第8話 もうひとりの孤児と再会

「ここが王都か……」


 俺はアルトリア王国の王都、アレフガントに来ていた。

 元は港から発展した街で、東の方に大きな船がたくさん繋がれている。海風が気持ちいい。

 土地柄から、商人が多い。中央広場には、辺境ではお目にかかれないアイテムが売られている。


「マギステル認定試験は3日後ですから、今日は王都を案内しますね」

「王都観光か。いいね」


 実は王都は初めてじゃない。

 10年前、勇者パーティーにいた頃はよく王都の冒険ギルドに出入りしていた。

 Sランククエストを攻略して、国王に謁見したこともあった。

 だから俺は王都に詳しい……けど、ここはお登りさんとしてエリシアに案内されよう。

 せっかく元教え子が好意で案内してくれるんだから。


「ほら先生! あれが王都の冒険者ギルドです!」


 エリシアが指差した先に、かなり大きな屋敷が見える。

 随分と立派なギルドになったものだ。昔はあんな大きな建物じゃなかった。


「おい、姉ちゃん。俺たちと一緒に遊ばない?」


 ギルドの入口で、少女が男たちに絡まれている。

 男たちは冒険者だ。二人組。鎧を着て腰には剣がある。

 白いフードを被った少女は、無視して通り過ぎようとするが、


「おいおい。俺らをシカトするつもりか?」


 男が少女の肩を掴んだ。

 

「つっ……! 離してください」


 少女は男の振り払おうとするが、


「へへへ。いいじゃねえか。悪いようにしねえから」


 男は腕を離そうとしない。


 男はニヤっと笑った。 

 いかにも悪どい顔をしている。

 冒険者は命がけで迷宮に潜る連中だ。ガラの悪い男たちがたくさんいる。

 このまま放っておけば、少女に何をするかわからない。


「おい。その子が嫌がってるだろ」


 俺は男の腕を掴んだ。


「なんだ? てめえには関係ねえだろ」


 男は俺を睨んだ。


「その子の肩から、手を離すんだ」

「……俺たちを誰だと思ってる? 俺たちは勇者ギルド≪開闢の使徒≫のメンバーだ。てめえなんかぶっ殺せるぞ」

「ははは! 俺らは勇者アルス様のギルドメンバーだ。王国最強のギルドだぜ。オッサン、怪我する前にさっさと消えな」


 隣にいた男が高笑いをする。

 ……アルスは王都でギルドを開いているらしい。

 しかし、勇者は魔王を倒す使命があるはずなのだが、まさか王都でギルド経営をやっていたとは。


 男は俺を睨みつけると、俺から離れる。

 それから剣を抜いた。

 俺に、剣の切っ先を向ける。


「おい! 喧嘩だぞ! みんな集まれー!」

「オッサンが相手かよ。こりゃ勝負にならねえな」

「コモーノ、ザーコ、手加減しなさいよー」


 俺たちの周りに冒険者たちが集まってきた。

 冒険者たちは血気盛んな奴らだ。喧嘩をするのも見るのも大好きだ。

 そして二人の男の名は、コモーノとザーコというらしい。

 ノッポの男がコモーノで、太った男がザーコ、みたいだ

 ギルドでも名前が知られているようだから、実力のある冒険者なのだろう。


「アラン先生……」


 エリシアが不安げな表情をしていた。


「大丈夫だ。すぐ終わらせるから」


 俺はエリシアに笑いかける。


「てめえ! よそ見してんじゃねええ!」


 コモーノが斬りかかってきた。


 ——強化≪エンフォース≫


 身体中の魔術回路に、俺の根源から魔力≪マナ≫を流す。

 2秒あればいい。全身に魔力が行き渡れば……


 ……カキン。

 俺は右腕で剣を防ぐ。

 剣は、折れた。真っ二つに。


「お、俺の剣が……ミスリルの剣なのに」


 コモーノは折れた剣を見て、呆然していた。

 喧嘩に盛り上がっていた冒険者たちも、一瞬で静かになった。

 

「てめえ! いったい何をしやがった!」

 

 ザーコが叫ぶ。

 何と言われても、ただ強化を使っただけなのだが。

 子どもでも使える単純な魔術だ。ただ魔力を身体に流すだけだから誰でもできる……はずだ。


「ぶっ殺しやるぅぅ!」


 ザーコが斧を振り上げた。


「きゃあああ! アラン先生ー!」


 エリシアが悲鳴を上げる。


「エリシア、大丈夫だって言っただろ」


 ガラガラ……

 俺は左手で斧を受け止める。

 斧は粉々に砕け散った。


「まさか……俺の魔神の斧が……」


 魔神の斧か。いい武器を持っている。

 少なくともBランク以上の冒険者だな。


「コモーノとザーコが負けた……」

「あのオッサン、いったい何者だ?」

「すげえもの見ちまったぜ」

  

 冒険者たちが大きくざわつく。

 

「てめえ……このままで済むと思うなよ。俺たちは勇者ギルドのメンバーだ。俺たちをコケにすれば、勇者アルス様が黙ってない。てめえはもう死んだ!」


 コモーノは泣きそうな顔で言った。


「俺たちに逆らうってことは、勇者アルス様に逆らうってことだ。勇者アルス様が必ずてめえを潰してくださる。この王都じゃ生きていけねえぞ。俺たちには勇者アルス様がいるんだからな!」


 ザーコがそう言うと、二人は走って逃げて行った。

 ……ふう。後でめんどくさいことになるかもしれんが、とりあえずこの場は治った。


「お嬢さん、大丈夫かい?」

 

 俺はフードの少女に声をかける。


「……もしかして、アラン先生?」


 少女がフードを脱ぐと、


「え? 俺のこと知って——」


 俺がそう言うと、


「アラン先生! 会いたかったですぅぅぅ!」


 少女が俺に抱きついた。

 


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