第16話 マギステル認定試験part3

「では、実技試験から始める」


 国王の命令書があるから、筆記試験は免除された。

 試験官のひとりが、水晶玉を俺の前にある台に置いた。


「この水晶玉に手をかざしてください。これで魔力量がわかります」


 水晶玉が怪しく輝いている。紫の光だ。

 これは魔力測定水晶だ。

 手をかざした者の魔力量が、水晶玉の中に数字で浮かび上がる。

 普通の魔術師なら魔力量は50前後。マギステルに合格するには、150を超える魔力量が必要だ。常人の3倍の魔力量が最低合格ライン。

 俺は魔力量を測ったことがない。田舎には魔力測定水晶玉なんてないし、孤児院に来る前はずっと冒険者だったから測る暇がなかった。


「誰だあのおっさんは?」

「アラン・ベルフォート? 聞いたことない奴だ」

「どうせ大した魔力量じゃないな」


 試験会場に、マギア協会の魔術師たちが集まってきた。

 かなり冷たい視線を感じる。俺は歓迎されていないようだ。どうせ不合格だと思われている。


「アラン先生ならきっと大丈夫ですよ!」


 エリシアが俺の手をぎゅっと握った。

 小さくて華奢な少女の手。

 エリシアの体温が手を通して伝わってきた。


「アラン先生は絶対合格なのだ! あたしは先生を信じてるっ!」

「ぐはっ……!」


 シルフィが俺の背中をドスッと叩いた。

 けっこう痛いぜ。

 でも、シルフィなりに俺を励ましているんだろう。

 

「ははは……ありがとな」


 俺は前に出て、水晶玉に手をかざした。

 会場にいる全員の視線が、水晶玉に集まる。


「俺の予想は……30くらいかな」

「あんなオッサンは、20がせいぜいだろ」

「えー! たぶん10がいいところよ!」


 魔術師たちは俺が不合格だと決めつけてるようだ。

 まあ、それが現実だ。

 どうせ俺なんて——


 バリンッ!


「え?」


 水晶玉が、真っ二つに割れた。

 キラキラした破片が床に飛び散った。


「こ、これは……まさか……魔力量が10000を超えている」


 試験官が震える声で言った。

 まるで恐ろしい目に遭ったような顔だ。


「ど、どういうことですか?」


 俺はおそるおそる試験官に聞く。

 もしかして、変なことやらかして、水晶玉を壊してしまったのか……? 

 ど、どうしよう。俺に弁償する金はない。


「この魔力測定水晶は、最大10000まで魔力を測定できる。それが割れたということは……アラン殿の魔力量は10000を超えている。古の大賢者マギアに匹敵する魔力量だ。いや、まさか、信じられない……」


 俺の魔力量が10000を超えている?

 嘘だろ……

 何かの間違いじゃないか。


「他の魔力測定水晶を使ってみよう。この水晶玉が壊れているかもしれん」


 試験官は他の水晶玉を持ってくるが、


 バリバリンッ!


 俺が手をかざすと、水晶玉はまた割れた。

 しかも今度は、粉々に砕け散った。


「あり得ない。10000を超える魔力量の人間がこの世にいるとは……いったい何者だ?」

「オロカ様の5倍も魔力があるぞ……」

「化け物かよ」


 会場がざわつく。

 冷たい視線から、恐怖の眼差しで俺は見られている。

 もっと穏やかに試験を終えたかったのに……


「こほん……魔力量は合格だ。次は戦闘力を見せてもらおう」


 試験官がビクビクしながら俺に言うと、


「アラン先生! すごいです!」

「すごいのだ! すごいのだ!」


 エリシアとシルフィが両側からぎゅっと抱きつきてきた。

 元教え子に賞賛されて嬉しいが、少し恥ずかしい。



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