第6話 先生はあたしを助けてくれた side エリシア

「懐かしいな……ここ」


 あたしは孤児院の2階にある図書室へ行った。

 最初に孤児院に来た時、あたしは図書室に引きこもっていた。

 裕福な商家に生まれたあたしは、貧しい暮らしてきた他の子たちと打ち解けなかった。

 そもそも来たばかりの時は、お母様があたしを孤児院に捨てたことを受け入れていなかった。

 きっといつか、お母様が迎えに来てくれるから、孤児院の子たちと仲良くしなかった。


「あ、この本。まだあるんだ」


 ボロボロになった古い本。

 これはアラン先生があたしにくれた初級魔術の本。

 王都へ旅立つ時、持って行きたかったけど、他の子たちにも読んでほしかったから残しておいた。

 この図書室は、先生が周辺の魔術師ギルドに掛け合って、古い本を譲ってもらって作った。

 アラン先生が来るまで、この孤児院の子どもたちは本を読むことなんてなかったらしい。


 孤児院で孤立していたあたしに、アラン先生が初級魔術の本をくれた。

 あたしはアラン先生がテイムしてくれた小鳥さんと一緒に、窓際の椅子で魔術の本を読んでいた。

 ひとつ新しい魔術を覚えると、アラン先生にそれを見せる。

 いつもアラン先生は大げさなくらいあたしを褒めてくれて、自分に自信がなかったあたしは嬉しかった。

 夜、あたしが寂しくて泣いていた時は、いつも側で励ましてくれた。


「今度はあたしが……先生を励ます番だ」


 アラン先生の魔術がすごいとわかったのは、王都でマギア教会の魔術師になってからだった。

 先生は小鳥をテイムするのは子どもでもできると言うけど、動物をテイムするのは高度な魔術だ。

 動物を操るには、動物の魂≪コア≫と術者の魔術回路を繋がないといけない。

 普通の魔術師なら、膨大な魔術を使わないと魂に魔術回路を繋げない。

 アラン先生は繋ぐ≪コネクト≫が上手すぎるのか、それとも魔力量が尋常じゃないのか、あたしもまだ。どっちかわからない。

 もしかしたら、どっちも尋常じゃないのかも……


 あたしには計画がある。

 アラン先生の魔術を、世界に認めさせるための秘密の計画だ。

 今回の孤児院に来たのは、その第一歩だ。

 アラン先生は優しいから、きっと孤児院を放って王都へ行くのは嫌がるに違いない。

 だから外堀を埋めるために、まずは国王の命令書をアラン先生に見せる。

 でも、アラン先生は国王の命令よりも、孤児院のほうを大切にしている。

 アラン先生が王都へ行くことが、孤児院のためになる——これで内側からアラン先生を陥せる。


「……やだ、あたし。陥せるなんて。まるであたしがアラン先生を口説いてるみたいじゃない」


 あたしとアラン先生は20歳も離れていて……ダメダメ。教え子が先生に、おかしなこと考えちゃダメだ。


 アラン先生との思い出の図書室で、一人で赤面していた。

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