第4話 おっさん、昔話をする
「おいおい。せっかく帰ってきたんだから、まずはゆっくり話そう」
急ぐエリシアを俺は止める。
「……それもそうですね。せっかくですから」
「職員室でお茶を出すよ」
俺はエリシアを職員室の応接間へ通した。
「エリシアちゃん、本当に立派になって。すごいわ」
紅茶を淹れながら、クリミアさんが笑った。
「クリミア先生は変わりませんね。今もおきれいです」
「まあお上手ね! 褒めても何も出ないわよ」
「ところで、アラン先生に告白はしたんですか?」
「え? あっ!」
クリミアさんは驚いて、紅茶をこぼしそうになった。
「こ、告白だなんて……あはは、何を言ってるのかしら? 私はアラン先生のこと、同僚として、そ、尊敬してますっ!」
「へー尊敬なんだー」
エリシアは頬杖をつきながら、ニヤりと笑う。
「そ、そうよ。アラン先生は、すごく子どもたちに優しいし好かれてるし……」
「ふふ。クリミア先生かわいいー」
「もお! 大人をからかうんじゃありません!」
クリミアさんはエリシアをポカポカ叩いた。
「本当にエリシアは変わったな。昔のエリシアからは想像できないよ」
エリシアは実際、すごく変わった。
昔は人見知りで引っ込み思案な子どもだった。
元々は裕福な商家の娘だったが、父親が事業に失敗して失踪。残された母親はエリシアを孤児院に捨てた。
最初は中々孤児院に馴染めず、いつも一人で本を読んでいた。
そんなエリシアが、今や王都でマギステルになっているのだから、世の中は何があるかわからない。
「アラン先生のおかげです。アラン先生が、あたしに魔術を教えてくれたから」
俺は孤児たちに魔術を教えている。
簡単な初級の生活魔術だ。
水を出したり、火を起こしたりする、初歩の魔術だ。
孤児院を巣立ってから、生活に困らないようにするためだった。
「アラン先生が魔術の楽しさを教えてくれたんです。あたしはアラン先生のおかげで、変われたんです。自分に自信を持ってるようになりました」
「そう言われると嬉しいけど、すべてはエリシアの才能と努力のおかげだよ。俺はほんの少し、背中を押しただけだ」
「ほんの少し、じゃないです。あたしをとっても高い所まで押してくれました」
「あはは……嬉しいよ。ありがとう」
俺は人から褒められるのは苦手だ。
魔術師として、俺は三流だ。
もちろん俺なりに努力はしたが、自分の限界はすぐにわかってしまった。
一生かかっても、俺はエリシアのようにマギステルにはなれないだろう。
「アラン先生は謙虚すぎます。アラン先生の魔術は……もっと世界に知られるべきです」
「いやいや、俺は人に知られるような男じゃないよ。それに、孤児院の仕事があるから……」
「先生ならそう言うと思ってました。でも、国王の命令書がありますし、孤児院のためにもなるんですよ」
「孤児院のため?」
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