第5話 孤児院を救うために

「……ルナージュ孤児院の経営が苦しいのは、私もわかってます。王都でマギステルになれば、莫大な報酬を得ることができます。それで孤児院を救えます」


 ルナージュ孤児院は、年々予算を減らされてきた。

 トーンマ・ハッサーン男爵が予算を削減したせいで、孤児院の経営はカツカツだ。

 子どもたちの食費さえ、やりくりするのに苦労していた。


「マギステルの報酬は、伯爵の年収に匹敵する金額です。それだけあれば孤児院の助けになるでしょう?」

「たしかにそうだが……」

「王都に一度来てもらって、もしマギステルの仕事が合わなければ、孤児院へ帰ればいいのです」


 正直、良い条件だと思う。

 孤児院を援助しながら、王都でマギステルになれる。

 しかもマギステルになれば伯爵の爵位も手に入る。

 俺が孤児院の運営費を出せば、トーンマも文句はないはずだ。

 だけど俺がいなくなれば、孤児院の仕事はクリミアさんとメルビー院長だけでやらなきゃいけない。

 たった2人の職員で、40人以上の子どもたちの世話をするのはキツいだろう。

 

「エリシア、有難い話だけど……」

「アラン先生、私たちなら大丈夫ですよ」


 クリミアさんが口を挟んだ。


「アラン先生の力が認められるためなら、私がアラン先生の分も頑張りますっ! アラン先生から魔術もいろいろ教えてもらいましたし……あとのこと、は私たちに任せてください」

「そうですよ。あとはクリミア先生とワシがなんとかするから、アラン先生は王都に行ってください」


 クリミアさんとメルビー院長が、俺の背中を押してくれる。

 本当に、いい人たちだ。


「アラン先生の魔術が、ついに世界に認められる日が来たのです。私、先生を王都にお連れするのが夢でしたから」


 エリシアは俺の手をぎゅっと掴んだ。

 潤んだ目で、俺を見つめている。

 澄んだ鳶色の瞳は、宝石のようにきれいだ。

 

「……アラン先生、どうして目を逸らすのです?」

「いや、すまん。何でもない」

「ふふ。先生、なんだか可愛いです」

「なっ……!」


 エリシアは悪戯ぽっく笑いながら、すっと顔を近づけてくる。

 吐息が鼻にかかるほど、整ったきれいな顔が近くまできた。


「アラン先生、今、何考えてます?」

「……きれいになったなと思って」

「き、きれいになった……?」


 エリシアが顔を赤くして、俺から離れた。

 ……助かった。エリシアが近づいた時、豊かな谷間が覗けて、俺は教え子にあらぬ想像をしてしまった。

 

「と、とにかく! 明日、王都へ出発しましょう。今日は一晩泊めてください」




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