第9話 エルフの教え子、シルフィ

「アラン先生、すっごく会いたかったあああ!」

「うおふ……! 俺も会えて嬉しいよ、シルフィ」


 俺に抱きつている白いフードを被った少女は、シルフィ・レア。

 孤児院の元教え子の一人だ。

 長い金髪と、色素の薄い白い肌。

 きれいな髪から出た耳は、エルフの特徴だ。


「ところでアラン先生、ここで何してるんですか?」

「ちょっと……! アラン先生にくっつきすぎです!」


 エリシアが、俺とシルフィの間に割って入る。


「えー! いいじゃない。アラン先生と5年ぶりの再会なんだよ? もっとぎゅーっとしていたい。アラン先生成分ずっと不足してたんだから」

「ははは……シルフィは相変わらず元気だなあ」


 いろいろ柔らかいところが当たりまくっているぜ。


「えへへ。アラン先生の匂いだ。すっごく懐かしい」


 シルフィは俺の首筋に鼻をくっつける。

 まさか……俺の匂いを嗅いでいる?


「あ! 何やってるんですか!」


 エリシアがシルフィを俺から引き剥がそうとする。


「もう少しだけ!」

「ダメです!」

「おいおい。久しぶりの再会なんだから仲良くしなさい」


 ふう……エリシアのおかげで助かった。

 いくらオッサンでも、女の子に匂いを嗅がれるのは恥ずかしい。


 シルフィはエルフ族だ。

 魔王の放ったドラゴンに村を焼き払われ、たまたま森で彷徨っていたところを俺が保護した。

 エルフ族は気位が高く、他の種族とめったに交流しない。閉鎖的な種族だ。

 だから特別なケアが必要な子だった。

 最初は俺がつきっきりで世話をしていた。

 孤児院を巣立つまで、ずっと俺にくっついていた。


「アラン先生は、あたしのパパだもの。孤児院でずっとあたしの側にいてくれた。アラン先生と一緒に寝てたもん。 アラン先生が隣にいるとぐっすり眠れた」

「アラン先生と一緒に……寝てた……」


 エリシアは驚きすぎて、口をぽっかり開けていた。


「いやいや、勘違いするな。あれはその、子どもの頃の話で……」

「アラン先生が……シルフィとベットの中で……」

「子どもの頃の話、ね」


「信じられません……アラン先生がシルフィに襲われていたなんて……」


 エリシアは天を仰いだ。

 おいおい、なぜそうなる? 

 普通、逆になるのでは?

 流石に孤児院の子と一緒に寝るのはいろいろ問題があるからしていなかったが……

 俺が寝ているといつの間にか、シルフィが俺のベットに潜り込んできた。その度に俺は、寝ているシルフィを元のベットに戻していた。


「そうそう。アラン先生は襲いたくなるというか」

「何を言ってるんだ……」


 俺みたいなおっさんを襲いたいとか、どんな性癖だよ?

 昔からちょっと変わった子だったけど、感性が斜め上というか。


「アラン先生、そろそろ行きましょう。ちょうどランチの時間ですし、近くにおいしいドラゴンステーキのお店があるんです」


 エリシアが俺の腕を掴んだ。


「ドラゴンステーキ大好き! あたしも行く!」


 シルフィが大喜びする。


「シルフィはダメ! あたしとアラン先生だけで行くんです!」

「こらこら。仲間外れにしちゃいけない。同じ孤児院の友達だろ? 一緒に行こう!」

「アラン先生、優しい! 大好き!」


 シルフィが俺に抱きつこうとするが、


「抱きつくのは禁止です! あたしだって我慢してるんだから!」


 エリシアがシルフィを押しとどめる。

 ところで我慢って何なんだろう?

 まあ……ツッコミないほうがいいか。


「……そろそろ行こうか」


 ここは荒くれ者が集まる、冒険者ギルドの前だ。

 美少女二人に挟まれるオッサンを、冒険者たちが白い目で見ている。

 何だこのオッサン、みたいな。


「はい! アラン先生行きましょう!」

「アラン先生とランチ楽しみなのだ!」


 エリシアとシルフィに、ぐいぐい引きづられていく俺であった。

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