第10話 優しい先生が大好き!

「へえ……シルフィは召喚士になったのか」


 俺たちは、王都の商業地区の一角にあるドラゴンステーキの店に入った。

 横道に入れないと見つからない、隠れた店だ。

 勇者パーティーにいた時は、よく来た店だった。


「そうです。あたしは生き物好きだったから。たくさんかわいい召喚獣に囲まれてたくて」


 シルフィは俺が使役魔術でペットにした小鳥を、ずっと大切に世話をしていた。

 小鳥が死んでしまった時は、泣いて悲しんでいた。

 すごく優しい子だ。


「孤児院を出てから、王都の召喚士ギルドに入って、修行していたんです。いつかアラン先生みたいな立派な魔術師になりたくて」

「そっか……がんばったな。シルフィ」

「えへへ。アラン先生に褒めれらちゃった。あれ、して!」

「あれって?」


 シルフィは俺に頭を突き出した。


「すまん……何をすればいいんだ?」

「もお! アラン先生ひどい! いっつもやってくれたやつ!」


 あ、あれか……


「シルフィはえらいな。よくがんばった」


 俺はシルフィの金髪の頭を撫でた。


「あたし、いい子?」

「シルフィはいい子だよ」

「つっ〜〜! もっと撫でて」

「……あのーあたしもいるんですけど?」


 隣で見ていたエリシアが、呆れた顔をしていた。


「あ、悪い……エリシア」


 シルフィの頭から手を放そうとすると、


「ダメ! もう少し撫でてほしい」


 シルフィが俺の手を、がちっと掴んだ。


「はあ……シルフィは相変わらず甘えんぼさんね」


 ため息をついて、頬杖をつくエリシア。

 シルフィは孤児院でも甘えんぼで、俺やクリミアさんにずっとくっついていた。

 大人に構ってほしい子で、いつも教師の気を引くようなことをしていた。

 孤児院の屋根に登ったり、森の奥まで薬草を採りに行ったりして、よく俺を困らせていた。

 孤児院でたった一人のエルフだから、きっとすごく寂しかったからだ。

 普通の子なら危ないことをしたら叱るようにしていたが、俺はシルフィを叱ったことはなかった。


「アラン先生はシルフィに昔から甘いですよね」

「そうだな。甘くしすぎたかも」

「えー! あたしは優しい先生が大好きなのに! 先生もエリシアお姉ちゃんもひどい!」


 シルフィはええんっと、泣く真似をした。

 エリシアはシルフィより2歳年上だ。

 孤児院でエリシアは、いつもみんなのお姉さん役だった。しっかり者で、小さい子の面倒をよくみていた。


「お取り込み中すみませんが……ドラゴンステーキ定食3つ、お持ちしました」


 お店のマスターが、俺たちに声をかける。


「あ、すみません」


 俺たちは話に夢中で、マスターが料理を持ってきていることに気づかなかった。

 ドラゴンステーキ定食が3つ、テーブルに並べられた。

 香ばしい黒胡椒と肉の匂いがする。

 昔、高難度クエストへ行く前に、よく食べたなあ。


「あれ? お兄さん、どこかで見たような?」


 マスターが俺の顔を覗き込んだ。


「いや、このお店に来るのは初めてです。たぶん他の方とお間違えかと思いますが」

「そうですか……失礼しました」


 マスターは首を傾げながら、奥のカウンターへ戻った。

 ふう……バレたかと思ったぜ。

 昔、この店にはよく来ていたから、やっぱりまだ記憶にあったか。


「ドラゴンステーキ、おいしい!」

「おいしいですね」


 シルフィとエリシアは、うまそうにステーキをほおばっていた。


 




 

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