第13話 先生に褒められたい!

「エリシアお姉ちゃんのお家、広いね!」

「すげえな……」


 エリシアの家は、王都の貴族居住区にあった。

 立派な門構えの屋敷に、中庭には噴水もあった。

 さすが伯爵の屋敷、と言ったところだ。


 エリシアが玄関ドアを開けると、


「おかえりなさいませ。エリシア様」


 メイドが出迎えてくれた。


「ただいま。サーシャ。お客さんが来たから、お茶の準備をしてちょうだい」

「はい。エリシア様」


 歳はエリシアと同じくらいの、メイドの女の子がペコっと頭を下げた。

 栗色のおさげ髪と丸メガネ、真面目そう子だ。


「さあ、こちらへ。客間でお茶にしましょう」


 屋敷の中も豪華だ。玄関ホールの天井には、シャンデリアまである。

 俺たちはエリシアに案内されて、客間へ通された。


「ふかふかなのだー!」


 シルフィがソファーに飛び乗った。


「シルフィ……子どもじゃないんだから」


 エリシアは呆れた顔をした。


「だって、アラン先生とエリシアお姉ちゃんと一緒なんだもん! 子どもに戻らなきゃ損だよ!」

「損って……」


 シルフィは召喚士だ。

 16歳で一人前の冒険者として、迷宮に潜っている。

 たまには子どもに戻りたいのだろう。冒険者は過酷な仕事だからな。


「エリシアお姉ちゃんも、子どもに戻りなよ。昔みたいにかくれんぼしよ! このお屋敷、すごく広いからかくれんぼしたら楽しいよ!」

「かくれんぼか。いいな」

「アラン先生まで! かくれんぼなんて子どもみたいなこと、あたしはしません!」


 そう言いつつも、エリシアは楽しそうだ。


「エリシア様、お茶が入りました」


 サーシャさんがお茶を持ってきてくれた。

 香りのいい紅茶だ。きっと高級品だろう。


「さ、お茶が入りましたから、ちゃんと座って」


 エリシアがはしゃぐシルフィを座らせた。

 懐かしい光景だ。孤児院でも食事の時、エリシアは走り回るシルフィを捕まえていた。


「アラン先生……何笑ってるんですか?」

「すまん、ついな」

「変な先生……?」


 エリシアは不思議そうに首を傾げていた。


 俺たちはいろいろな話をした。

 お互いの近況から孤児院の頃の話まで、楽しい時間を過ごした。


「あ、そうだ! アラン先生! あたしのリュークちゃんを見て!」

「リュークちゃん?」

「あたしの召喚獣だよ! ドラゴンなの! アラン先生に見せたい」

「いいですね。あたしもアラン先生に魔術を見せたいです」


 エリシアが立ち上がった。


「だったら……アラン先生にすごい!って言わせた方が、アラン先生に頭をポンポンしてもらうのはどう?」

「OKです! 受けて立ちましょう!」

「よぉーし! 負けないぞ!」


 なぜか魔術対決になってしまった。

 二人ともバチバチに火花を散らしている。


「アラン先生、絶対にあたしが勝ちますからね!」

「アラン先生、あたしはぜっーたいに負けないのだ!」


 ◇◇◇


「ふふふ。負けないですよ。シルフィ」

「エリシアお姉ちゃんこそ、あたしには勝てないのだ」


 俺たちはエリシアの屋敷の中庭に出て来た。

 芝生の上で、エリシアとシルフィが向き合う。

 

「あたしから行くー!


 シルフィはルーンの杖を振り上げた。


「深淵の龍よ……我がしもべ、ここ出でよ!」


 シルフィの前に、魔法陣が浮ぶ。

 魔法陣を召喚ゲートにするつもりだ。

 

「リュークちゃん、出てきて!」


 魔法陣が激しい光に包まれた。


「おお……すごいな」


 銀色に輝く鱗と、深いブルーの瞳。

 大きな翼がはためく。

 シルバードラゴン——神話級の召喚獣だ。古代に国を滅ぼしたと言われる幻のドラゴン。

 

「すごい……シルフィが神話級の召喚獣を呼び出すなんて……」


 エリシアも驚いている。

 

 神話級の召喚獣を呼び出せる召喚士は、召喚士でも一握りしかいない。特級召喚士だけだ。

 召喚士にはランクがあり、下級、中級、上級、特級の順に強い。特級は世界でも数人しかいないとされる。


「アラン先生に召喚術を教えてもらって……リュークちゃんと出会えたんだよ!」

「え? 俺が教えたっけ?」


 特級召喚術を教えた記憶はないのだが。


「アラン先生ひどい! 忘れたの? 手乗りドラゴンの召喚、教えてくれたでしょ!」

「あ、あれか……」

「やっと思い出した。ええーん!」


 昔、寂しがり屋のシルフィに、手乗りの小さなドラゴンを召喚する、初級の召喚術を教えた。

 召喚獣の初歩だ。特級召喚術とは次元が違う。

 

