第12話 極悪な勇者

「アラン先生……人助けもいいですけど、少しは自分のことも考えてください。アラン先生はマギステル認定試験を控えているんです。怪我したら大変なことですから」


 エリシアはビシッと指を立てて、俺を叱った。

 うっ……元教え子に注意されるとはちょっと恥ずかしい。


「すまんな。心配かけて」

「まあ……困っている人を放っておけないところが、先生のいいところなんですけどね」

「そうそう! アラン先生は優しすぎるのだ。だからあたしが守ってあげるのだあ!」

「……シルフィは、早く先生から離れてください」


 俺の首にしがみついてたシルフィを、エリシアが引き剥がした。


「ぶー! もっとアラン先生にくっつきたかったのに!」


 シルフィは大いに不満げだ。口をとんがらせてエリシアに抗議している。


「先ほどは助けていただきありがとうございます」


 マスターが深々と頭を下げた。


「いえいえ。当然のことをしたまでです」

「お礼に、食事代はタダにさせてください」

「そんなの悪いですよ。ここはちゃんと払わせてください。……それより冒険者から、みかじめ料を要求されているんですか?」

「ええ……そうなんです。ちょうど5年前に、王都に勇者様がギルドを開いてから、みかじめを要求されるようになりました」

「その勇者様の名前は、アルス・ゴクアークですか? 」

「そうです! 勇者アルス様が来てから、王都にある店はすべて、みかじめ料を要求されています。みかじめ料を払うことを拒否した店は……武装した冒険者がやって来て、店をめちゃくちゃにされて、廃業させられます」

「ひどい……! 許せませんね」


 エリシアは拳を握り締めた。

 孤児院にいた頃から、エリシアは正義感が強かった。

 他の子が近所の子にいじめられた時は、相手の家にまで乗り込んで、親相手に説教する子だった。


「ひどいのだ! 勇者失格なのだ!」


 シルフィの言うとおり、一般市民からみかじめ料を巻き上げるなんて、勇者失格だ。

 勇者は、魔王に対抗できる唯一の存在、この世界に救世主たる存在だ。

 弱き者を守るのが勇者のはずなのに、逆に人々を虐げ傷つけるとは、極悪すぎる。

 あのアルスがこんなにひどいことを王都でしているとは……まあ、予想通りだ。

 俺が勇者パーティーにいた頃から、助けた商人にワイロを要求したり、共同クエストで他のパーティーの取り分を横取りしたり、悪どいことをしていた。

 絶対に勇者にしてはいけない男なのだが、神はアルスを勇者にしてしまった。不幸の始まりと言える。

 悪どいことを一緒にするぐらいなら、追放されてよかったかもしれない。


「……アラン先生、もしかして勇者アルスと知り合いなんですか?」

「え? いや……それはないよ」

「本当ですか?」

「ああ、そうだよ」

「ふーん……」


 エリシアは勘が鋭い。俺が隠していることを見抜いてる。

 元教え子に隠しごとをするのは心苦しいが……俺には言えない事情がある。


「さてと、そろそろ、あたしの家に行きましょうか」

「エリシアお姉ちゃんのお家で遊ぶぞー!」


 シルフィもエリシアの家に行くつもりらしい。


「シルフィは呼んでないけど……まあいいわ。せっかく久しぶりに会えたし、一緒に来て」

「ありがとう! エリシアお姉ちゃん大好き!」


 シルフィはエリシアに抱きついた。


「あなた……本当に抱きつき魔ね」

「えへへ……だって懐かしいんだもん!」


 久しぶりの再会に、シルフィもエリシアも嬉しいんだ。

 俺たちは店を出て、エリシアの家に向かった。

 

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