第11話 おっさん、店を守る

「ふう……おいしかった」


 久しぶりに食ったドラゴンステーキはうまかった。

 ただ、若い頃と違って後で胃に来そうだけど。


「おい! オヤジ! 今月の調子はどうだ?」


 ガラの悪い男が店に入ってきた。

 皮の鎧に、鋼の剣を腰に差している。


「はあ……最近はどうも不景気で」

「不景気だあ? そんなの俺たちには関係ねえ。さっさと今月分の《防衛費》を払いな」


 防衛費……?

 もしかして、みかじめ料を取ろうとしているのか。


「すみません……もう少し待ってもらえませんか?」

 マスターは震える声で、おそるおそる言った。

「待つ……だと?」


 男はマスターにずいっと近づいた。


「てめえ、誰のおかげで商売ができると思ってやがる? 俺たち勇者ギルド《栄光の翼》のおかげだ。俺たちが守ってやらなきゃ、こんなチンケな店、とっくに盗賊に潰されているぜ」


 胸甲に、フェニックスの翼の紋章がある。あれは、俺をかつて追放した勇者パーティー、栄光の翼の証だ。


「早くを金を出せ。 さもないと殺すぞ」


 男が剣を抜こうとした時、


「おい、待て」


 俺はとっさに立ち上がって、男の腕を掴んだ。


「なんだ? てめえは?」

「ただの客だよ」

「じゃあ、すっこんでろ」


 男は俺を睨みつける。


「相手は丸腰じゃないか。こんなところで剣を振り回すな」

「こいつが金を払わねえからだ」

「防衛費って、何の金だ? まさかみかじめ料のことか? 冒険者が店からみかじめ料を取ることは、王命で禁止されているはずだ」


 冒険者が店や個人からみかじめ料を徴収することは、王命で固く禁じられている。

 冒険者が人々からみかじめ料を取れば、冒険者ギルドに対する信用が損なわれるからだ。

 もしこの王命を破れば、厳しく処罰される。

 最悪の場合、ギルドに対する解散命令が出ることになっていた。


「ははは! いいんだよ。俺たち勇者ギルドは、特別に許されているのさ。なんせ俺たち《栄光の翼》は、王都防衛の要だからな」


 この男の言っていることは嘘だ。

 公明正大な国王が、勇者ギルドにだけそんなことを許すわけがない。

 現国王とは何度も謁見する機会を賜った。

 俺は国王を直接知っている。賢明な王で、勇者ギルドの圧力に屈することは有り得ない。


「死にたくなけりゃ、すっこんでろ。オッサン」


「嘘をつくな。国王陛下がお許しになるわけない。お前こそこの店から早く出て行け」


 俺は男と向き合った。

 濁った目で、俺を睨みつけたが、


「ぐっ……覚えてろよ。次は倍のみかじめを取るからな」


 男は店から出て行った。


 俺がギルドの入口で冒険者2人を倒した奴だと、男は気づいたんだろう。

 あの2人はBランク以上の冒険者だった。

 出て行った男は装備から言って、Cランク以下の冒険者だ。俺には勝てないと悟って逃げたのだ。



 



 

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