「すごいなシルフィ。特級召喚士なら、Sランクギルドにも入れるし、どこに行っても引っ張りだこだろう」

「うん! いろんな国のギルドから誘われているけど、あたしはアルトリア王国にいたいの。アラン先生の近くにいたいから」

「もったいないよ。シルフィはもっと上を目指せる」

「ヤダ! アラン先生の近くがいいの!」


 特級召喚士なら、国王直属の召喚士にもなれる。

 外国のSランクギルドから、スカウトもされる。

 勇者アルスも、特級召喚士を仲間にしたがっていた。

 

「アラン先生は、あたしの召喚術の師匠なのだ! だからアラン先生もすごい人なのだ!」


 シルフィが俺の胸に飛び込んできた。


「えへへ。アラン先生はいい匂いがする……エリシアお姉ちゃん、あたしの勝ちでいいよね?」

 

 俺の首に抱きながら、シルフィはエリシアを煽る。


「……シルフィ、なかなかやりますね。だけど、あたしも負けてません。先生に『すごい!』って言わせて見せますから!」


 エリシアは、右の手のひらを空に向けた。

 目を閉じて、詠唱を始める。


「……煉獄の焔よ、我が怒りとなれ!」


 煉獄の焔≪ヘルファイア≫だ。

 焔属性の最上級魔術だ。

 魔術師は、生まれつき魔術属性が決まっている。

 魔術属性には5つあり、焔、氷、雷、土、緑がある。

 一人の魔術師が授かれる魔術属性は、たった一つだけだ。

 エリシアの魔術属性は焔だ。


「焔よ! 天を駆けなさい!」


 空に巨大な火の玉が現れた。まるで太陽のように煌々と辺りを照らす。


「すごいな……エリシア」

「エリシアお姉ちゃん、すごいのだ!」


 最上級魔術を使えるのは、魔術師の中でも少数しかいない。一国の軍隊を丸ごと消し飛ばすほどの力がある。


「ありがとうございます♡ でも、まだまだすごいものお見せしますから!」


 エリシアは左の手のひらを掲げた。


「……絶望の零度よ。世の悲嘆となれ!」


 冰属性の最上級魔術——絶望の零度。

 空気中の水滴が凍りついて、大きな氷の塊が空に出現した。

 エリシアは二属性持ちの魔術師だったのか。

 孤児院にいた頃は、焔属性しか持っていなかった。


「ふふ。アラン先生、驚いてますね。先生に言われた修行をずっと続けていたら、もう一つの魔術属性が開花したのです」

「すまん。それ何だっけ……?」

「もお! アラン先生ひどい!」

 

 昔のことだから忘れてしまった。

 エリシアに何か特別な修行をさせた記憶はないのだが。

 

「ほら。常に魔術回路を使い続けろって。毎日、焔を出し続けたら、もうひとつ魔術回路が解放されたんです」

「ああ……そういえば、そんなこと言ったけ」

「忘れちゃったんですか? 先生に言われたことはずっとやってたのに!」

「すまん、すまん」


 エリシアが頬を膨らませて怒った。


 魔術回路は筋肉と同じで、毎日使うことが大切だ。

 小さな魔術でもいいから使うことで、少しずつ魔術回路を鍛えていく。

 もっと魔術を強くしたいと俺にせがむエリシアに、毎日ファイアーボールを一つ出す修行をさせていた。

 すっかり忘れていたが、エリシアはずっと俺の言葉を覚えていたようだ。


「さ、アラン先生、あたしとシルフィのどっちの勝ちですか?」

「あたしだよね? アラン先生?」


 エリシアとシルフィが俺にずいずい近づいてきた。

 ジト目で俺を見つめてくる。

 どうしたものか……?


「うーん……引き分けだ。エリシアもシルフィも、どちらも素晴らしかった。2人とも勝ちだよ」

「えー! つまんない!」

「アラン先生……それはないですよ!」


 エリシアもシルフィも、不満げな顔をする。


「……どっちも勝ちなら、2人とも頭ポンポンをしてください!」

「そうなのだ! 2人に頭ポンポンするのだぁ!」


 2人は俺に頭を向けてきた。

 これはもう、仕方ないな。


「わかった。エリシア、シルフィ、二人ともよく頑張った。すごいよ。いい子だ」


 俺は2人の頭を撫でた。


「つっー! 気持ちいいのだ!」

「……気持ちいいです。落ち着きます」


 2人とも満足げな様子だ。

 元教え子たちが喜んでくれてよかった。


 元教え子たちは、すごい成長を見せている。

 俺も、マギステル認定試験を頑張らないとな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


次回、いよいよマギステル認定試験になります。

ざまぁもある回となります!


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