第7話 王都へ旅立つ

「アラン先生、必ず帰ってきてくださいね」


 朝、馬車の前に孤児院のみんなが集まっていた。 

 クリミアさん、メルビー院長、そして子どもたちだ。


「ええ。約束します」


 俺はクリミアさんの手を握った。


「……最後に、ぎゅっとしてくれませんか?」

「へ?」


 クリミアさんは顔を真っ赤にして、俺に頼んだ。

 俺みたいなオッサンと、抱き合っていいんだろうか?

 そうやって俺が戸惑っていると、


「クリミア先生いいなー! あたしもアラン先生とぎゅっとしてほしい!」

「俺も! クリミア先生だけズルい!」


 子どもたちが俺の元へ集まる。

 押し合いへし合い、俺に一斉に抱きついてきた。

 

「ははは。アラン先生は大人気ですな」


 メルビー院長が笑った。


「……先生、そろそろ出発の時間です」


 そばで見ていたエリシアが俺に声をかける。


「じゃあ、みんな元気で!」

「必ず……帰ってきてくださいね」


 クリミアさんが俺の手をぎゅっと握った。

 白くて細い手。小さく震えている。


「はい……必ず。この孤児院を守ってみせます」


◇◇◇


「アラン先生、半日ほどで王都に着きます」

「そうか。意外と近いんだな」


 馬車は揺れながら、荒れた道を進んでいく。

 立派な馬車だ。革張りの腰掛けのおかげで、尻が少しも痛くない。


「王都に着いたら……まず、私の家に行きましょう。王都の宿は高いですから、アラン先生はしばらく私の家に滞在してください」

「ありがとう……って、滞在?」

「マギステル認定試験は、3日間行われます。筆記試験と実技試験。最後はグランド・マギステルの口頭試問があります。その間、泊まるところが必要でしょう?」

「いや、そうだけどさ……俺なんかがいいのか? エリシアの家に泊まるの」


 オッサンの俺と違って、エリシアはうら若き乙女だ。

 一人暮らしの少女の家に転がり込むなんて……しかも相手は元教え子だ。

 いろいろと差し障りがある気がしてならない。


「いいに決まってるじゃないですか。だってアラン先生ですよ? アラン先生が変なことするわけないって、信用してますから。それとも、あたしの家に来るの嫌ですか?」

「いや、嫌じゃないが……」


 エリシアは真剣な目で俺を見ていた。


「なら決まりですね! 大丈夫です! あたしの家は広くて快適ですから」

「ありがとう」


 元教え子に世話になりぱっなしで恥ずかしい気もするが、ここは素直に好意に甘えよう。

 俺は王都に知り合いはいないからな。


「ところで、グランド・マギステルってどんな奴だ?」


 グランド・マギステルは、マギステルのトップだ。

 すべての魔術師の頂点に立つ存在。

 最後の口頭試問を担当する人だ。どんな奴か予め知っておきたい。


「グランド・マギステルの名前は、ルード・オロカ。王都を守る勇者パーティー≪開闢の使徒≫の魔術師を務めています」

「ルード・オロカ、だって……?」

「え? お知り合いなんですか?」


 ルード・オロカは、かつて俺を追放した勇者パーティー≪開闢の使徒≫の魔術師だ。

 まさかルードが、グランド・マギステルになっていたとは……

 パーティーでも、俺を無能と蔑んで嫌っていた奴だ。


「いや、知らない。珍しい名前だなと思って」

「ふーん……」


 エリシアは訝しげな顔をした。

 俺の言葉を疑ってるようだ。

 

「アラン先生。あたしは何があっても先生の味方ですからね」

「そう言ってくれて嬉しいよ。エリシア」


 ルードと再会するのは正直、気が重い。

 ……しかし、どうして勇者パーティーはまだ王都にいるんだ?

 勇者は魔王を倒す使命があるはずなのに、どうして王都にいる?

 今ごろは魔王城の近くにいるかと思っていたが……


 勇者のアルスがパーティーのリーダーだった。

 俺がいると魔王討伐に足手まといだからと言って、俺をパーティーから追い出した。

 あれからいったい、アルスたちに何があったんだ?

 

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