第22話 メタバースシティ

「すげぇなー……」

 名無しの金平糖が空を仰ぐ中、ナイトは名無しの金平糖に声を掛けた。

「俺等はマルクトシステムにあったコードで魔改造したウサぴょんアバターをリモートで使って、城の攻略を10分でやっぞ!あとの時間はラブリーとアラシのサポートにあてる!いいな?」

「うわぁお!めっちゃトライアスロン!あれ?ちなみに現実世界のウイルス散布の特定と爆弾の解除はどうするんだ?」

「それは俺が開発したbotで既に探して解読中だ。爆弾の解体はbotに任せれば済むし、特定は検索網に引っ掛かればそれをシェキナシステムを介して送信してやるだけで済む」

「なるなる!了解!んじゃ、始めますか!」

「おう、マルクト権限発動!ウサぴょんジュリナアバタースリープモード解除、戦闘型モード開始!」

 そびえ立つ城を前に、ナイトと名無しの金平糖はウサぴょんジュリナアバターから見える視点を通し、操作していく。


*   *   *   *   *   *


 一方、宇宙空間に打ち上げられ、戦いの女神、モルガンにトランスしたラブリーと巨大で異質な36枚の羽が生えた天使、メタトロンにトランスしたアラシは宇宙空間を上昇しつづける巨大な塊、隕石を発見した。

「アラシ!あれ!」

 ラブリーが指を指せば、アラシは「了解」と返し、速攻でそこまで飛翔していく。

「しっかしこれ、気持ちが良いなぁ。命が掛かってなけりゃあ毎日ログインして、トランスして遊びたいスキルだぜ」

「アハハ、そうかもね。でも今は、隕石をなんとかしなくちゃ!あの中に、グブラ君や他の子達もいるのなら、隕石が落ちる前になんとかしないと!」

「ああ、そうだな」

 そしてラブリーとアラシは宇宙空間を上昇し続ける隕石に掴まり、形状を調べていく。

「これ、ナイトが持ってる権限で解除することはできないのかしら……」

「うーん……。あ、おい、ラブリー!これ見てみろよ”」

 アラシはラブリーを隕石の中心へと呼びつける。するとそこには手動で開けれるボタンが外付けで設置されていた。

「何で手動で開けれるようになってるのかしら……」

 ラブリーの疑問にアラシも同じくして意見を言った。

「怪しいよな。このボタンを押した瞬間に爆発か、隕石落下か、それとも──……」

 ──君達って馬鹿なの?僕がそんなことする訳ないじゃないか。もっと頭を柔らかくして考えなよ

 すると先程ウイルスになって消滅した筈のホフマーの声が響き渡った。

「なっ!ホフマー、アンタ……生きてたの!?」

 ラブリーの疑問にホフマーは嘆息しながら口にした。

──逆にどうしてあれで死ぬって考えるのさ。それこそおかしいよね

 ホフマーに緩やかに突っ込まれ、ラブリーはぐぬぬと唇を噛む。そう、今はそれに言い返してる場合ではないので我慢をしたのだ。

「おい、ホフマーって言ったよな。このボタン押すとどうなんだよ!吐けや!」

 アラシはナイト並に粗雑に訊いていく。だがホフマーは心底嬉しそうに笑い、待ってましたとばかりにあっさりと答えた。

 ──そりゃ勿論、スリープモードになった子供達が出てくるだけだよ。さっさと助けなよ

 そしてホフマーはそこまで言うと欠伸をした。

 ──僕はさ、ただ楽しめれば良かっただけなんだよ。なのにマスターがどんどん1人で突っ走ってちゃって、僕は置いてけぼりさ……

 ホフマーは退屈そうに言った。

 ──で、君達の言動を監視している内に、なんか色々どうでもよくなっちゃってきてたんだよね、正直……んで、ウイルスは一応、ウイルスになってみたかったからなっただけさ。まぁ、こんなもんかって感じだったな~。ウイルスになるってどういう感じなのか試してみたけど、結局、体の循環機能をグルグル回るだけでとてもつまらなかったよ

 ホフマーの発言からして罪の意識という物が全く感じられなかったが、ホフマー自身もこの状況に少なからず嫌気が差しているのかもしれなかった。単調なことを嫌う性格なら引き込めるチャンスはある──ラブリーはそう巡らし、ホフマーと話すことにした。

「アンタさ、永遠に飽きないことがしたかったら、ヒール側じゃなくて、アタシ達の側に入れば良かったじゃない」

 ──どうしてさ?

「だってそうすれば退屈せずにスリリングな状況を味わえるでしょ?」

 ──……

 するとホフマーは暫く黙り、それから口を開いた。

 ──そうなんだけどさ、マスターを1人にしたら可哀相かなって思って

「可哀相?可哀相って、どういうこと?」

 ──マスターはさ、ずっと仲間に、僕達に囲まれていたけど、ずっと1人だったんだよね。マスターの上にはしっかり者で優しいビナーってお姉さんがいたんだけど、それがずっとネックになってたんだ。姉弟でもすれ違ってたんだよ……まぁ詳しくは知らないけれど

「そう……」

 ──貴女だってそうだったでしょ?まぁそこはもう言わないけど……兎角、子供達を助けたいならさっさとボタンを押しなよ。ボタンを押せば解除されて、メタバースシティの空間に浮いてるこの隕石も落ちることはなくなるからさ。それじゃあね

 そしてホフマーの声は遠ざかり消失した。どこへ消えたかは分からないが、今の話は嘘ではなさそうだった。

「どうする?」

 ラブリーはアラシに意見を訊いた。余りにも呆気なさすぎる展開に些か疑問で不審を抱いたラブリー。躊躇っていた。するとアラシは躊躇うラブリーにかわり腕を伸ばし、ボタンを押した。

『プシュッ!』

 すると隕石型をした中心から9個の亀裂が入り、花の蕾が花開くようにして開き──そこには、グブラ含む子供達が収納されて眠らされていた。ボタンを押してもホフマーの言う通り、何も起きなかった。

「グブラ君!グブラ君!」

 ラブリーは真っ先にグブラが横たわり眠る傍に近づき声を掛けていく。するとグブラの体がピクリと動き、じきに目をうっすらと開けていく──

「ラブリー……お姉ちゃん……?」

 グブラは辿々しく答え、上半身を起こした。

「良かった、無事で……本当に無事で良かった……」

 ラブリーはグブラの体を抱き締め、それから紡ぐ。

「ここは危ないし、この隕石は落ちる危険もあるの!一緒に逃げるわよ!」

 そしてラブリーとアラシは他の子達も揺すって起こした。後はここから退散するだけとなったが、レーザー光線のような物がキュインという光源と共に近場に撃たれた。撃たれた方向を見遣れば、明らかに敵意を持った人型ながらも異性人の姿が何体も見られた。

「そうか、ここはメタバースシティのダンジョンで、エンカウントで敵が発生するのか!さっさと逃げよう!」

「そうね!」

 アラシとラブリーは余分に持ってきたアイテム、トランススキルを子供達のデバイスに急いでインポートさせ、アラシと同様、翼が生えた天使の姿へとトランスさせてからその場を離れた──

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