第3話 貴族不敬罪はあなたですよ
「先生には、マギア協会のマギステルに就任していただきます」
「え? マギステルだって……?」
トーンマを無視して、エリシアは話を続ける。
「ええ。これが国王陛下からの命令書です。アラン・スペクターをマギステルに任命するとあります」
エリシアは待ってましたとばかりに、ローブからすっと羊皮紙を出した。
アルトリア国王の玉璽が押してある。双頭の獅子が、アルトリア王家の印だ。
「ほら、見てください。しっかりと押してあるでしょう? 先生はマギステルとなって、王都の魔術師たちを指導するのです」
双頭の獅子を、ビシッと指差すエリシア。
たしかに、これは紛れもなく国王の命令書だ。
「おい、小娘! 貴族の俺を無視するとは、貴族不敬罪だぞ!」
トーンマがエリシアの胸ぐらを掴んだ。
かなり怒っているな。
ヤバい。すぐ謝らせないと……
「さっきからうるさいですね。あなたは黙っていなさい。私は今、先生と話したいのです」
「……え?」
周りの空気が、凍りつく。
近くで見守っていたクリミアさんもメルビー院長も、顔がひきつっていた。
子どもたちはただならぬ雰囲気を察してか、2階の子ども部屋へ逃げて行った。
「……貴族不敬罪だ。お前を逮捕する!」
「トーンマ・ハッサーン男爵と言いましたね。これを見てください」
エリシアは右の人差し指を、トーンマに突きつけた。
人差し指に、銀の指輪が光っている。
「こ、これは……銀獅子の指輪。国王陛下が伯爵以上の貴族に賜る、特別な指輪のはず。なぜお前のような小娘が持っている?」
「私はマギア協会のマギステルです。マギステルに任命された者は、国王陛下から伯爵の爵位を賜ります」
マギア協会には、王都の実力のある魔術師が集まっている。
最先端の魔術の研究や、魔術による戦闘訓練を行う組織だ。
マギア協会の指導者であるマギステルともなれば、王国にとって貴重な人材だ。
特別に爵位を与えて、国王に忠誠を誓わせるつもりなんだろう。
「つまり、私はあなたより位の高い貴族なのです。不敬罪になるのはあなたですよ、ハッサーン男爵」
「ぐっ……」
トーンマは、苦虫を潰したように顔を歪めた。
「今、謝れば許して差し上げますわ」
「…………申し訳ありませんでした」
あの傲慢なトーンマが、謝った。
しかも自分より10歳以上も年下の少女に。
信じられない光景に、俺は唖然とした。
「よろしい。私は先生と大事な話がありますから、さっさと出て行きなさい」
「はい……失礼します」
トボトボと、トーンマは孤児院から出て行った。
心なしか、背中が小さく見える。
悔しさでプルプル震えているようだ。
もし貴族不敬罪で捕まれば、爵位が剥脱される。
いくらプライドの高いトーンマでも、爵位を失うのは怖いのだろう。
「さ、邪魔者はいなくなりました。先生、私と一緒に王都へ行きましょう」
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【あとがき】
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