だがラブリーは不愉快さを全面に押し出して告げた。
「アタシはアンタの物になんかならない!冗談じゃないわ!それにアタシには、心に決めた人ができたのよ!アンタみたいな小物と違って、とても真面目で熱くて正義感溢れる男よ!」
刹那、名無しの金平糖とアラシの視線はナイトに向いたのは言うまでもなく、そこでまた声を潜めながらも、ナイトに完全に丸聞こえなヲタトークを始めていく──
「(ちょっとちょっと!アラシ氏!今の聞きましたかえ!?)」
「(聞きましたえ!完全にホの字じゃございませぬかこれ!?)」
「(明日は我々で赤飯を炊きましょうぞ!)」
「(ですな!5合ぐらい炊きましょうぞ……)」
「おい、お前ら!全部聞こえてんだよゴラ!ぶち殺すぞ!」
そこでナイトが2人に絡み、腕で2人の喉仏をダブルで絞めていく。
「ちょ!ギブギブギブ!死ぬ!」「ぐ、ぐるじい!」
そんなナイト達の様子をラブリーは見ながら、ふっと笑った。
「アタシは、アタシのことを受け止めてくれて、認めてくれた人が大好きなの──だからこそ、こんな腐りきった茶番は終わらせるべきよ!」
ラブリーはきっと睨んだ。
「そうか──それはとても残念だよ。僕ではなく、あんな虫けらで下品な男を選ぶとはね……僕のことを愛せない君はもう用済みだ。この世界の住人とシステムと共に……派手に散るゆくがいい。
するとリヴァイアサンの姿が巨大な漆黒の球体に成り変わる。その球体からは地面に根をはるようにして細長いコードのような物が辺りを張り巡らしていく。それは【秘境赤ずきんの森】や【始まりの街】等に限らず腕時計型のデバイスにも同じような黒い画面が生じ、タイムリミットが表示された。ゲームマスターのヘセドは時限爆弾になったのだ。
「隕石に時限爆弾にウイルス問題にって、やまずみだな……そういえば、衛星兵器問題もあったか?」
名無しの金平糖が訊けば「衛星兵器の方は放置で問題ない!」とナイトが返したので名無しの金平糖は再び喋りだす。
「とりま、ここは分担してやるしかないが……殆どが、ナイトのプログラム任せになりそうだな。先ず現実世界に散布されるウイルスの施設の特定、それから今ここにある時限爆弾の解除、そして隕石を墜落させないようにすることに赤ずきん救出だ!これ60分で行けるか!?」
名無しの金平糖は半ば叫ぶが、ナイトは「やるしかねぇだろ」とぞんざいに返し──
「その為のウサぴょんアバターと、あと残ったクエスト者達だが……」
ナイトがそこまで告げて視線を送るが、どのクエスト者達も一様に視線をそらし──
「もうあと1回しかないので、辞退します……すみません」
「俺も……」
「私はログアウトします……」
──と口々に言った。挑戦しようとする者の姿がない中、先程までリヴァイアサンとなったゲームマスターと戦っていたラブリーが飛翔し戻ってきた。
「ナイトが改造したトランス能力と装備があれば、アタシ達はナイトの指示でいける!分担するわよ!4回死んでる名無しの金平糖はナイトと一緒に作業をすればいい!それでアタシとアラシが隕石を担当すればいい!リモートで戦闘型のウサぴょんアバターを動かせば城クリアは楽勝でしょう?ナイトのスキルと大会荒らしの名無しの金平糖がいれば可能よね?」
「ん……?なんで大会荒らしのこと知ってるんだ?」
名無しの金平糖の疑問にラブリーはまた後でと言い、今度はアラシに宣言する。
「ほらアラシ!そのデバイスに送信したトランス能力で変身して行くわよ!」
「行くって、どこに……?」
「仮想世界の宇宙空間。そこから隕石が落ちるんでしょ?その中にグブラ君や子供達がいるなら助けなきゃ!」
「お、おう!」
ラブリーの勢いに圧倒されたアラシだったが返事を返し、そして口にした。
「
するとアラシの体は光源に包まれていく──
「よしっ、速攻で打ち上げるぞ。マルクト権限発動!
36枚の翼を生やした巨大な天使、メタトロンとなったアラシと戦いの女神となっているモリガンは一気に宇宙へ、【メタバースシティ】へと飛翔された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます